第7話 正体Ⅲ
「知性?」
俺はその言葉を疑った。知性?どういうことだ?
「俺たちも詳しいことはまだ調査中だがそうとしか考えられん。詳細は省くがそういうことだ。」
「そういう事なのか・・・・。」
「よく考えてみるんだな。お前があの時1番そばにいたのだから。」
俺と拓哉の会話はそうやって終わっていった。青い巨人の物語、俺が1番そばにいて、見届けた、そんな自信はあった。そして
「お前はどれだけ儲けたんだ?」
「え?」
拓哉の言葉は話題を変えるには十分だった。
「何の話だ?」
「お前の代表作だよ。」
「ああ。俺の・・・、読んでくれたのか?」
「もちろん。俺たちをだしにして書いたものだったからな。どうだ?人の事を書いて儲けた金は。おいしかっただろう?」
「貴様!」
いきなり喧嘩を売られたような気がした。気がしたではない。こいつは昔からこういう所がある。人の心を逆なでする、そんなところが。
「何を食べた?ラーメンか?ハンバーグか?ウナギか?」
俺は胸倉を掴んでしまう。
「お前は人の不幸で飯を食べたんだ。それくらい嫌味を言われて当然だろう?」
「ふざけるな!俺はそんなつもりで書いたわけじゃない!」
「だが実際にはこうやって世に出回って賞を受賞してるわけじゃないか!その後お前はあいつの墓参りの、淳の、一つでもしたのか?」
「言わせておけば!」
かかか!と不敵な笑みをこぼす拓哉。
「俺は!俺の伝えるべき真実を伝えただけだ!お前たちが出来なかったことを俺がしたんだ!」
俺はその笑みに嫌悪感を示すしかなかった。
「正義・・・・か。便利な言葉だな。それ故にお前の言葉は非常にチープに聞こえる。」
「ふざけるなぁ!」
俺は殴りかかろうとする。
その時だった。
ウーン!ウーンとけたたましいサイレンが鳴り響く。
「どうやらここまでのようだな。」
拓哉はそういうと俺の手を振り払い、俺の顔を殴ってみせた。俺は転がるように部屋の角へと勝手に向かっていく。
「俺は貴様と違って一つのことに集中してるわけにはいかないのでな。つまらん喧嘩の続きはいずれしてやる。真実を見たいのであればついてこい。あのころとはすべてが違う。」
地面に突っ伏していた俺をよそに拓哉は部屋を出て行った。
「真実だと?」
俺は殴られた部分をさすりながらあいつの背中がなくなるのを追うしかなかった。
メカニック部門はサイレンがなると共に忙しくなる。それより以前ももちろん忙しい部分もあるが、サイレンが鳴ると緊張感がほとばしる。カタパルトデッキにいた私は胃が縮むような思いであった。
チューンナップは十分に行っており、自信もある。だが、実際に飛ばすとなると不安になることもある。
「無事に帰ってこいよ。」
私は戦闘機、サイグファイターを見つめながらそう祈り続けるしかなかった。
「おやっさん!」
後ろから声が聞こえ、振り返る。
「加古川か!」
振り返ると20歳前後の青年、加古川遊星がいた。
「おやっさん!飛ばせるんですよね?」
加古川の興奮した声が若さを感じさせる。
「ああ。お前さんのデルタだが報告書にまとめてあった通りだが前の時にあった操縦の癖からピントを2オンスほど右に傾けておいた。前よりも操縦しやすいはずだ。」
「さすがおやっさん!」
加古川の声のトーンが1つ明るくなる。こいつの乗るデルタ号は速さに重点を置いたマシーンだ。牽制の役割を持つマシーンだからこそ操縦者の癖に合わせたメンテナンスをしなくてはならない。
「お前、報告書読んでないのか?」
「いやいや読んだっすよ。目を通すくらいには。」
「しっかり読まんか!」
自分の声が少し怒ったような口ぶりになってしまう。
「俺はおやっさんの事信頼してるっすから!」
加古川からの声が少し私をドキッとさせた。
「そういう所だぞ!加古川!」
「え?何がっすか?」
無自覚なのがより・・・・。
「とにもかくにも死ぬな!どんなにマシーンをぼこぼこにしても構わん!必ず完璧にする!だから!帰ってこい!お前は少しおっちょこちょい・・・・」
私のこのような発言をさえぎり
「分かってるっすよ!おやっさんの娘さんと結婚したいっすから!」
そういい彼は飛び出していく!
「お父さん!」
そうセリフを残し、彼はデルタへと乗り込んでいく。
次にアナウンスの声がカタパルトデッキにはこの部隊の隊長である太子倉之助の野太い声が響く。
「メカニック長。あのフォーメーションはまだ使用不能ですか?」
彼は私の事をメカニック長と呼んだ。
「まだ無理だ。ソフトの方が追いついておらん。その場の勢いでやっても空中分解が関の山だ。」
私の声にアナウンス越しで無言の悩ましさを感じた。
「分かりました。聞いたな、里香、遊星。」
が、彼はいつもの調子を取り戻したように他の隊員に伝える。
「里香さんはまだ乗り込んでいません!」
アナウンス越しの会話には加古川も入ってくる。
「遊星、先行してくれ。10秒後に私も出る。」
「了解っす!」
加古川のその声と共に私がいる1番カタパルトデッキのシャッターが開いていき、大空が垣間見える。
「加古川遊星、行きまーす!」
加古川の乗るデルタは最大噴射と共に飛びだっていく。
「おやじさん!」
アナウンス越しに女性の声が聞こえる。この部隊の紅一点、赤穂里香の声だ。
「お前、また、か?」
隊長の声が少し呆れていたような気もした。
「女は化粧が命、そういう事。おやじさん、私のは、7フルトン重くしてってオーダー、通ってますよね?」
おやじさんとは私の事だ。
「もちろん。里香、お前も急ぎすぎる癖がある。気をつけろ!」
「はん!上等!赤穂里香、出る!」
違うカタパルトデッキから里香のベータが出撃する。
「私も出る!」
隊長のマシーンであるガンマが出撃する。
「生きて帰れよ。」
私から言えるのはそれだけであった。
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