第5話 正体Ⅰ

「お、奴さんおいでなすったみたいだ。」

男はポケットから赤いクリアな石を取り出す。500mほど先にはUBが見えていた。

「まだだ。」

その動作を横から見ていた男が口を出した。男はビデオカメラを手にしていた。

「メインディッシュは取っておくって事か?」

「スポンサー様からのご意向だ。」

「なるほど。ゲージもMAXまで貯まっていないしそんなもんか。」

二人の会話はたから見ればかなり奇妙なのだと思う。

「三機とも出撃したみたいだ。今回はよりよい成果を期待したいもんだ。」

「前の時は仕方ない。初陣だぞ?」

「俺もそんな責めちゃいねえよ。」

石を持った男は駆け出していく。

「おい、まだゲージは貯まってないのだろう?」

ビデオカメラで男を撮影しながら確認した。

「ああ。まだもう少し必要みたいだ。」

「ならここで動いても意味ないぞ?」

「違うんだよ。昨日さ、やっとこさ、シン・カミラだっけ?ちょっと前に流行った映画あったじゃん?見たのよ。いや~すごくてさ。特に下から煽って見上げた先に怪獣がいるの!あのシーン、感動しちまってさぁ!」

石を持った男は小学生のように目を輝かせながらしゃべる。

「要はその場面を自分の目で見たいって事か?」

「そういう事。んじゃ行ってきま~す」

男は駆け出す。

「死ぬなよ。」

そう言ったビデオカメラを持った男の声は低くシリアスだった。

「皮肉か?」

石を持った男は軽やかに言葉を返しダッシュしていった。





俺はまた怪物を撮影していた。5年前と全く同じだ。俺は巨大なそれをファインダー越しからのぞき込み、データにする。何も変わっちゃいなかった。後ろから撮影していたが怪物はシャッターに気づくことなく闊歩していた。

「戦闘機?」

上空から戦闘機が飛んできた。ワイドショーで報道されていた所属不明の機体だ。

「あいつらも来たのか!」

3機は編隊行動を取りながら機銃をぶっ放す。その弾丸はUBの大きすぎる巨体にでたらめに命中していく。

避難はまだ終わっておらずさすがにUBの近くで写真を撮っているような人間は俺しかいなかった。

「非難した人間の事を考えて攻撃しているのか?」

俺は戦闘機を疑った。実際に俺以外に周りに人がいなかった。

爆音が鳴り響く中、俺の隣に1人サングラスが似合う男が立っていた。

「お、あんたもシン・カミラ見たくち?あれいい映画だよなぁ!」

男が何を言っているのか俺には分からなかった。




「隊長!なんか一般人が紛れています!このまま攻撃開始してもよいのですか?」

機体の無線を通じて俺に通信が入る。コンドルからだった。

「避難は完了しているはずだ。何を寝ぼけたことを言っている!」

俺はそう叱責し、通信を切ろうとした。その時だった。

「本当だ・・・・。」

確かにそこには男がいた。2人いたが1人は知った人間だったのでこちらは気にしなかった。(知った人間がそこにいるのもおかしな話だが)だが俺は冷静に対応する。生体レーダーに画面に映る謎の男をかける。結果は明白だった。

「コンドル!例の奴だ!構わん!攻撃を開始する!スワンも聞いたな!」

「了解!」

2人の声が重なる。

3機の戦闘機による一斉射撃が始まった。標的は街を脅かす化け物、UBだ。

機銃から放たれる弾丸は特殊な細工を施してあり、通常のものとは弾丸の威力は何倍も違うものになっていた。

「やはり効き目は薄いか?」

でたらめな命中はしたもののUBは構うことなく街を散歩するかの如く闊歩する。

「ゲージは上がってないってことですかね。」

スワンからの通信はもっともだった。

「ゲージが上がる前に俺たちで倒しちまえば!」

3機で編隊を組んでいたが見かねたコンドルが先陣を切って再度攻撃を行った。

機銃から弾丸は放たれる。

「コンドル!無茶はよせ!今はとにかくゲージが溜まるまで待て!」

俺はコンドルを諌めるように言い放つ。

「そうは言っても!」

コンドルは我慢できなさそうにしていた。

「俺は今命令を出した。その意味が分かるはずだ。」

俺は一層声をシリアスにしてコンドルに伝える。

「り、了解っす・・・。」

コンドルから悔しそうな声が漏れる。

スワンから通信が入る。

「そろそろ来ますよ。」

これが合図だった。





「は?」

「いやね、あんたもあの映画見たからここにいるんでしょ?いいアングルだったもんな、あれ!」

男は俺に何を言っているのか分からなかった。

「お前!危ないことやってんだぞ!分かっているのか!」

ここはUBまで30mといった危険地帯もいいところだった。

「あんたこそ大丈夫なのか。ん・・・・?」

男はじーっと俺を見つめた。

「なるほど。あんたがあの!」

男は俺の顔を見つめた後、何かを自己完結したようだ。

男のジャケットの右側のポケットから赤い光が漏れ始める。

「どうやらゲージが溜まったみたいだ。」

男は差し込む光に手を入れ、赤い石を取り出した。

「あんたもこれ以上は命の保証できない。とにかく離れな!危ないぜ!」

男は赤い石を大空へかざす。

その瞬間だった。男は赤き光に包まれ、「変身」を遂げていく。

「巨人・・・・?」

俺はそう呟いていた。

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