第8話 七島風音と愉快な仲間達3
タップリ二時間ほど歌いまくった俺たちは、店を出てファミレスで夕食をとった後解散となった。
そして帰り道。
「美月ちゃんは楽しかった?」
「うん、初めてだらけで楽しかった」
前に美月とアカリ、後ろに俺というポジションで歩くと言う少し寂しい展開になっていた。
いやだってしょうがないじゃん? 三列で並んで歩くと通行人の邪魔になるわけだし、一応常識を持つ七島風音なわけだし。
そんな俺の心の声など気にともせずにアカリが美月に話しかける。
「というか、美月ちゃん歌上手いんだね! 私聞き惚れちゃったよ!」
そう、俺もびっくりな事に美月はすこぶる歌が上手かった、それはもう聞き惚れてしまう程に。
俺の隣で誠は『天使よ!』なんて言いながら涙を流すほどに。
しかしあながち天使、と言う表現も頷ける、これは秘密だが俺も少しだけウルっと来てしまった。
「大したことないよ、昔風音と練習してた程度だし」
「ええ! 風音君と!?」
そうなの? と言った具合にアカリが後に振り向いて俺に答えを求める。
あぁ、そう言えばそんなこともあったな、
「まぁ、大分昔の話だけどね」
そう、だいぶ前、組織内で行われるカラオケ大会で優勝するために毎日練習した時のこと、しかし結果は惨敗、何しろその時の美月は笑ってしまう程音痴だったのだ。
それが今ではプロも顔負けの歌唱力、採点では95点を叩き出し、コンピューターも絶賛の嵐だった。
「へー、風音君と美月ちゃんは仲良しさん何だね、……少し嫉妬しちゃうかも」
「何でアカリが嫉妬するんだよ!」
アカリの言葉に内心少しドキッとしながらも、俺は笑って答える。そんな様子を見て美月は頰を膨らませながら、
「風音は私のもの、いくらアカリでも渡せない」
「何言ってんだ、俺はお前のものになった覚えは無いぞ!」
べし、と軽めに美月にチョップしてやると『むう』と美月は機嫌を悪くさせる。
そんな美月の顔を、不覚にも可愛いと思ってしまった。
「もー、私の前でイチャイチャしないでよ!」
「イチャイチャしてませ、」
その瞬間、俺の胸に軽く衝撃が走った、アカリが俺の胸目掛けて頭突きして来たのだ。
そんな突然の接触に心臓が早鐘を打つ、まるで胸を銃で撃たれたかのような衝撃だった。
「じゃあ、私家ここだから、じゃあね!」
そう言ってアカリは俺から離れる、そして美月に何やら耳打ちをしてから脱兎のごとく近くの一軒家に逃げて行った。
「……撃ち逃げは無いですよアカリさん」
そう俺が呟くと、
「って痛!」
今度は後頭部に鈍い衝撃が走った、犯人は美月だった。
「私、先に行くから」
それだけ言い残すと美月も走ってマンションの方へと行ってしまった。
「……何なの?」
まだ少し痛む後頭部を摩りながら、走って行く美月、いや、クイーンを見つめながら空を見上げると、満点の星空が瞬いており、それを見て俺は、
「今日は絶好の暗殺日和だな……」
そんな、一般人が口にしたらアウトなセリフを吐いたのだった。
*******
「……で、何でアンタが居るんですか?」
俺は、我が家自慢のソファーを陣取って居る人物にそう言った。
「何となくここらを通ったからついでに寄っちゃった☆」
「いやそんな明るく言われてもですね……」
因みに俺の部屋には大量の猫がいた、ここまで言えば我が家に不法侵入した犯人が分かるだろう。
そう、ランク一位のキングである。
「まぁ、別に良いですけど……暇なんですか?」
俺がキングにそう言うとキングはまるで撃たれたかのようなリアクションを取る。オマケに抱えている猫までもが同じ様な反応をするもんで、俺は苦笑いしてしまう。
「い、言うね、風音君。まあ、ぶっちゃけると暇なんだけどね」
「世の中も変わりましたね、前なんかは毎日依頼が来てたのに」
少なくとも一日三件は入っていたと思う、その依頼は重要度が高いほど上のランクに回される、まぁ、暗殺を頼むほどなんだからよっぽどヤバイ人なのは確実で、殆どは三銃士で片付けてたけど。
「いや、依頼は毎日来ているよ、ただ暗殺を実行する程対象が悪どい人じゃなから断っているだけで」
「あ、そう言う事なんですね」
勘違いして欲しく無いのが、暗殺者は依頼されたら対象を必ず暗殺するわけでは無い、と言う事だ。
その対象は暗殺するに足る人間か、それを見極めてから実行に移すのだ。
この際だからぶっちゃけると、俺が元いた組織は表向きには探偵事務所となっている。そしてその裏の顔が暗殺組織、と言うわけだ。
簡単に、暗殺するまでの流れを説明すると、まず、依頼が来ると同時に対象の素性を探偵が探る、そしてその対象が暗殺するにあたる人間だと言う確証が持ててからが、暗殺者の仕事、と言うわけだ。
そこからは適任とされる暗殺者を上が決め、選ばれた人が実行する。これが基本的な流れである。
「引退して一般人になった俺からすれば、暗殺者の仕事が少なければ少ない程良いと思うのが普通なんですけどね」
しかしながら、俺は元々組織の人間であり、組織の内情を知っている。
暗殺家業で稼いだ金の行く先も。
「まぁ、何とも言えないよね、何せ金の大半が身寄りのない子供達の生活費に回されているんだからさ」
キングは儚げな顔をして猫を撫でる、撫でられている猫は気持ち良さそうな声をあげてキングの膝の上に収まっている。
「それと同時に僕の給料も減るしね」
「それは言えてますね」
そう言ってお互いに笑い合う、
と、そこであることに気がつく、
「というかクイーンはどこ言ったんですか?」
リビング内を見回してもクイーンの姿は見当たらない。
開け放たれた隣の寝室を覗いて見てもそこにクイーンの姿は無かった。
そんな俺の姿をみてキングは、
「ああ、クイーンなら銃を持って外に出かけたよ? おかしいね、クイーンの仕事はもう無いはずなのに」
それを聞いた瞬間、俺はキングが口にした真の意味を理解しないまま1LDKの我が家を飛び出した。
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