三章 七節

 その日の夕方、ユウは厨房の勝手口で速達を受取った。クリスマスケーキの追加制作に追われる彼女は封筒をジーンズのポケットに突っ込んだ。レジではバステトとリュウが大勢の予約客へのケーキの受け渡しに追われていた。


 振られたのがクリスマスイブの前で良かった。デコレーションをしつつケーキを箱詰めするユウは瞳を伏せる。忙しさで悲しみを忘れるし恋人が居ないリュウと共に家族水入らずで食事が出来る。信仰の無いユウにとってクリスマスは共に居る人に感謝をする日だ。去年はシュリンクスとパーンと共に過ごした。ユウとリュウはケーキを作りシュリンクスは料理を、パーンは部屋の飾り付けやゲームを用意して互いに感謝し過ごした。楽しい想い出だ。今年はリュウとクチバシ医者と食事出来たらと心待ちにしていた事を想い出した。


 涙が頬を伝う。コックシャツの袖で涙を拭ったユウは箱詰めしたケーキをレジへ運んだ。


 日が落ちて予約客が捌けた。店を閉めてバステトにクリスマスケーキを渡し、三人で外に出ると雪が降っていた。ユウは白い息を吐き、夜空から舞い落ちる雪を眺める。


「冷えると思ったら道理で。ホワイトクリスマスですね。お二人とも良いクリスマスイブを」バステトはケーキの箱を抱え恋人の許へと急いだ。


「俺達も帰るぞ」リュウは雪を眺めるユウに声を掛けた。


 ユウは頷くとケーキの箱を提げて先を歩くリュウを追った。


 リフォームしたての家に入り箱を玄関のカウンターに置き、リュウはキッチンに立つ。


「ありがとう。リュウの料理美味しいから楽しみ」微笑むユウは速達を改める。


 琥珀色の瞳が見開かれる。差出人はクチバシ医者だった。鼓動が頭に鳴り響く。静かに深呼吸しユウは自室に入る。


 後ろ手でドアを閉めると筆跡を見つめる。恋しい想いと共に悲しみが溢れる。振った女へ速達を寄越すなんて何を考えているんだろう。レターナイフで封を切り便箋に眼を通す。


 読み終えた瞬間、便箋を破り捨てた。恋心を弄んで最低な男! 振った女なら傷つけてもいいって訳? 他の女に頼みなさいよ。私だって好きで処女な訳じゃないんだから!


 小さな拳を握り締めるとユウは唇を噛み、瞳を潤ませ涙を堪えた。

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