第14話 金色の暗殺者

 五月雨アカリ、それが私の名前。

 学校一の美少女と自負しており、更には成績も運動も文句無しに一位。

 まさに完璧な女子高生である私は、




 暗殺者だ。


「……はぁ、フリーの暗殺者って案外稼げないわね」


 そんな風に自室で独りごちる、私の家は高級住宅街の外れにある普通の一軒家、しかしそこに住んでいるのは私一人である、正直に言うと少し寂しい。


 両親を幼い頃に無くし、親戚の所を転々としているうちにたどり着いたのがこの一軒家だ。

 ここは優しい親戚が所有している家で、その人が私にくれたものだ、立地もそんなに悪い訳では無いし、駅から歩いて十分程、文句無しに優良物件なのである、が、


「……どうにも寂し過ぎる」


 この家は私一人には広すぎた、めちゃくちゃ寂しい、この間二人泊まりに来た時なんか嬉しすぎて少し泣いた。


 ……泊まりと言えば、


「と言うかあの七島風音って男は何なのよ!!」


 枕を殴りつけながら忌々しい男を思い浮かべる、

 彼、七島風音と言う男は私のターゲットだ、ある変な男から依頼されたのだが、その依頼内容と言うのが、

『七島風音を恋に落として欲しい』


「って、ふざけんじゃないわよ! 私は暗殺者だっての!」


 しかし金がとてもよかったので結局受けてしまった、あんな男一人を恋に落とすだけで五百万何て、どんな考えをしているのだろう?


 こんなクソ依頼すぐ終わらせてやる! 何て、思っていたのだが……


「もうやだ、自信なくしそう……」


 最初は簡単な依頼だと思った、私のような美少女がその気になれば男一人二人など対した事無い、と。

 しかし、私がいくらアプローチしてもその男は反応を示さない、


「……多分あの美月、って存在のせいだと思うんだけど」


 八島美月、銀髪碧眼の女、今の私の立場から言うとライバル見たいな存在。

 この女が思ってもいないほど強敵だ、


「私から見ても普通に可愛いと思うし、

 ……非の打ち所が無いとはこの事ね」


 密かにスマホで盗撮しておいた八島美月の写真を眺めて、自分と見比べる、鏡に映る私はとっても美少女だった。


「まぁ、やっぱり私の方が可愛いと思うけど……そろそろ寝ようかな?」


 スマホの画面に表示された時刻はもう既に夜の十二時を過ぎており、もう日付が変わってしまっている。

 夜更かしは肌に天敵なので、私はそそくさとベットに潜り込み、瞼を閉じる、


「(……アイツってどんな女がタイプ何だろ)」


 頭の中でそんな事を呟く、

 やっぱり清楚な方がいいのだろうか? それとも少し派手目?


「って何でアイツのこと考えてるのよ!!」


 頭をわしゃわしゃと掻き毟る、最近アイツの事を考えていると何故だかイラッとする、と言うかアイツを見ているとムカムカする、特に美月と一緒にいる所を見ていると。


「……あぁ、殺したい」


 銃を突きつけて、引き金を引いてアイツを殺せば、このムカムカも晴れるのだろうか?

 晴れるのならばすぐさま実行に移したいところなのだが、依頼の事もあるのでそうもいかない。


「……何で私を見てくれないのよ」


 アイツが私の事を見てくれると嬉しい、声をかけてくれると嬉しい。

 私がからかうと頬を赤く染めるアイツが可愛い、逆にからかって、にひひと少年のように笑う所が可愛い、


「……何か恋する乙女見たい」


 恋する乙女、なんて言葉は反吐が出るほど嫌いなのだが、例えられる言葉がそれしか無かった。

 まぁ、実際に恋しているわけではないと思うのだけど。


 暗殺者と言う仕事は観察するのが大事だ、相手の仕草から好きな物、嫌いなものなど、対象を深く知れば知る程任務遂行確率がグッと上がる。


 だから、何となく対象であるアイツを無意識のうちに目で追ってしまうのも、私が仕事熱心だからだと信じたい。


 もしも、このムカムカがアイツに恋をしているからだというのなら、私は恐らくアイツを殺すだろう、私にとって恋なんてもんは邪魔なものに過ぎない、


 どうせ恋をしたところで最後は皆死んでしまうのだから。


「……私は任務を遂行する為にアイツに好意があるをしている、うん、その通り!」


 そうなのだ、何なら誓ってもいい。

 と言っても祈る神など暗殺者には存在しない。


「てか暗殺者って言ってもまだ一人も殺してないんだけどね……」


 そう、私はまだ暗殺童貞である、別に人を殺す事に抵抗がある訳では無い、何なら今すぐやってもいい程に、ただ単にその機会が無いだけで、

 そう言えば依頼してきた男にこんな事を言われたのを思い出した。

『僕の依頼を遂行するまで暗殺するのは禁止にしてくれ』

 と、


「ますます意味が分からない、何なのあの金髪男……」


 暗殺者として正式に活動するには今この任務を早く終わらせなければいけない、


「……いい事思い付いた」


 そんな事を呟いて、私はスマホのメッセージアプリを開いてアイツにメッセージを送った。


 窓の外からは蝉の鳴き声が聞こえて来た。





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