@rikky2

第2話 何故 ( 山上玲奈)

「おはよ!」いつも通りの朝の電車。外は真緑の景色。私は大好きな男性アイドルの音楽を聴いて、スマートフォンを操っていた。

イヤホンを外して、声のする方を振り向くと、クラスメイトの山下拓人が立っていた。

慌てて、スマートフォンをポケットに入れて、「おはよ!」と私は笑顔になる。

「今日の1限の古典の小テストって、どこが範囲だっけ?」山下は私に尋ねる。

「確か36〜40ページだよ!」大丈夫。間違ってない。昨日の夜必死に古文単語帳をめくっていたから、即答で答えられる。

「おー、ありがと!さすが山上。本当に真面目だよな。」

「まあね〜、真面目が取り柄だから。」私は笑う。

「よし、希美にも教えてやろ。あいつ絶対小テストある事すら知らないからさ。」山下はスマートフォンを取り出して、何かを打ち始めた。

「希美はいつもギリギリだからね〜!」私は笑う。

「本当だよ〜、あいつが前もって準備する時って楽しい行事の時だけだからな。遠足とか、修学旅行とかさ。」そう言いつつも、山下は微笑んでいる。

いいなあ。もう何度目だろう。希美が羨ましくて仕方ない。

秋月希美は私の親友だ。高校1年生の時、友達ができるかできないかで不安ばかりだった私に希美から声をかけてきた。

「ねえ、名前なんていうの?」たったそれだけなのに私は何故か希美とは仲良くなれそうだと直感で思った。

希美は、見た目も普通だ。それなりにかわいいけど、目立つようなかわいさではない。スカート丈も校則に違反しない程度の長さ。性格も、明るく、誰に対しても平等に接する事ができる。こういう子が1番私には合っているのだ。

何のトラブルもなく、ある意味刺激もない穏やかな日常が暮らせる。私はそれだけで良いのだ。

中学校の時、私のクラスは荒れていて、いじめが多発していた。いじめを主導するのは、クラスで1番権力のある子で、その子に嫌われたくないからみんな何も言えずに、自分がいじめられない為に、人をいじめる。私もそのうちの1人だった。いじめられていた子は、権力のある子に対して物申したからだ。大人しくしておけば、いじめられなくてすんだのに。

私ならそんな不器用な生き方はしない。いじめられないようにするには、大人しく平凡に生きていればいいのだ。だから、私は自分と似たような平凡な女の子と仲良くしようとその頃から思っていた。

最寄り駅の「高宮駅」に着いて、山下の隣を歩く。外は晴れていて、5月らしい程よく暖かい風が吹いていた。

山下は、隣で必死に古文単語帳を見ながら歩いている。

「ね、問題出してよ。」山下は私に単語帳を渡す。

「わかった。」私は単語帳を受け取り、問題を出していく。

一つ一つ本当に悩みながら解答しようとする山下。その横顔は小学校の時から全然変わっていない。

私と山下は小学校からずっと同じ学校だった。「山上」と「山下」。出席番号は毎度近い。クラス替えをしても、ほとんど同じクラスだった。だから、私と山下は4月の席は毎回前後か隣だし、私が一番気楽に話せる男子だった。最初はそれだけだった。

でも、小学6年生の修学旅行の時に、女子部屋で、クラスメイトの女子が山下の事を好きだと堂々と言っているのを聞いて私は心が苦しくなった。もしも、山下がこの子と付き合ってしまったらどうしようと思った。それを嫌だと思う自分がいた。そこで私は気付いた。私は山下の事が好きなんだと。

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