第2話 復活 前編

「お前!生きていたのか!」

俺は思わず声を上げてしまう。単純に嬉しかった。

「生きていたさ。先生こそお元気なようで。」

奴からの返しは独特で彼らしさを感じた。

「先生なんてよしてくれよ。」

俺はあまりにも嬉しくて笑みが止まらない。

最近は原稿に追われていたこともあり久しく笑っていなかった気がする。

「先生は急がなくていいのか?走ってたってことは急いでるんじゃないのか?」

拓哉の言うとおりだった。

「そうだった!会えて嬉しかったよ!またどこかで!」

俺は急いで駆け出していく。今日の仕事もうまくいきそうな気がしてきた!





「へえ、あれが噂の・・・・ねぇ。」

隆と別れた後、すぐ後ろから1人の男がつけてきていた。

「お前、きてたのか。」

「博士、そう怪訝な顔をなさるな。」

男はへらへら笑う。

「別に怒ってなんかいないさ。あと今日からは司令と呼べ。」

「そんな事よりさ、博士、よかったの?あの人とは浅からぬ腐れ縁でもあるんでしょ?もっと話してよかったんじゃない?」

「無駄口を叩いてる時間は無い。お前ともな。」

男はそう言われると一瞬だけムッとしたあとににこやかな笑顔に変わる。

「博士の言うとおりだ。それじゃ行きますか。」





打ち合わせが始まる。編集との打ち合わせ内容は今後の展開について。そして

「漫画の原作を担当ですか・・・・?」

新人作家の俺に舞い込んできた仕事にはあまりにも荷が重すぎる仕事だった。

「こちらコーヒーでございます。」

このタイミングで店員が頼んでいたコーヒーを持ってきた。

「仕事引き受けますか?月刊連載の作品になるので負担になるとは考えにくいですが」

昔から漫画もアニメもよく見ていた。そして今も国民的なものなら見ている。

「ちょっと考えさせてください。」

すぐには決められなかった。今の執筆スケジュールを加味しても全然余裕だった。が、媒体の違うものとなると苦労が違った。

「先生の事ですからすぐに引き受けると思っていましたのに。」

編集が残念そうな声を出す。

「いや、あのね、別に引き受けないって決めたわけじゃないから。考えさせてってだけだから。」

編集者とういうものはどうもせっかちな生き物らしい。

どこからか騒音が聞こえた。

それと同時に外からきゃーっ!という声があふれかえる。奥の席に座っていたが外が気になり窓を見る。

そこには人という人が逃げている光景だった。

「ドラマの撮影にしては大がかりすぎやしねえか・・・・?」

俺は疑問を感じ、外に飛び出した。

逃げ惑う人々とは逆方向に目を向ける。

「嘘だろ?」

俺は目を疑った。

そこには20mほどの巨大生物がそこにいたのだ。




「あちゃー、でちゃいましたか。」

男はきゃきゃっと笑う。横にいた拓哉はムッとした顔をした。

「やっぱ調査隊って意味ないんじゃね?ギャラ落とそう?」

男は今おかれている状況とはまったく逆の反応をしていた。

「調査隊は十分に仕事をしていた。少し前に俺の端末に情報が入っていたのだからな。」

拓哉の返しに男は少し驚いた顔をした。

「給料泥棒の名は多少は返上してたわけね。でもその顔じゃ取り逃がしたって事でしょ?」

男の言葉は図星だった。

「そうだな。だが奴らは人間じゃない。ということは分かった。俺たちの幅で考えてしまってしまっていたのが敗因だな。」

男はそれを聞くと先ほどより大きく笑う。

「お前の出番はもう少し後だ。ここからの眺めをもう少し味わっておけ。」

「経験を積ませたいって事ね。」

男の発言に大きく頷く拓哉。

「怪獣映画は今の年に見ても響くものがあるからね。エンターテインメントしてくれよ?皆の衆。」

拓哉と男から見えた風景には怪獣が街を壊していくフィクションではなくリアルだった。

「た~ま~や~なんつって。」





「アンノウンビースト!」

俺は外に飛び出して30秒ほど経つがそこに突っ立ってしまっていた。UBとの距離は3kmほどだろうか。蛇に睨まれた蛙なんてよく言ったもので、俺はそこに立ち尽くすしかなかった。

思い出す。1人の少年との思い出を。1人の少年が成した激闘を。1人の少年の人生を。

「あいつの戦いは全部無駄だったのか・・・・?」

俺はそんな言葉を口にだしていた。

「先生!こんなところで何やってんです!」

編集が俺の腕をつかみ逃げていく。

「俺たちの戦いは・・・・?」

俺はあの激闘を思い出す。あれだけ悲しい思いをしたのにもう一度繰り返すのか?

「先生!何言ってるんですか!」

編集が俺に叱咤し、俺と共に人々と同じ方向に逃げるが俺はただただ虚無になりつつあった。

「うわぁ!」

俺と編集がこける。

「なんだ?」

一目散に逃げていた方向とは逆の方向を見上げる。

UBに対しジェット機がミサイル攻撃をしている。右からやってきた機体は内臓されている機関銃で攻撃を加えており、火花と爆発が絶え間なく起こっていた。

「攻撃だと?まだ逃げ遅れている人だっているはずだ!」

俺はそんな事を口走っていた。

「先生!いいから!」

編集に促され、もっと遠くの場所へ逃げようとするが、俺はそれを振り切った。

「お前は逃げろ!俺はやらなきゃならない!」

何かの使命感に駆られるかのように俺は駆け出す。

「先生!先生!」

編集の声が聞こえなくなるのは時間の問題だった。

「俺は全ての戦いを見届けてきたんだ!奴のためにも!俺が!俺が死んでいないのなら!あいつの分まで俺が戦わなくちゃいけないんだ!」

俺は走る。人の流れに逆行しながら。

人、ビルの残骸、壊れたあれやこれ、ジェット機による攻撃。様々なものが周りにあったが俺の欲望の前では全て無いものに等しかった。

「!」

その時だった。

大空より1つの「何かが現れた。」

それは一言で言うなら希望だった。俺が何度も見てきた希望。

「巨人・・・・!」

夕焼けの空に逆光し、シルエットしか分からなかったがまさしくその姿は巨人だった。

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