第27話 BBQ

 いつの時代も人を惹きつけて離さない存在、それは肉である。


 そして今俺の目の前には見事な程美しい霜降りを纏った松阪牛がタレと言う肉専用のお風呂に浸かっていた。


「……そしてコイツを白米の上に乗せ、……いただきます」


 これは!? まず先頭打者のタレが口内をダイレクトにかき回していく、そして二番打者、白米と言う名のスポンジが旨味を全て吸い込んで俺の空腹感を刺激する、しかしまだまだ、お次の三番打者は肉から溢れ出る濃厚な油、華麗なスライディングで俺の口内を滑りまくる。


 さあ本命、満塁を迎えたお次の打席は、四番打者、松坂打者だ。


「ああああああぁぁぁぁああああ!!!! 満塁ホームランバンザーイ!!!!」


「何やってんだあいつ……」

「「「さぁ?」」」


「ん? どうした? 俺何か変なことした?」

「「自覚ないんだ……」」


 何故か先ほどから美月とアカリを除く三人人が俺の事を見つめてくる、何故だろうか。

 チラリと横に視線をやると、俺の隣の美月も見事満塁ホームランを決めたようで、幸せそうな笑みをこぼしていた。


 松坂、恐るべし。



 *******



 何はともあれ、BBQの醍醐味とは何も肉だけでは無い。いつもは脇役である野菜たちでさえ、BBQの魔法にかかればあら不思議、あっという間に主役にミラクルチェンジである。


「と言うか、この食材とかは全部誠が用意してくれたんだろ?」


 コンロの前に陣取っている誠に問いかける、だとすれば今回の合宿MVPは誠という事になる、誠に不愉快なことであるが、

……誠だけに。


「まぁ、そうだな、肉は俺の家からだし、野菜はばあちゃんの実家から送られて来たものだな?」

「愛してる!!」


 俺は現役時代でも出したことのないスピードで、瞬時に誠の元へと移動し、涙ながらに手をぎゅっと握る。

 ありがとう誠、お前のことを散々バカにしてきて申し訳ないと思っている。


「お、おうよ、……つかテンションおかしくね風音、森で変なキノコとか食べたか?」

「おい、美月もちゃんと誠に感謝しろ!」

「ありがとう、マサル」

「ひょーーーーー!!!! こちらこそ俺の持ってきた食材を食べていただき恐悦至極です!!」


 マサr……誠の方がテンションおかしい気がしなくもないが、そんなことはもはやどうでもいい、今はただ食らうのみ。


「ね、ねえ真奈、カザネっちナンパに失敗したのが原因でおかしくなったのかな?」

「んー、あれは素のようだと思うけど……七島君ってたまに抜けてるように感じるし」

「だとしてもあれは異常通り越して不快だよ!!」

「どうすれば異常という言葉から不快になったのか教えてほしい……」


 遠くでは何やら早瀬が頭を抱えている、恐らくまた南部の奴が変なことを抜かしたのだろう、っと、玉ねぎ焦げる。



 *******



 私はみんなの輪か少し離れて一人誠が持ってきた野菜をチビチビと食べていた。

 異常に美味しいのが少し腹立たしい。


「……ハァ、私どうすれば」


 あの時の美月の突然のプロポーズ、あれを聞いた瞬間なぜか私はその場を駆け出してしまった。

 体験したことのない胸の痛み、内側からチクチクと針で刺されるかのような、そんな痛みを抱えながら今の今まであの二人の様子を見ていたのだが。


「(……何も変わってないじゃない!!)」


 あんなことがあったのだから少しぐらいは何か変わっているのかと思ったが、特に二人の様子は何も変わった様子は見受けられない。


 と、そんな私に所に、件の一人である男がやってきた、これは聞き出すチャンスである。


「どうかしたのかアカリ?」


ポカンとした表情の風音、ホントにこんなやつが私の尊敬するジャックであるのか大変謎ではあるが、今はそんな事よりも、


「その、……アンタは返事、どうしたの?」

「ん? 返事?」


 私の問いに風音は今の今まで忘れていたかのような顔をしてきたもんで、私のイライラ度は増していく一方だ、ついでに謎の胸のチクチクも、


「あー、あれは……どうなったんだ?」

「はぁ? それは私が聞きたいことなんだけど?」

「す、すまん。でもあっちはもうその気でいる感じに見える、返事もしてないのに……」

「そ、そうだったんだ


 ……まだ返事、してないのね」


「ん? なんか言ったか?」

「なんでもないわよバカ」


 私がそう言うと風音は困った様子でこちらを見つめてくる、何かあったのだろうか?


「え、と、……俺からも一つ、いいか?」


 そう言ってきた風音の表情はどこか照れくさそうだ、そんな風音の顔を見ているとこちらまでその照れが伝染しそうになる。


「ど、どうぞ?」


 私がそう促すと、風音は確かに言ったのだ、それは聞き間違いでもなんでもなく、今のわたしには致命傷を与えかねない言葉を。








「……俺、アカリの事、好きかも」


 その瞬間私の脳はパンクした。









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