第6話 正体Ⅱ
俺の目の前に赤い巨人が現れた。先ほどまで一緒にいた男が巨人となったのだ。淳以外の人間が巨人となったということなのか?俺は理解が追いつかなかった。
UBと巨人の戦闘が始まった。今回のUBは3つの目があり、手が鎌のようになっている二足歩行だった。
赤い巨人の戦い方はインファイトに見えた。相手を誘い込み自身の得意な距離になれば一方的に攻撃を仕掛ける。そんな戦い方に見えた。
だが巨人は暴れまわるように戦っていた。UBをビルに叩きつけたり街への被害を考えることなく戦っていたのだ。誘い込むのは誘い込んではいるのだがそこからはなんでもありの変則マッチへと変わっていく。UBの顔面を掴み、ビルに叩きつけたり、そこから壊れた大きなビルの破片をぶつけたり、ひどいものであった。
「街への被害を考えてないのか!」
そこに戦闘機の援護射撃が入る。ここの連携は見事だった。一発も巨人に誤射することなくUBへと命中させる。
この状況に俺も身の危険を感じ、物陰に隠れることにした。
「淳・・・・」
俺はもういない人間の事を考えながら今の状況を眺めることしかできなかった。
戦闘機のモニター越しには1体の化け物、巨人が大きく映し出されていた。だがモニターには1つ小さい男の姿があった。先日から報告があった一般人、確か名まえは隆だったか?
「畜生!あの男やっぱ邪魔っすよ!危うく殺してしまったらそうするんですか!」
コンドルからの通信はごもっともという感じではあったがそうはいかない。まだ世間に公表する前に何かあっては遅いのだ。
生憎化け物は巨人と戦ってくれているお蔭でこちらには目も暮れず戦闘機から攻撃ができている。だが今後どうなるか分からない。相手だって何か裏があるかもしれない。
「そう言うな。ミソがついてはならんだろ。」
だって!と言い返してきたがスワンから通信の割り込みが入る。
「あんた、プロのパイロットでしょ?だったら相手に命中しないようにがんばりなさいよ!それすら出来ないって言うの?」
「スワン、言い過ぎだ。」
2人はいつも言い争う。それがいいところであり悪いところだったが今回は悪いほうへと転がっていきそうだった。
「2人とも!今は共同で撃破を優先!それ以外は口にするな!いいな!」
俺が強く命令することで2人は了解!と指示を返し、上空からの再攻撃に移った。
「ファイヤー!」
俺の掛け声と共に各機体から化け物へ攻撃が加わる。化け物への格闘中の巨人には当てないように細心の注意を払いながら機銃による攻撃は攻撃は命中していく。そして一般人は物陰へと隠れていった。いい判断だと思う。
ここで巨人の動きが少し変わった。合図だ。
「全機プランB。衝撃に備えろ!」
プランBと指示すると全機は上空へと避難するように逃げていく。
巨人は叩きつけた化け物から少し離れ、巨人の腕から大きい光のエネルギーを発現させる。
そしてそのエネルギーが放たれた。そのエネルギーは化け物の体を焼く。焼き尽くしていく。
その体は恨めしく蒸発していく。そして臨界点を迎えたとき爆散していった。
「全機、任務完了。・・・・と言いたいが追加任務だ。あの例の男を確保せよとのことだ。」
俺はまた指示を出す。これが物語の始まりとなることはこの時は予想もしていなかった。
UBを撃破したことを確認して俺は物陰から出てくる。半壊したビルが生々しく残骸となっているところを見ると今までの光景が嘘じゃないという事を分からせてくれた。
「まるで地獄だな。」
俺は今の状況をぼそっとつぶやいていた。
3機の戦闘機はまだ空を飛んでいる。状況確認でもしているのだろうか。
そのうちの1機がこちらに降りてくる。低空飛行になり、速度を落とし、車輪を引き出して俺の目測10mほどのところで着陸する。コックピットから1人の男性が出てくる。
「あんたが例の人間っすね。いやぁ、マジで迷惑かけるのはやめてほしいっすね。マジいい加減にしてくだせえ。」
男は降りるなり俺に話しかけてきた。
「俺に言っているのか?」
「そうに決まってるじゃないですか。日本語分かりますよね?」
中々挑発的な態度を取ってくる男性だった。
「悪いが俺は作家だ。お前よりは・・・・」
と俺が言いかけた時だった。
「そうですかい!」
男は俺に殴りかかってきた。
バキ!俺は殴られ地面に伏せる。
「何しやがる!」
俺は立ち上がり文句を言う。
「うるせえ!」
男は構うことなく俺に向かってくる。
あれ?
俺は目を覚ました。右頬と腹からとんでもない痛みを感じた。
辺りを見渡すとコンクリートで固められた部屋にいたことだけは分かった。うす暗くついた部屋の明かりだけが自分の居場所を示してくれていた。
この感じ、デジャブを感じた。5年前、初めてsignalという組織と接触した時の事だ。機密保持のために眠らされた俺が目覚めた先は何とも怪しげな部屋で天の声とも言うべき男の声が聞こえただけだった。
というより俺はなんでここにいる?そういえば俺は男に殴られて・・・・・。
「目が覚めたみたいだな。」
どこからかアナウンスが流れてくる。冷淡な男の声だ。
「もうこのシュチュエーションには飽き飽きしていてな。早く概要を話してくれると嬉しいんだけど。」
俺は殴られた痛みに耐えながらも少しばかり、口だけではあるが反論してみせた。
反応は無かった。漫画でこのシーンを再現したのならシーンという言葉が書かれていると思う。
「おい!聞いてるんだろ!おい!」
それでも反応は来ない。
その時、ぷしゅーと気の抜けた音が響く。そこから光が差し込まれ、人影がシルエットとなり「扉が開いた」のだと分かった。
「久しぶりだな。」
男の声が聞こえた。
聞き間違えることができない声だった。
「拓哉・・・・。」
部屋の電気がつき、声の主が黒柳拓哉と分かるのには一瞬あれば十分だった。
「久しぶりだな。あの時もっときちんと挨拶しておくべきだった。」
不敵な笑みを浮かべながら俺に語りかける。俺はそんな陽気な気分ではなかった。
「ずいぶん不機嫌そうじゃないか。」
俺の心を察したように拓哉は話しかける。
「分かってるならさっさとほどけ。」
俺は無駄口を叩くつもりは無かった。
「せっかちな奴だ。」
拓哉はそう言い、手を二回鳴らした。そうすると奥から2人の仮面の人間がはいってき、手際よく俺の結ばれた紐をほどいていく。自由となり、少しの違和感を覚えつつ立ち上がる。
「ここは一体どこなんだ?」
俺の問いかけに拓哉はまたも不敵な笑みをこぼす。
「新たな根城さ。」
根城?
「あの時、黒い巨人と戦った際、signalの施設は消滅した。だが、生き残った数人は諦めちゃいなかった。残った資料をなんとか担ぎ出し、新たな場所で戦う事を決意した。」
「ちょっと待ってくれ!あの時、黒い巨人を倒した時に戦いは終わっていなかったとお前は分かっていたのか?」
「いや、その時はそこまでは感じてはいなかった。だが、こんな事であいつらが大人しくなるとも思ってはいなかった。」
拓哉の言い回しの不思議さを感じながらも話は続いていく。
「だがあの施設を失った事で大きなことが分かった。」
「大きなこと?」
「ああ、奴らは知性を持ち、成長を続けているということだ。」
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