第16話 合宿2

 校長の話は長い、と言うのが常識だが、それは俺の高校でもそうで、特に紅葉ケ丘高校の校長はヤケに話が長い。


 オマケに声は掠れてマイク越しなのに何を言っているかすら理解不能、お陰で校長のありがたいお話はただただ老人のかすれ声を聞くだけの展開になっている。


「……ぐー」


 隣では誠が気持ちよさそうに夢の世界へと旅立っていて、『何だこいつ、俺が頑張って耐えているのにお前は寝るかよ!』と言う思いを抱いた俺はバレないように、尚且つ強めに後頭部を叩く、


 そしてすぐ寝た振り。


「っ!? すいません寝てました!!」


 何故か立ち上がって自分が寝ていた事を自己申告したバカは、後で先生にこっぴどく叱られたそうです。


 因みに、後で俺が誠にジュースを無言で渡すと、何故か凄く怖がられた。



 ××××××××



 終業式が終わり、丁度昼頃に終わった学校、学校から出ていく生徒達は皆ウキウキ顔で夏休みの予定について話し合っていた。


 かく言う俺も夏休みは予定がパンパンである、これがリア充というもの、真の勝者である俺は微笑みながら学校を出る、


「気持ち悪いぞ風音」


 そんな俺を隣で見つめる誠は気味悪そうに俺を見つめていた、


「ほっとけ笠松」

「誰だ笠松って! 俺の名前は傘月だ!」

「……悪い」


 素直に謝ってしまう俺だった。


「まぁいいけどよ、あ、俺今日これからバイトだ、悪い風音、ここでバイバイだわ」

「そう、か、ん、了解。バイトファイトー」

「ゔぅ、マジで鳥肌立つから止めろそのつまらないギャグ!」


 そんなつもりで言ったわけでは無かったのだが、そんなふうに言われるととてもショックだ。


「じゃあな」

「おう」


 別れの言葉を言うと、校門を出て、誠は右へ、俺は自宅のある左へと曲がった。

 そうして一人で帰っていると、


「よーしよし」

「ニャアー」


 猫を数匹連れた変人と出くわした。

 そんな変人とは一切関わりたくないので、俺は気づいていないフリして横を通り過ぎる事にした。


「……」

「風音くーん!」

「……」

「あれ、気づいてない?」


 ヤバい、変人が声を掛けてくる。110番に電話しなくては……。


「ちょ! 無言でスマホに110番に電話しようとしないで!」

「……つかぬ事をお伺いしますが、どなたでしょうか?」

「成程、君も冷たくなったね……」


 何故か子供の成長を寂しげに見つめる親のような顔してるんだけど、あれ、デジャブ。


「んで、何してるんですか?」


 これはもう知らない振り出来ないと諦めた俺は変人、もといキングに向き直り、呆れ口調で話しかける。


「見ての通り、猫達とお散歩だよ?」

「……そうですか、では俺はこれで」

「何だよその、『聞くべきことは聞いたから後はいいや』見たいな返しは!」

「凄いですね、ビンゴです」


 一字一句違わずビンゴである、


「ここまで嬉しくないビンゴは初めてだ……」


 と言うか忘れかけていたけれど、キングは俺よりも九つほど年が違う先輩だ。そんな先輩にこんな口聞いていいのだろうか?

 いいんです。


「ここであったのも何かの縁だからちょっとお茶しようよ風音君?」

「……そんな大量に猫を連れ込めるカフェ何て無いと思いますけど?」

「フッフッフ、……あるんだよそれが」


 それからキングは不敵に笑って、


「そう、猫カフェがね!!」

「お断りします」

「ちょ、ちょ、ちょいちょい! 待ちたまえ風音君!」

「何ですか! 俺は暇そうに見えて実は割と暇じゃないんですよ!」

「ちょーっとだけ話ししたいだけ!」

「遠慮します!」


 そのまま俺は立ち去ろうとすると、


「……五月雨アカリについての話、でもかい?」

「聞きましょう」

「変わりみはや!?」


 勿論ですとも、暗殺者は情報が命ですから。


 まぁ、別に今は暗殺者でも何でもないんだけどね。



 ××××××××



 店内ではキングが数十匹の猫を引き連れて来たためとんでもない数の猫が気の赴くままにダラダラとしている。

 そしてキングも、


「……はぁ、幸せ」

「話す気ないなら帰ります」

「あとごふんー」


 そんなもうちょっとだけ寝かせてくれ、的な感じで言われてもな、まぁ、でも俺もそんな事言ってるらしいし、ここは素直に五分だけ待ってあげよう。


 それにしても、ここの猫カフェって最近出来たばかりらしい。

 最近俺も猫を可愛いと思い始めているのでそんな猫好きにはたまらない場所が出来ると素直に嬉しい。


 ……今度クイーンもつれてきてやるか。


 そんな事を思って辺りを見回すと、


「……ん? 何か見覚えのあるやつが」


 そいつは、綺麗な銀髪と、吸い込まれる程済んだ青の瞳……


「って何でいる!?」


 そんな容姿を持つ人物など俺には一人しか思い当たらない。

 そう、言わずもがなクイーンである。


「おれ、風音? なんでいるの?」


 あちらも俺に気づいたのかこちらを振り返り疑問符を浮かべる、

 頭の上に猫を載せて。

 あの位置に置くのが好きなのだろうか?


「それはこっちのセリフだ」

「あれ、キングも一緒だ、おーい」

「……」

「諦めろ、アイツは跡三分ほど経ってからじゃないとこちらの世界に帰ってこない」


 現に今のキングの瞳は目の前の猫達に釘付けであり、体制から何から全て猫の真似をしている。

 もはや病気の類か何かに見えなくもない。


「実は私、ここの店はオープン当初から通ってる」


 エヘン、と、胸を張って何故かドヤ顔。


「だから最近お前の洗濯物に猫の毛が沢山付いてたのか……」


 あれ普通に迷惑だからやめて欲しい、いやほんとに。

 そうこうしているうち、キングが現実世界に復帰、真面目な顔して気持ちを猫から切り離そうとしている、


 だが俺は見逃さない、キングの瞳はチラチラと猫に向いている事に。


「それで、話を聞かせて下さい」

「そうだね、まず、五月雨アカリが暗殺者である事はもうクイーンから聞いてるよね?」

「そう、ですね」

「それはホントの事だ、んでここからは重大な事なんだけど敢えて軽めに言うとね」

「……」


 するとキングは俺に顔を近づけて、耳元で、


「ぶっちゃけ、……アイツ俺の妹」





 ―――――はぃぃぃいいい!?

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