第18話 合宿4

 アカリの親戚が所有する別荘と言うのは結構立派なもので、海に程近いログハウス風の家だった。

 実はログハウス大好きな俺にとってこの別荘は俺の好みにドンピシャであり、もはや海なんかどうでもいいから一日中この家に篭っていたい。


「おい風音ー、早く海いこーぜ!」

「んー、後五分」

「お前それ何回目だよ!」


 いち早く海パンに着替えた誠は早く海に繰り出したくてうずうずしている、


 ぶっちゃけ一人でどこにでも行って欲しい。


 だが、そんな事も言ってられないので、俺は仕方なくこの日のために買った海パンに着替え、上に薄手のパーカーを羽織る。


「……美月ちゃんの水着が待っている」

「頼むからはしゃぎすぎないでくれ……」


 本当にそれだけはお願いしたい。夏休み真っ只中の海は沢山の人が存在する。

 あまり目立ちすぎると変な奴に絡まれる可能性大である。


 ただでさえ高スペックの美女達が四人もいる、更には水着、もし俺がナンパ男だとしたらそりゃもう真っ先に狙うだろう。


 まぁ、そんな度胸など一欠片も存在しないのだが。


「んじゃ行きますか」

「そう来なくちゃ!!」


 俺達二人は四人が待っているであろうリビングへと目を凝らして突入する。

 扉を開けるとそこは、


「……眼福」

「おい誠! 大丈夫か!?」


 四人の水着四天王が待ち構えていた。

 その四天王から放出される暴力的なオーラに誠は突入と同時にやられてしまった。


「くそ! 良くも誠を!!」


 これで俺のパーティーは一人となった、これがもしRPGだとしたら即教会に行って蘇生してもらうのだが、生憎リアルにそんな便利なものは存在しない。


 だからここからは俺一人だけでこの四天王に立ち向かわなければならない。


 まず一人目、カラフルな水玉模様のビキニに身を包んだ南部光、制服の上からだと分からなかったが、恐らく着痩せするタイプなのだろう。

 俺の推定では凡そCカップ。


「にゃはは! 誠っちったら私の水着姿にあてられてしまったのかなぁー?」

「……くっ、南部、お前に用は、……ない!!」

「なんとぉ!?」


 一人目は瀕死の誠が何とか撃退してくれた、俺の出番はなかったようだ。

 しかし、徐々に難易度が上がっていくのが四天王という存在、


「誠、お前の死は無駄にしないっ!!」


 歯を食いしばって俺は次なる四天王へと立ち向かう。

 二人目は早瀬真奈、全体的に黒い水着で、腰にはパレオを巻いている、露出度は四天王の中で断然低いが、逆にその見えそうで見えない感が男心をくすぐる。


「男って本当にバカ……」


 真奈は呆れ顔で倒れてしまった誠を見つめる、そして次に、


「七島君は私の水着何かどうでもいいよね?」

「そ、そんな事は、」

「無理しなくていいって、分かってるから」


 確かに、早瀬の水着は魅力的だ、しかし、俺が最も警戒しているのは残りの二人、そいつらとの戦闘を予想して脳の防御力を最大限まで上げた結果、真奈の水着にあまり興奮できないのだ、


