第10話 素晴らしきかな青春の日々2
クイーンを追いかけて、アカリの家に来てから凡そ三十分後、何故か俺は今アカリの家の風呂に入っていた。
「いや、どうしてこうなった」
とにかく落ち着くために風呂場を観察してみる、女の子の家のお風呂にしてはやけに生活感が感じられない寂しい雰囲気だ。
あるのはシャンプーにコンディショナー、それとやけにやけに高そうなボディーウォッシュ、そして椅子だけだ。
「いや説明してどうすんだ」
現役時代の悪い癖が要らないところで出てしまう癖を直さなければ。
とにかく、だ。
「俺、本当にアカリの家に泊まっていいのか?」
仮にも俺は男であるし、アカリは女だ、クイーンが居るにしても若い男女が同じ屋根の下で一夜を共に過ごすのだ、まぁ、普段からしてるんだけどさ。
「でもクイーンはそう言うのじゃないし、うん間違いない」
俺にとってアイツは妹みたいな存在なのだ、かなり手のかかる。
アイツの初仕事を俺が奪ったあの日からずっと。
「……って誰に言い訳してんだか」
そんな事をボヤいて、俺は早めに風呂を上がることにした。
因みにサービス回なんかはあるわけ無い、テンプレラブコメじゃあるまいし。
風呂から上がり、脱衣所でアカリが用意しくれたお父さんの寝巻きに着替えてから俺は脱衣所を出る、すると。
「だからダメだって美月ちゃん!」
「止めないでアカリ、私は行かなくちゃいけない」
今にも脱衣所に突入して来そうな勢いのクイーンとそれを必死に止めるアカリの光景があった。
「……何してんの」
呆れ顔でその光景に対する反応をする俺に、クイーンは、
「ちっ、遅かったか」
「何がだよ!」
「美月ちゃんが風音君のお風呂に突撃するって聞かなくて……」
そんな風に説明するアカリの顔は少しやつれていた。
うちの妹がすみません。
「ならせめて風音が入った後の風呂に入る」
「気持ち悪いからやめてくれ」
そんな俺の言葉なんか一ミリも聞かずに、クイーンは俺が先ほど着替えたばかりの脱衣所に消えていった。
そんな光景をアカリはぼうっと見つめていた。
「はぁ、……何か飲み物取ってくるから風音君は先に上に上がってていいよ」
「なんかごめんアカリ」
とにかく謝らずにはいられない俺は誠意を込めて謝罪する。
しかしアカリは気にした様子は無く、
「い、いいよ! 元はといえば私から誘ったんだし、風音君が気にする必要なしだよ!」
「いやでも……」
「いいからいいから、上に行ってて風音君?」
上目遣いでそんな事を言われたもんで俺は上に上がらざるを得なくなった。
……美少女の上目遣い、恐るべし。
*******
言われた通りにアカリの部屋で待っていると、数分後に、アカリはお茶を三人分お盆に乗せて登場した。
ぶっちゃけ喉が乾いていたのでメチャクチャ有難い。
「はい、風音君」
そう言ってアカリはお茶の入ったコップを一つ俺に渡す、それを有り難く受け取った俺はお茶を一気に飲み干す。
「ふぅ、生き返る」
「おっさん臭いよ風音君」
そう言ってアカリは持ってきたお茶を自分で一口飲む。
なんだかその動作が少しいやらしく見えてしまうのは俺が変態だからなのだろうか。
「あ、てか何でアカリはクイ、じゃ無くて、美月を家に誘ったんだ?」
俺は何となく思った疑問を口にする、しかし答えはどうせ仲良くなりたい、とかそんなところなのだろう。
わかっていながらも問いかける、それはリア充に必要なスキルである。
しかし、アカリの答えは俺の思っていたものではなく、
「美月ちゃんを呼んだら風音君も来てくれるかな、と思って
……なーんて、冗談だよ! ただ美月ちゃんと仲良くなりたいだけですよーだ」
「だ、だよな! ビックリした……」
いや本当に、証拠に今現在俺の心臓は長距離ランニングを終えた後の選手並みにバクバクである。
その後、お互いに無言になる、何故かアカリは顔をうつ向かせて俺の顔を見ようとはしない。
「……」
「……」
そんな沈黙を最初に破ったのはアカリだった。
何か覚悟を決めた様子で『よし!』(可愛い)何て言った後にまだ大分残ったお茶を一気に煽る。
そして、
「おい大丈夫か!?」
何でかわからんがぶっ倒れた。
念のため脈を確認してみるが全く問題なく、程なくしてアカリの寝息が聞こえ始めたので、どうやら寝てしまったみたいだ。
「イヤイヤ、何ちゅータイミングで」
どうやらマジで寝てしまったようで一向に起きる気配は無い、なので、
「……ちょっとイタズラしてみよ」
マジは手始めにホッペをツンツン、その後にホッペを引っ張ってみる。すると『ウーン』何てアカリが声をあげるもんで俺は少しドキッとする。
「……って、俺は何してるんだ」
流石に美少女が寝ている隙にイタズラとかマジで笑えない、なので俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせた後、アカリをベッドに運ぶことにした。
「でも結局触らないと運べないしな……」
しかしそんな事を言っているうちに風をひかれても困るので、俺は意を決してアカリにお姫様抱っこを決行することにした。
「し、失礼します……」
そうっとアカリを抱き上げて立ち上がる、初めて持った女の子の体重はかなり軽くてとても驚いた。
そのまま俺はアカリをベッドにそうっと下ろした後、胸をなでおろす。
「はぁ、なんか異常に疲れた」
そう言って眠るアカリに背を向け、離れようとした途端、
「うわぁ!」
何かに引っ張られて俺はベッドに両手を着く、そしてその両手の間にはアカリの顔、つまり今俺は壁ドンならぬ、ベッドドンをしていた。
「……風音君」
すると今度は俺の首に重力が掛かる、アカリが俺の首に手を回して来たのだ。
「……」
息が掛かるほど近い顔の距離に、俺は生唾を飲み込む。
しかしよく見るとアカリは眠っている、恐らく寝ぼけているのだろう。
そして、それと同時に、今なら少しくらいイタズラしても言い訳が立つ、と言うことになる。
「(……綺麗な唇)」
ふっくらと桜色のその唇は今ちょっと少しだけ顔を動かすだけで触れることが出来る。
金色の睫毛も、そしてクッキリとした鼻も、今行動するだけで全部手に入る。
気がついたら俺の顔は重力に負けてゆっくりと降下していた。
そして、
「何してるの、風音」
カチャリ、と冷たい金属が俺の後頭部に突きつけられた。
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