第29話 初めてのデート
アカリが部屋を出て行ってから数分後、俺の携帯電話に一通のメッセージが入る
送り主はアカリで内容は部屋に忘れ物をしたから取りに行くとのことだった。
「そんな忘れ物するぐらいこの部屋に滞在してたっけ?」
部屋の周りを見回してもアカリのものらしいものなんてどこにもないのだが、ふと深呼吸をする。
……と言うか俺はいったいどんな顔をしてこの後アカリにあえばいいのだろう。
冷静に考えてさっきの俺は仮にも気になって異性に対して割と最上級クラスの最低なことをしてしまった気がする。
告白してきた男の家に上がったら他の女との婚姻届けがありましたなんてネタで済まされるはずがない、何なら殺されても文句は言えないだろう。
「とりあえず何発か殴られる覚悟は決めておいた方がいいかもしれないな……」
とりあえず俺は気持ちを落ち着かせるためにコーヒーでも飲んで冷静になろう。
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とりあえずあいつに会った瞬間にぶん殴ろう、そうはおもっていたがいざこんな状況になってみればそういうわけにもいかなかった。
こんな状況とは何か?
「とりあえず顔上げてくれない? 風音」
「それはできない、俺はかなり反省しているだからこうして今誠意を見せるためにこうして三日掃除していないフローリングに額をこすりつけている次第です」
最近になってきて何となく思うのだがこの目の前の七島風音と言う男、かなり馬鹿の類なのではないかと。
と言うかむしろ馬鹿以外の何物でもないような気がする。
「えーと、確かにびっくりはしたけどそこまでされると怒る気もしなくなるかな?」
嘘だ、普通にかなり、盛大に怒っているし何ならこの男の頭をフローリングが陥没するレベルで踏み抜いてやりたい。
さすがにそれを実行するほど私も子供ではないしここはあくまで冷静に対処するとしよう。
「風音、これから私とデートしない?」
「はい? こんなド畜生がアカリとデートですか?」
「さすがに自分の事卑下しすぎじゃないって思うけど、まぁ、それで今回の件はチャラにしてあげる」
「二分で準備します!」
風音はそういうと自室に猛スピードで駆け込みジャスト二分で自室から出てきたのだがそのころには私はすっかり先ほどの件に関してあまり気にならなくなっていた。
そもそも今回デートに誘ったのは風音の本当の気持ちを確かめるためだ。
私と言う人間は七島風音と言う人間が何たるかをまるで知らない、絡んでいてまれに思うが七島風音の思考は常人のような単純な気持ちでできているわけではない気がするのだ、悪く言えば歪んでいる。
それを知ってしまうのは少し怖い、けれでもそれを知らずに私のことを好きだとのたまう男と付き合ったとしても私のプライドが許さない。
一応私も暗殺者の端くれだ、狙った獲物は確実に逃がさない、私は七島風音を完璧に惚れさせてやるのだ。
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この世のカップルと言うのは日常的にデートをするのがしきたりらしい、一応着替えている二分間でこの付近のデートスポットはあらかた調べてきたつもりだが何せ普通の女の子とデートをするのはこれが初めてであるからして……
つまるところ今俺は隣で歩くアカリと手を繋ぐべきかどうかを真剣に考えていた。
「ね、ねぇ、なんか私の手についてる? そんなに真剣な表情で見られるとさすがに気になるんだけど……」
「ところで昼ご飯なんだけど美味しいパスタととかどう?」
「私の話ガン無視!? まぁパスタは食べるけど」
「それと手を見ていたのは別に変とかじゃなくてアカリと手を繋いだ方がいいのかどうかを考えていた」
「う、うん? なんかいろいろついていけないけどそういうのはまだ早いんじゃない?」
アカリは困った表情をしている、何故だろう部屋にあったデート攻略本には思ったことはすぐに伝えるとよし、と書いていたんだけど。
因みにその本は念のためトートバックに入れてあるのでデート中隙を見て読み込みするとしよう。
と言うかそもそもその本買った覚えがないのだがそんな事考える暇はなかった。
まぁ、今はとにかくこの空気を何とかしなくては……
「ところでアカリの今日の服、すごく似合っている」
「……え、ありがとう」
「その仕草もかわいらしいよ」
「……」
「あと歩き方がきれいだよね」
「……ちょっと待って風音」
「え、なに?」
急に呼び止めらる、アカリの方を見ると何か不満そうな顔で俺を見つめていた。
「ちょっとそのトートバック貸してくれない?」
「え、なんで、」
俺が言葉を言い終わる前にさっそうと俺からトートバックをかっさらうアカリそしてその中から件のデート攻略本を抜き取られる。
「こいつが原因か……」
「あ、アカリさん、それはですね……」
まずい気まずすぎる、気まずすぎてアカリの目を直視できない。
「はぁ、……風音、ちょっと来て」
あきれた、と言った様子でアカリに手招きされる、いかないという選択肢は無いので意を決して近づく
その後の展開は俺の予想していた展開とは違っていた。
「ほら、手だして」
「え、うん」
アカリに言われて俺は左手を差し出す、するとアカリは俺の手を手に取って見つめて
「その間柄にもよるけど関係性がカップルとかなら恋人つなぎが定番でしょうね」
「ちょ、いきなり……」
「あとデート中、男はどんなことがあってもうろたえない、並んで歩いている時は車道側を男が歩いてさりげなくリード……ほら、いくんでしょ」
目が合う、恐らく今アカリが言ったことをそのまま俺がやれと言うことなのだろう。
しっかりと言われた通りに車道側を歩く、左手にはしっかりと繋がれたアカリの手。
やばい、手汗出ている事アカリに気づかれそうで気が気じゃない。
「あと容姿をほめるときはさりげなく、さっきみたいなのは逆に気持ち悪いから絶対にNG」
「は、はい、気を付けます」
「……風音君、今日いいにおいする。私この匂い好きかも……とかね」
「え、今の演技!? 普通にうれしかったんだけど」
「ばれないようにさりげなくほめろってこと、
てか風音は香水つけない方がいいと思う」
「それは臭いとかそういうことですか……」
確かに今日は香水をつけてきた、かけたのも少量のはずなのだがアカリはあまりこの匂いは好きじゃないのだろう。
ちょっと気にいってたのだが今度からは気を付けるとしよう。
「そういう事じゃなくて……もともとの方が好きっていうか」
「ん? どういう意味?」
「う、うっさい、ほらパスタ食べに行くんでしょ!!」
「お、おい、引っ張るなって!」
分からない、最近の女子って全員がこうなのだろうか。
最近までそういう普通の人種とかかわったことが無いためか、もしくはアカリが特殊なだけなのか、と言うか何ならアカリは普通の女子ではないことを思い出す。
「……一応暗殺者、何だよな」
「何か言った?」
「いや、何も。あ、そこの角まがってすぐのところだから」
半ば強引にアカリを引っ張って店内へと入り適当な席に座る。
ようやく一息ついたところでふと変な視線に気が付く、元の仕事柄視線には敏感だ、別に今感じているのは殺意だとかそういう類のものではない、ただそれに似てる何かを感じたのだがその正体はすぐに分かった。
「ちょ、ちょっとトイレ」
アカリに断ってトイレへと向かう、丁度アカリの視界に入らないところにそいつはいた。
「やぁ、風音君、うちの妹が世話になってるみたいだね」
「なんであんたがいる!?」
その正体は金色の髪の変人、どうやらアカリの実の兄らしいランク一位のキングだった。
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