暗殺者のいる夏
第12話 朝のランニングは人が多ければ多い程楽しい
教室の自分の席で、俺は激しく悩んでいた。
何に? それは……
「おい風音! やっぱりお前美月ちゃんと付き合ってんだろ!」
元凶はコイツ、俺の親友である傘月誠。
どうやら誠はクイーンに一目惚れしたらしく、この間遊んだ次の日から俺にクイーンのことばかり聞いてくる。
「……だから俺とアイツはそんなんじゃないって」
「嘘だ、この間お前と美月ちゃんが二人仲良く朝のランニングしてたって言う目撃情報もあるんだぞ!」
んげ、バレてたのか。
因みに朝のランニングは最近俺の日課になっている。何故かは聞かないで欲しい、体重計に乗ったと言えば分かるだろう?
乙女かお前、とかそんなんじゃなくまじめにやばいくらいに増えていた。
「何言ってんだ、俺が朝のランニング何てめんどくさい事する訳ないだろ」
「……俺を舐めるなよ、風音。最近お前がちょっと体重を気にし始めたのを俺は知ってるんだ」
なんだお前、何かすごく気持ち悪いぞ。
「た、確かに気にはしてるがまだ行動に移してないぞ?」
嘘です、めっちゃ行動に移してます、朝から五キロ程ランニングしてます。
「そんなこたァどうでもいいんだ!!」
「じゃあなんだよ!!」
「お前が最近ずっと美月ちゃんとランニングしてるのはもう分かってるんだ! だからな!」
「お、おう」
俺は諦めて朝のランニングを認めた、だって誠の目が怖いんだもの、しょうが無いじゃない。
「だからな、俺が言いたいのは!」
「落ち着け誠、声がでかい!」
やけに熱い誠を冷ますためにとりあえず最近ハマってるジャスミン茶を誠に手渡す、しかしそれを誠は受け取らずにさらに続けて、
「……俺も混ぜろ!!」
「……」
そんな心からの誠の叫び声は校舎内全てに響いていたらしい。
全くもって迷惑な親友である。
しかし可哀想なのでクイーンに頼んで朝のランニングに誠も連れて行っていいか? と頼んだところ、クイーンは、『誠?』と、クエスチョンマークを浮かべていたので、俺は何だか誠が哀れに思えてきた。
*******
そんでもって次の日の早朝。
誠にクイーン、いや、今は美月と同棲して居るとバレるわけには行かないので、俺が家を先に出て、誠と合流、そして少し遅れて美月が合流しメンバーが揃った。
走る前に軽めに準備運動を済ませ、それから俺たち三人は高級住宅街を走り出す。
先頭を美月、その後ろに俺と誠が並ぶ形でランニングを続けているのだが、先程から誠は先頭を走る美月のポニーテールばかり見つめていて、俺は苦笑いしてしまった。
「……おい誠、お前ランニングに集中しろよ」
先頭を走る美月聞こえないように隣の誠へと語りかける、
「……」
返事がない、ただの屍のようだ。
「……このやろ」
ちょっとむかっとしたので俺は少し強めに誠の後頭部を叩く。
「痛っ、何すんだお前!」
「それはこっちのセリフだ、流石に見すぎて気持ち悪いぞ誠」
「……天使を見つめて何が悪い」
「……マジかお前」
素直にドン引きである、と言うか、誠のそれはもはや信仰のそれに近い気がするのだが俺の間違いだろうか?
なんてやり取りをしていると、
「風音、うるさいそれと……うん」
おーい、美月さん? せめて名前だけでも覚えてくれ、あまりにも誠がかわいそ……
「……かわいすぎる」
「もうこいつほっとこ」
何故だろう、もうコイツとは親友をやっていけなそうな気がする。
そんなこんなで走り続けること十分、いつもの自販機の前で小休憩。
俺はペットボトルのお茶を買い、喉を潤す、そんな俺の様子を美月はじっと見つめている、
「飲みたいのか?」
「……うん」
「ほらよ」
「ありがとう」
俺からお茶を受け取ると、美月は先程まで俺の口がついていた所に口をつけて喉を潤す。
所謂間接キスと言うやつだが、高校生になって今更そんなこと気にするやつ……
「……風音貴様」
いた、それもすぐ近くに。
「はい、ありがと」
「おう、サンキュ」
お茶がリリースされて来たので俺ももう一度飲もうと口をつけようとしたところで俺は誠にご褒美をやることにした。
「誠、お前も飲むか?」
美少女との間接キスチャンスのお褒美である。
「い、いいのか!」
「ああ、喉乾いてるだろう?」
「友よ!」
そう言って誠は嬉々としてお茶を受け取る、そして先程まで俺と、美月が口をつけていた飲み口を見つめる、そして誠の口が飲み口に……
「や、やっぱりダメだ!」
何故だかわからんが、俺は後数センチで誠が飲み口に口をつけるところでお茶を奪い取っていた、そして奪い取ったお茶を一気に飲み干す。
「ああ! 俺のお茶が!」
「すまん、急にお前と間接キスするのが嫌になった」
「そりゃないぜ……」
そう言って誠はコンクリートの地面に倒れる、可哀想だとは思うが諦めてくれ、俺はお前と間接キスしたくないんだ、いや、
正確に言うと、お前と美月が間接キスするのが嫌なんだ。
「じゃ、じゃあ行こうぜ?」
何故だか照れくさくなり、俺は美月と倒れたまま動かない誠にそう言う、
そんな俺の姿を美月は不思議そうに見つめていた。
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