第7話 七島風音と愉快な仲間たち2
ぶっちゃけ、楽しい高校生活を過ごすために一番大切なものは即ち、
ノリ、である。
これさえ習得していれば大抵のことは乗り切れるし、尚且つ友人との信頼関係も同時にゲット出来る。
正しく一石二鳥、一撃必殺なこのノリであるが、ノリが大切なリア充グループに、ノリを一切持たない人間が居たらどうなると思う?
「カラオケ、って何?」
正解は、
「あはは! 美月ちゃんってほんと面白いね!」
「確かに! 世間知らず、って奴?」
「違うって! これは恐らく……天然って奴だよ!」
正解は、化学変化を起こして打ち解ける、でした。
……何故だ。
「いやぁ、ほんと美月ちゃん天使だよな……」
俺の隣にいるバカがそんな事を呟く、しかし彼らは知らない、その女が三本の指に入る実力を持つ暗殺者である事を。
「天使、ねぇ」
どちらかというと悪魔なんだけどな。
なんて言ったら、空気を壊しかねないので自重するが、紛れもなく彼女は暗殺者である。
しかし、ああして普通に年頃の女の子達と会話していると、どこからどう見ても暗殺者には見えない、というか、クイーン、八島美月に暗殺者は向いていない、彼女の居場所は表の世界がピッタリなのだ。
「どうした? 風音、考え事か?」
「あ、いや、なんでもない」
「風音っちは美月ちゃんが気になるんでしょ!」
とかふざけた事を抜かす彼女は、
しかし俺から言わせれば南部の方が天然だと思うのだが。
「うっさい天然女」
「うわーひどい風音っち、アカリン風音っちがいじめてくる!」
「まぁ光が天然なのは風音君に賛成だけど」
「私は天然じゃなーい! どちらかと言うと人工物だよ!」
「そう言うところが天然なの!」
全く、天然の人は自覚が無いって言うけどこれは本当らしい。
証拠が目の前に存在するし。
「まぁ確かに光は天然かも?」
そういうのは、
「もー、真奈までそう言う!」
因みに南部と早瀬は幼馴染らしく、週に一回はお泊まりするほどの仲だとか、最近ではそのお泊まり会にアカリも参戦しているらしく、俺も何度か誘われたことがある、俺の親友である誠は誘われたことが無いらしい、理由を聴くと、
『誠は野生児だから』
だそうだ、これを言ったのは早瀬だ。
俺は悪くない。
「いいからカラオケいこーぜ? ほら美月ちゃんも!」
話を切り替えて誠が先陣切ってズンズンと歩いていく、それを見ていると誠が野生児と言われている理由も何となく分かる気がした。
********
カラオケにつき、割り当てられた部屋で各々がくつろぎ始める。その部屋は割と広くて、普段は十人前後の人数の時に割り当てられる部屋らしい。
そんな部屋を美月が見て一言、
「私知ってる、ここがラブホってとこでしょ?」
「「「「「ブフゥ!!!」」」」」
美月の爆弾発言にみんなが吹き出す、幸いな事に誰も飲み物を含んでいなかったので虹がかかることは免れた。
「ち、違うよ美月ちゃん、ここはそのぉ……rブホじゃなくて、歌を歌うとこ!」
アカリが顔を赤面させて美月に説明する、いやぁ、照れてるアカリも可愛いです!
「あれ、そうだったんだ」
「ナハハ! 美月は面白いね、てかアカリン顔赤すぎ!」
「そ、そう言う光だってラブホの事なんか全然分からないでしょ!」
「そそそ、……そんなことは……」
目を逸らして俯く南部、まあ高校生でラブホいく奴なんてそうそういないよな……。
因みに俺はラブホ経験済みである、しかし別にえっちぃ事してたわけでは有りません、仕事ですから! 嘘じゃないから!
「よーし、んじゃあったまって来たところで俺から一発行っちゃうよ!」
いたたまれなくなった空気をぶち壊すがごとく誠がハイテンションでマイクを掲げる。
こう言うことが自然にできるのが誠の凄いところである。
「おお、期待してるぞ誠ー」
俺は棒読みで誠を盛り上げる、すると俯いていた女子陣もつられて誠を茶化す、これで空気の修繕完了である。
ただし、たった一人、美月だけは俺を見て儚げに笑っていた、それは、まるで成長した子供の姿を感慨深く見守る親の様であった。
「まあ、経験した事ないんだけどな」
そんな俺の言葉は誠の流したJ-POPによって掻き消された。
そして、そんな光景を真顔で見つめているアカリに気づいたのは美月だけだった。
その後、ドリンクバーのコップ片手にジュースを取りにいく際に、レジの所に数匹の猫を連れた人物を見かけたのだが、俺は知らないふりして好物である柑橘系微炭酸の某ジュースを注いでいた。
……アンタ何してるの。
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