第9話 新名称
街から大きな音が消えうせるにはまだまだ時間がかかりそうに思えた。
俺は窓の外から見える地獄に心を曇らせていた。
「またあいつらが出てきたんだよな・・・・。」
俺は4年前の出来事を思い出しながら今の風景を見つめていた。
そんな風景を見ていると横から男の声が聞こえた。
「今より記者会見を行います。あなたも一緒にご覧いただきたい。」
この施設の従業員だろう。
俺は流されるままに彼の誘導に従い大広間に通された。そこの大きなテレビ画面のスイッチをONにしてその男は消えて行った。
「一体何なんだ?」
応接間特有の偉そうな椅子に座り、テレビ画面を見つめる。画面からは今の悲惨さを伝える報道が延々と流れていた。
現場の実況からスタジオに映像が切り替った。
「これから政府官邸より会見が開かれる模様です。」
画面の向こうのニュースキャスターの言葉の後にまた画面が切り替わる。
厳かな会場。そこに所狭しとメディアの関係者がカメラや音響機材などを手に持って今か今かと総理の登場を待ち望んでいた。
「これを見せてどうするってんだ?」
俺の疑問をよそに時の総理大臣が入場してくる。それと同時にシャッターがこれでもかと切られ、画面越しからも緊張感が伝わってくる。
そこからは総理の長々とした状況説明やら犠牲になった人への言葉を述べていた。
「今回のこの怪獣、グラディオンによる被害は4年前に起こったものとものと同一という見解が成されており、何らかの事情で4年前のように怪獣が出現し、我々の脅威となっているという事と断定されました。」
これまで俺たちがアンノウンビーストと呼んでいたものはグラディオンと呼称するらしい。
が、総理はそこから耳を疑う言葉を話し始めた。
「ですが、我々はこのグラディオンにやられてばかりではありません。」
一枚のフリップを取り出す。
「我々はこれに対抗せしうる組織を誕生させました。その名はレクイエム。先ほどの戦闘機や巨人もレクイエムの保持する戦力となります。」
俺はその後すぐに屈強な警備員に外に押し出され、混迷した街中をさまよっていた。
東京の街中からほんの少し離れ、被害からも少し離れたこの地でも人々は混乱の中をひたむきに歩いていた。
響き渡るサイレン。怒号。怪物の被害は少ないながらもビルの熱線による溶けた跡や倒れている人の救助なども俺には眺めることにしかできなかった。
ポケットに入れていた携帯電話が震えだす。
そっと取り出し、スピーカー部分に耳をあてる。
「もしもし」
「先生ですか?」
担当の岐部だった。
「よかったです!御無事で!」
スピーカー越しからも安堵の声が漏れていた。
「まぁ。そっちは?」
「会社が攻撃を受けましてね。社屋の3階が半分亡くなったと聞いています。」
・・・・。
俺は言葉を紡ぐことはできなかった。
「そうですか。」
そんな気遣い一つも出来ない言葉を捻り出すのに5秒もかかってしまった。
「先生は4年前のあの時どうなされていました?」
「え?4年前ですか?」
ふとした質問に驚いてしまう。
「新聞記者をして、その時は病院にいました。」
「病院ですか。」
これ以上は淳の事になってくるので正直語りたくは無かった。巨人たちの肖像という俺の書いた書籍はその時の事件を元にしているが世間にはあまり公表していなかった。
「まぁ、少し色々ありまして。」
「そうですか・・・。」
俺のつまらない返しに岐部もうなだれた返しをしてしまう。
「それよりも社屋は大丈夫なんですか?」
「こちらも確認したいところなんですが、今私出張でとなりの県にいまして・・・。ニュースさっき見てご連絡した次第なんです。」
申し訳なさそうな返事が返ってくる。
「こっちは気にしないでください・・・・・。何とかやってみます。」
そう言って電話を切った。
前とは違い、自分の日常を破壊されているような感覚に陥る。4年と言う年月が俺を平和ボケさせたんだと思う。昔の俺なら、新聞記者だった俺ならどうしていただろうか、そんな事すらも頭をよぎる。
俺は俺に出来ることを、と思い、救助活動を開始した。