「なんか、……ごめん」

「謝ったらもっと悲しくなるじゃない!!」


 兎にも角にも、二人目も無事撃破である。


 さて、


「……そろそろ、海にでも行こっかなー」


 勘違いしないでほしい、これは戦略的撤退というやつであり、決して敵前逃亡とか、そう言う後ろ向きな撤退では無い。


 しかし、


「風音、それは酷い」

「風音君? 光と真奈の水着だけ見といて私達の水着を見ない、って言うのは男としてどうかなーと、私は思うよ?」


「止めてくれ、俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ!!」


 全力で俺の視界に入ってこようとする二人に、俺は全力で二人を視界に収めないようにする。

 そんな事を繰り返していると、


「あれ、……めがまわ、る」


 知らないうちにグルグルと回っていたらしく、俺は目を回しすぎて意識を失った。



 ××××××××



 目が覚めると、耳には波の音と人々のはしゃぎ声が聞こえ、後頭部には何か柔らかいものの感触がある。

 そして頭を撫でられている感触、


「う、ん? 」

「あ、やっと起きた風音君」

「あれ、……アカリ!?」


 今の状況を素早く察知した俺は瞬時に起き上がる、俺に膝枕何てする奴はクイーンしかいないと思い込んでいたので、一瞬反応が遅れたが、


「もう起きても大丈夫なの? 倒れた時すんごい顔青かったけど」


 グイっと顔を近づけて俺を心配するアカリだが、この状況は割とヤバい、何せ水着と言う布面積が少ない物を身につけ、尚且つ、その生太ももを枕にして俺は寝ていたのだ、


「も、もう大丈夫」

「ホントにー? 何か今顔すごく赤いけど?」

「……気のせいだってばよ」


 あまりの困惑に変な言葉が飛び出たが、俺はとにかく落ち着く為に深呼吸して状況を整理する。

 切り替え大事、うん。


「あれ、そう言えば他のみんなは?」


 辺りを見回すも、他の四人の姿は見当たらず現在は俺とアカリの二人っきり。

 砂の上にささったパラソルと、下に敷かれたレジャーシートと言う割と狭めの空間に、二人きり、


 ヤバい、意識した途端に顔が熱くなる。


「皆はお昼ご飯買いに行ったよ、

 ……てか、風音君私に何か言うことはないの?」

「え、……膝枕してくれてありがと?」

「そ、そうじゃなくて! もっとこう、他に何かあるでしょ!」


 そう言うとアカリは立ち上がって水着を強調するポーズを取る、あぁ、成程。


「……四天王がまだ二人いることを忘れていた」

「もうそれはいいから! それで、どう? この水着、結構悩んで決めたんだけど……」


 アカリはポーズを止め、恥ずかしそうにモジモジと俯く、いくらアカリに恋をしてはいけないと言っても、ここで俺が水着を褒めないのもリア充としての立場が危うい、


「正直めちゃくちゃ似合ってる、可愛い、よ?」


 これは俺の本心からの感想だ、因みにアカリの水着は大胆な赤のビキニで、金髪と赤色がマッチしていて見ているだけで涼しさすら感じる。


「……そんなストレートに言うのは、その、ズルい」

「え、あ、ゴメン?」

「もうそうじゃなくて!!」


 素直に褒めたのにアカリは何故かご機嫌斜めの様子、暗殺者どうのこうのの前に、女の子というのは難しい。


 そして二人パラソルの下で体育座りして、皆の帰りを待つ、何だか気恥ずかしくてお互い俯きながら無言の時間だけがすぎる、


 周りの喧騒何てもはや聞こえなくて、耳に入るのは波の音と、俺の心臓の鼓動のみ。


 正直に言うと、俺は今。


 アカリに惚れかけている、


「あ、あのさ?」


 沈黙を最初に破ったのは、やけに艶かしいアカリの声、


「な、何かな?」

「風音君って、……美月ちゃんとはその、付き合ってるとかは無いんだよね?」

「な、ないない! いくら一緒に住んでるからと言ってそんな関係では絶対ないよ!」


 なぜそんなことを聞いてくるのだろう、


「じゃ、じゃあ、風音君は、好きな人? とかは居るの?」

「……ど、どうだろ? 何とも言えない、かな?」


 アカリの言葉の真意が分からない、いや、


「なら、女の子と付き合いたいって感情は、あったりする?」

「……なぁ、」


 ……多分そんな事はとっくに気づいている、



 ただ、


「……風音君」

「俺は……」


 気づかないフリをしているだけだ。


「もしも私が風音君の事好きって、言ったら、……風音君は何て言う?」


 その瞬間、俺はアカリのその言葉で、






 ―――多分恋に

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