第17話 合宿3
さて、冷静に分析しよう、キングの容姿は金髪で一見女のようにも見える程美形。
そして五月雨アカリの容姿、金髪で誰が見ても分かるほどの美人。
うん。
「マジで……?」
「うん、まじまじ」
ホントに軽めで言っちゃったよそんな重大発表、こういうのってこう、何か色んな紆余曲折の末に明かされる秘密的なやつじゃないの?
「こないだ接触して手に入れたDMAで検査したけどピッタリ一致したよ」
「相変わらずですね」
「まぁ、そんな事実は特に対したものじゃないんだけど、大事なのはここから」
いや、結構対したものですけどね、
するとキングはチラッとクイーンを見つめて話を聞かれていないことを確認した後、
「どうか、五月雨アカリに恋しないで欲しい」
と言った。
「……意味が理解出来ないんですけど」
「言葉の通りさ、アカリに恋をしないで欲しい」
キングにしては真面目な表情でそう言った。
「それは妹を思う兄のセリフってことで解釈してもいいんですか?」
「んー、違うかな? あ、でもそうとも言えるね?」
「どっちなんですか!?」
「まぁまぁ、近いうちに合宿もある訳だし、尚更気を付けて欲しくてさ?」
そう言うとキングはクイーンを眺めて、いつ間にやら届いたコーヒーを啜る。
その光景はとても様になっていて、見惚れてしまいそうになる。
「てか、なんで合宿があるのしって、
……あ、いや、理由は聞かないでおきます」
「ん? そう? 僕は別に話してもいいんだけど」
それを聞くと怖くなりそうなので聞かないで起きたい。
「……まぁ、分かりました。アカリに恋をしなければいいんですね?」
「そうそう、話が早くて助かるよ」
しかし、今ここでキングに忠告されていなければ、俺はアカリに惚れていたかも知れない、なんせ、最近のアカリは意味深な言葉を俺に言ってくるからだ。
それはもう俺でなくても、『あれ、コイツ? 俺の事好きなんじゃね?』と、勘違いしてしまいそうになるほど。
「あ、そうそう、この店。風音君は気に入ってくれた?」
「そうですね、雰囲気とかも割と俺の好きな感じで、結構好きかも知れません」
「でしょでしょ! 何せクイーンの……」
そこでキングは口篭る。
「クイーンの?」
「いや、何でも無い」
嘘つけ、凄く目が泳いでるよ! 『やべ、うっかりおもらしするところだった』と、瞳が訴えていますけれど?
「さ、さぁ! 早く帰りたまえ!」
「返しに困ったら追い返すのかよ!」
しかし、ここに長居する理由も無いので、お言葉に甘えて立ち去るとしよう。
俺が席を立つと、キングは何か思い出したかのように俺に語りかける。
「今度は二人で来なよ? 風音君」
そう言って微笑むキングはやはり絵になっており、これが女だったのならば俺は十中八九惚れていただろう。
「おーい、クイ、美月、行くぞ」
危うく大衆の場でクイーンと言いかけて、慌てて俺は言い直す、するとクイーンは何故か嬉しそうにこちらに寄ってきて、俺は不思議に思った。
「あ、会計は全部あっちの変人に」
俺は店員にそう言うと、店員は笑って、『分かりました』と、言ったので、キングに何か言われる前に早めに逃げるとしよう。
――――さてと、この恋の行方はどうなる事やら。
そんな人知れず吐いたキングの言葉は店の店員にしか聞こえなかった。
××××××××
時は早くも合宿当日、大きめの駅で合流とのことで、俺とクイーンは少し大きめのカバンに夢と希望とお泊まり道具を詰め込んで1LDKのマンションを出発した。
幸い天気にも恵まれて、空には青空が広がっている。まぁ、天気はいいのはありがたいけど、
「……暑すぎだろ、これ」
「……」
俺がそう愚痴るとクイーンは何やらスマホを取り出してどこかへ電話した。
「タクシーで行く」
「そうしよ」
クイーンの提案は魅力的で、俺達はマンションの中に戻り、タクシーが来るまで待機した。
幸い金には全く困っていないので、タクシーに乗ったところで経済的ピンチに陥ることは皆無だ。
タクシーを待っている中、俺はこの間キングに言われた言葉を思い返す。
『アカリに恋をしないで欲しい』
その言葉の真意は全く分からないが、一応世話になったキングの頼みなわけで、俺はその頼みを忠実に守ろうと誓った。
忙しない蝉の合唱が行われる中の合宿、
表向きは青春を謳歌しようというイベントな訳だが、その裏側で、よもや大変な事が起ころうとしているなんて、俺は一切知らない。
でも俺は、折角組織を引退する際貰える特権、自分の希望を一つだけ叶えるを使ってまで手に入れた日常を守るために、全力でアカリに惚れないよう善処するとしよう。
「……楽しみ」
そう言って微笑むクイーンはやはり可愛くて、うっかり惚れそうになる。
合宿中は、アカリに惚れないように気をつけると同時に、クイーンにも惚れないように気をつけよう、と誓った俺だった。
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