「大丈夫ですか!俺、持ちます!」
「あー疲れた」
目の間にいる男の緊張感のなさには毎度毎度呆れていた。
基地内に戻ってきた俺たちはオフィスの廊下を次の仕事の場所移動のためにそそくさと歩いていた。
「で、今から会見でしたっけ?」
「そうだ。俺たちの事が世間に広まる重要なものだ。」
今から行われる会見は俺たちのこれまで、そしてこれからを決める重要な出来事であった、が、この目の前の男はあくびをしていた。
「大久保拓哉士官様よ、こいつで一体何が変わるってんだい?今までと行動内容は変わらんでしょうに。」
仕事はできるがいちいちうるさいのが玉に瑕だった。
「俺たちの行動を世間が認めることになるんだ、強制的にな。それは大きいだろ。別にお前のやることは変わらん。いつも通りでいい。政治をするものが忙しくなるだけでいい。」
「政治、ね。」
明後日の方向を向き、腑に落ちない顔をする。
「分からんことは任せておけ。お前は気のすむまま戦ってくれればいい。」
「好きになれないね、その言葉。」
少し膨れたように奴は不機嫌になる。
「まぁお前にもいずれは政治の波は押し寄せることになる。」
「へぇへぇ」
生返事が返ってくるが別にかまう事は無かった。いつもの事だからだ。
階段を下り、1階のロビーに出る。
この基地は4年前に比べ、何十も大きくなったがそれ故広すぎるという悩みもあった。
歩いているとあいつは少し気まずそうな空気を出していた。
昔からそうだ。長い待ち時間なんかがあると誰かと話していないと気が済まないたちなのだ。
そんなあいつを気にしながらも待たせてある俺とあいつは黒塗りの車に乗り込み、現地へと向かう。
車内でも様々考えることはあったがあいつは暇そうにスマホをいじっている。
「今から向かうところってあれだろ?近くに四朗あったよな?」
車内で今後の計画の事を考えているとまた暇な人間が暇なことを聞いてくる。
「あるよ。」
四朗とは大手のラーメン屋のチェーン店である。そのラーメン屋にはコアなファンが多く、店舗ごとに味が違うのもあってか連日盛況していた。
「まじか!」
俺の返事にテンションを上げる。
「行っていいか!いいよな!な!」
子供のようにはしゃぐ。
「まぁ好きにしたらいいが多分忙しくなるから無理だぞ。」
「まじかぁ・・・・・。」
先ほどまでのテンションはどこへやら。すぐに落ち込む姿は見えないが想像にたやすかった。
「あと少しで着くぞ。準備しておけ。」
気づいたら施設からかなり離れて高速道路を走っていた。
高速道路から見える景色からは先ほどの光景が広がっていた。倒れたビル、火を消す消防車、人を搬送する救急車、言い出したらきりがないが無残な光景だった。自分が戦う側だからこそ今の光景は歯がゆいものだった。
「昔から状況は何も変わっていない。」
ロシアで初めて遭遇してからもう10年近くになるがあの時と同じに見えた。街に被害が出てしまい、犠牲者が生まれる。そういったものを減らすために組織されたはずなのに何故・・・・・・
ネガティブな言葉だけが頭の中を蛇がのた打ち回るように駆け巡っていた。犠牲者の数くらいは減ってくれることを願っていた。
そんな事を考えているうちに車は高速道路を下り、普通の道へと変わっていた。場所まであと15分といったところだろう。
「今、気づいたんだけどさ。」
後ろの席の呑気ががまた語りかけてくる。
「夕日、きれいだなって。」
呑気の言葉の現状の掴めてなさには呆れたが、空を見上げると大きく輝くオレンジの空があった。
「俺たちが守った空だ。」
それだけは俺はなんだか誇らしかった。
車が会場前に止まる。
「着きました。」
ドライバーに言われると同時に車から降りる。
「ありがとう。」
一言礼を言い残し、俺と呑気なあいつは外に出る。
「さあ、今から仕事だ。」
そう言いながら俺は会場へ向かう。この世界のために。
「アポカリプス Xデイ」 山本友樹 @yamaki
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