第3話 復活 後編
「風が吹く。」
少女は長い髪をなびかせながらそうつぶやく。
周りの物音が激しい。地震のように思える。だが少女は微動だにしない。
「邪悪!」
何かを感じ取り少女は叫ぶ。
「赤き邪悪!」
少女の顔が歪んでいく。憎悪に満ちたその顔。少女の顔はキレイに醜くなっていく。
「人間はやはり滅ぼさなくてはならない!」
「博士、司令だっけ?どうするよ。そろそろ経験値十分になるんじゃない?」
男から見える風景にはジェット機がUBを攻撃する姿が見えていた。
「いいだろう。だがUBは極力原型は留めろ。今は情報が不足している。肉塊でも何かの役に立つはずだ。」
拓哉は男に指示を出す。その拓哉からの言葉を待ってましたというようにおもむろに男はポケットから赤いペンダントを取り出す。
「んじゃ給料分は働きますか~」
赤いペンダントを大空にかざし、ペンダントが光輝く。
そうすると男はペンダントの光に包まれる。
光は遠くの場所、戦場へと。男を運んでいく。
見上げた先にいた巨人は赤いシルエットということは分かった。5年前は青いシルエットだった。何故色が変わっている?という疑問は至極当然のように湧いたが今はそんな事は頭の隅に移動させた。
それより何よりも気になったのが巨人は何者なのかという問題だった。
巨人になれるのは淳しかいないはずだ。ということは
「淳なのか?」
俺は赤い巨人に5年前に死んだはずの名前を問いかける。巨人は構うことなくUBと戦い続ける。
UBの触覚らしき箇所を手刀で思い切りブチ切る。すかさず顔を思い切り殴りダメージを追撃させた。
「淳なのか?」
俺はもう一度巨人に問いかける。
戦い方がまるで違う。青い巨人は必死に戦っていた。だがこの赤い巨人は違う。急所と思える個所を確実に潰すように戦っている。戦い方からプロフェッショナルな部分をにおわせていたのだ。
「だけどあいつしか淳しか・・・・」
混乱してきた。淳は死んだ。確かに死んだのだ。じゃあ誰が?他に誰もいないはずだ。
巨人はUBに蹴りをいれる。腹に入ったその一撃はなかなかに重かったのだろう。UBは悶える。
「お前は誰だ?」
巨人に問いかける。もちろん答えなど返ってこない。
巨人の赤い腕がより一層の赤みを帯びる。クリアカラーにも見える腕は熱を帯びているのか熱気を感じる。
その右腕を大きく振りおろし、巨人めがけて一撃!
腹に命中した拳は腹を突き抜け、腹をえぐっていた。
そのえぐった範囲もおかしかった。巨人の腕の4倍の面積はえぐっていたのだ。UBの腹には大きい円のように穴が開いていた。
UBはそのまま倒れ込み、ノックアウト、勝負はついたのだった。
俺はその光景を見つめながら警察官に取り押さえられその場を後にした。
警察官が俺を取り押さえたのには理由があった。
UBが現れた際、周辺には立ち入り禁止区域が指定され、多くの人が避難を開始していた。
それに逆上するかのようにUBに向かっていった俺は警察サイドからすればかなり厄介な人間だったのだろう。実際に俺以外の人間も何人かはSNSでの話題のために接近し、写真を取ろうとした人間もいるらしい。
俺は今警察署の取調室で取り調べを受けていた。「何故あの場にいたのか」ということを徹底的に問い詰められた。「危ないでしょ?危険でしょ?」という警察官の注意はもはや非行行為を行った不良少年を叱りつけるような口調であり、成人男性に放つ口調ではなかったため少しした辱めを受けているような感覚になった。
「作家としてリアリティのある描写のために・・・・」
という事を話せばどうにかなった。幸い代表作と似たような描写はあったので何も疑われることは無かった。こういう事を言って多少許される部分に関しては作家になってよかったと思えた。
警察での取り調べが終わった後は病院にて強制的に検査を行われた。UBに周辺にいた人は全員何か毒などに感染していないか検査しているらしい。何度もUBとの戦いを見届けてきた俺が今日の今まで何ともなっていないのだから検査など必要ないとも思ったがそうはいかず渋々検査は受けた。
その日の検査に来ていた人物はどうやら騒動の際に現場の近くにいた人たちがここにいるらしい。
周りを見てみる。なんというか品は感じない。ちゃらちゃらした若者が多く、その中に自分がいるというのは恥ずかしいものがあった。
待合室でもぎゃあぎゃあやかましく、カップルで来ている人間に関しては病院内でも携帯電話をところ構わず使用しており、見ているこちらが恥ずかしくなった。彼らが二十歳になっていない事を願うばかりだ。
その後きちんとした検査を受け、現在分かっている点では何も体に異常がないということは分かった。
後は待合室でワイドショーを見るくらいしかやることはなく、ボーっと見るというよりは眺める程度にテレビを見つめていた。
連日の内容はもちろん巨人についてだった。「あの巨人は何者か?」「5年前に現れた青い巨人とは別物なのか?」など解決するはずもない問題をさも知っているかのように話す司会者やコメンテーターには少し嫌悪感を抱いた。
そしてワイドショーではもう1つ話題が上がっていた。
上空を飛んでいた戦闘機はなんだったのか?というものだった。
SNSで投稿された写真を様々な角度から専門家が分析していたが答えは出なかった。
上空を飛ぶのは自衛隊の機体になる訳だがその自衛隊が使用している機体とは全くシルエットだったのだ。
自衛隊に問い合わせるものもいたらしいが結果的に答えにたどり着くことは無かった。
「俺が何年経ってもたどり着けなかった話題なんだ。そうそう答えを出されてたまるかよ。」
俺はそんな事を一人ごちながらフッと笑っている自分がいた。
「無事でしたか!」
待合室をうるさく入ってくる一人の男性がいた。
声で分かった。担当だった。あの時彼はUBから一目散に逃げていた。
「ちょっと!病院でうるさくしないんで欲しいんですけど!」
さきほどぎゃあぎゃあやかましかったカップルがこちらに注意をしてきた。どの口がいっておるのか。大人の対応として会釈だけは返しておいた。
「先生、あの時はどうなることかと思いましたよ!」
担当は俺の安否を心配していたが多分心の奥底では俺の作品の心配をしているんだと思う。
「とにもかくにも無事でよかったです。出版社も無事なので検査に異常がなければ打ち合わせしてた件についてご回答を頂けるといいのですが」
担当は淡々と仕事を進めたいように思えて俺は少しイラッときた。仕事なのは分かっているがそういうのは違うと思えた。
「悪い、構想はあるんだがいまいちいい感じに進んでなくて。時間をくれないか?」
俺はそう担当に言い、こうなった事態にて俺のやるべきことをするべきだと思い、元新聞記者としての使命みたいなものを思い出し、巨人の事についてもう一度調べることにした。
「そういう事でしたら私から上に相談しておきます。」
「いいものを書くためなんだ。すまんな。」
担当のこういう所は頭が柔らかくて助かった。
構想は決まっていた。老人が街の奇妙な事件を横暴な少年と共に事件を解決していくというものだった。
病院を出て、俺は自宅へ戻る。今からやることは1つ。巨人についての調査だ。
そこで俺は取材でこちらに来ているという1人のある人物にコンタクトを取ることにした。
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