第11話 素晴らしきかな青春の日々3

 久しぶりに感じた死の気配に、咄嗟に体が反応する。

 後頭部に突きつけられた銃口を咄嗟にズラし、その間に寝間着の懐に仕込んでおいた拳銃を取り出し振り向いて対象に向ける、その動作凡そ一秒未満。


「……」

「……」


 お互いに銃を向け合う俺とクイーン、その表情は暗殺者のそれだ。

 しかし本当に撃つ気など一ミリも無い俺は息を吐き出して銃を下げる。


「お前、ちょっと腕が鈍ったんじゃないか?」


 俺がクイーンにそう言うと、クイーンも銃を下ろしてため息をつく。


「まぁ、仕事してないから」


 やはりキングの言う通り最近は任務が少ないと言うのは本当らしい。そりゃ、ランク二位のクイーンと言えども腕が鈍るわけだ。


「と言うか、風音、アカリに何してたの?」

「……」


 黙って目をそらす俺に、


「……撃つ」

「わかったから息子を撃ち抜くのは辞めてくれ!」


 クイーンの目があまりにもマジだったので俺は必死に許しをこう。

 と言うか毎度毎度股間に照準を合わせるのやめてほしい。


「ふ、二人で話してたらアカリが寝ちゃって、だからアカリをベッドに運ぼうとお姫様抱っこでベッドに運んだらそのままの勢いであんな事になりました」

「……遺言はそれで終わり?」

「すいませんでした!」


 俺は恥を捨てて土下座をする、するとクイーンは俺の頭に右足を乗せて上から体重をかける。

 その時、俺はくるみ割り人形でギリギリと挟まれるクルミの気持ちが分かった気がした。


「はぁ、風音は分かってない」

「な、何がだよ?」


 俺は頭を足で押し付けられながらクイーンに問いかける。

 するとクイーンはベッドで眠るアカリを指差して、


「アイツ、暗殺者だから」


「……は?」


 一瞬思考がフリーズする。それもそのはずで、ずっとつるんで来たアカリをクイーンが暗殺者だと言ったのだ、そんなの誰だって困惑する。


「いや、流石にアカリはありえないだろう?」

「でも、ほんとのこと」


 クイーンの言葉には重みがあった、しかしながら、俺は未だにクイーンの言葉を信じられずにいた。


「風音だったら分かるはず、暗殺者は素性がしれないもの。誰が暗殺者何て分かるはずがない」

「そんなことって……」


 確かに、誰が暗殺者何て分かるはずもないのだ、同じ組織の仲間でもない限り。

 昨日軽く挨拶を交わした隣人が、仲のいいクラスメイトが、下手をすれば恋人や、家族でさえ。

 俺たちの組織にはそんなことは起こりえない、何故なら、ほぼ全員が死んだことになっているか、戸籍を持たない捨て子だからだ。


 しかし、暗殺を生業としている組織が俺の元いたところだけとは限らない。

 そのいい例が、


「五月雨アカリが暗殺者……」

「そう、でもこいつはルーキーだけど」

「何で分かるんだ?」


 俺がそう言うと、クイーンは不愛想に、


「お茶に軽めの睡眠薬を入れた、ベテランの暗殺者ならき効かないレベルの」

「そう言うことか」


 だからアカリは突然眠ったのか、だったらクイーンは最初から、


「全ては風音を守る為、暗殺者抜けして、たるんでる風音を」


 クイーンはそう言うと手のつけられていない睡眠薬入りのお茶を一口飲む、そこで俺は一つの疑問にたどり着く。


「ってことは、アカリは俺を暗殺するために近ずいたって事か?」


 その結論なら納得が行く、いくら素性を知られていない暗殺者でも三銃士となればいくらでも探しようがある、まぁ、そんな命知らずの奴は滅多にいないんだけど。


「残念ながらそれは違う、と思う、こいつはフリーの暗殺者だから詳しいところまでは分からないから」

「そうか……んで、アカリを殺すのか?」


 他の組織の暗殺者を見かけたら殺すのがルール、とまでは行かないが、暗黙の了解となっている、言うなれば他の暗殺者など、自分たちの商売の邪魔になる存在でしかないからだ。


 でも今の俺は暗殺者ではない、だからクイーンがここでアカリを殺す、と言ったら、俺は全力で抵抗するつもりだ。


 一応、友達なわけだから。


 やっと足をどけてもらい、俺は立ち上がる、そしてクイーンにもう一度問う。


「なぁクイーン、アカリを殺す、のか?」

「……」


 クイーンは黙ったままで、俯いていた、迷って居るのだろう。

 組織のために目に前の暗殺者を殺すか、それとも見なかったフリをするのか、


「私は、」


 クイーンは一泊置いて、




 *******



 誰もいない部屋で俺は朝を迎えた、というのも、今俺がいるのはアカリの部屋の隣の空き部屋で、そこに毛布を一枚拝借して眠りについたのだ。


「……腰いた」


 毛布はかけていたものの、下は硬いフローリングだ。起き上がると腰だけでは無く体のあちこちが少し痛んでいた。


 すると、おもむろに部屋の扉がノックされる。

 俺は自分の家でもないのに『どうぞ』と言うと、入って来たのはまだ少し眠たげなアカリ、


「ごめん風音君、私知らない間に寝ちゃってた見たい」


 欠伸をするアカリを見て可愛いと思いながら、俺は平然を装って言葉を返す。


「突然寝だしたからびっくりしたよ」


 俺は苦笑いしながら伸びをする、すると大きな欠伸が漏れ出した。


「お客さんなのに硬い床で眠らせるなんて、ごめんね」

「まあまあ、割と快適だったよ、住めば都的な?」

「それはちょっとちがうんじゃないかな? そう言えば美月ちゃんは?」

「あいつならコンビニに朝飯買いに行ったよ」


 クイーンはアカリを殺さないことにしたらしい、口にはしてないが今ここにアカリが居ることが何よりの証拠だ。

 こんな風に普通に会話している、と言うことは恐らくアカリは昨日のことは全く気づいていないのだろう。


 それならそれでいいのだが、


「(……やっぱりアカリが暗殺者何て考えられないな)」


 今回の件で、夢のリア充生活から少し遠のいた気がするのは俺だけだろうか?











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