第4話 クイーンとジャック
ベットに潜りながら俺は昔の事を思い出していた、それは初めての任務の日、
……いや、正確に言えば幼い頃のクイーンの初任務の日のこと。
まだ一度も任務をこなしていない訓練生の中で、クイーンの成績は優秀で、俺は何においてもクイーンの次だった。
だが、別に俺はそれについて特に何とも思っておらず、ただただ、『コイツはすごいな』何て他人事みたいに思っているだけだった。
恐らくコイツは将来有望な暗殺者の卵何だな、何てぼんやりと思いながら、首席のクイーンの初任務のブリーフィングを俺は影から見つめていた。
『……嫌だな』
クイーンは任務の前に俺にそう言った、首席と次席との関係で、日常的に話すことが多い俺とクイーン、しかしながら、クイーンが俺に弱音を吐いたのは初めてのことだった。
だがそれも当然の事と言える、何せ暗殺、人を一人殺すのだ。ましてやそれが初めてとなれば誰だって嫌悪感を示す。
そんな事は幼心ながら分かってはいるものの、完璧だと思っていたクイーンの弱音を聞いた俺は、何故かは知らないがすぐさま上に取り次いで貰って、クイーンの任務の同行を求めた。
一応次席だった俺の頼みで、何とかクイーンの任務の同行を認めて貰った俺は、支給された刃渡り凡そ十五センチ程のナイフを見て、少しだけ震えたのを覚えている。
子供に暗殺をさせる組織、それは字ズラから見ればとても褒められたものでは無いことなど一目瞭然、しかしながら、俺達のような捨て子にはそこしか居場所が無かった。
……それに、組織の仲間達は例外なく温かかったのだ。
人を殺すのは嫌だ、しかしやらなければ組織から追放されるかも知れない。
今思えば洗脳されていたのかも知れない。
だが、未だに俺は組織を憎んだ事など1つも無いのだ、今のこの生活だって組織のお陰で成り立っているのだから。
目の前で震える男に刃を下ろそうとするクイーン、しかしその刃は最後まで下ろされず、男に刃を奪われてしまう。
俺はその様子を影から見つめていた、形成は逆転し、今度は男が刃をクイーンに突きつける、クイーンは震えていた、あの完璧だと思っていた少女は、所詮ただの少女だったのだ。
その後の俺の行動は素早かった、影から瞬時に飛び出し、クイーンに馬乗りになる男を押し倒し、教わった通りに対象から刃を奪い、体術を使って相手を地面に這いつかせる、
馬乗りになった俺は手にした刃を―――
―――――その後の俺の記憶は飛んでいた。
××××××××
暗殺者と言うのは色んなことに敏感だ、人から向けられる殺意や怨恨、ましてや銃口を向けられるとどれだけ熟睡していても瞬時に覚醒する、
だから、
「バカかお前!!」
クイーンに銃口を向けられた俺は週末の土曜、朝五時に頭に銃口を突きつけられると言う斬新な起こされ方をした。
「風音を起こすにはこれが一番だってキングが」
「そりゃそうだろうな!!」
二度も言うが暗殺者は敏感だ、と言うか俺が特別敏感なのかも知れないが、それにしても寝ている最中に銃口を頭に突きつけられたら誰でもすぐ起きると思う、
ん? 俺だけ? あそ。
「朝のランニングに行くよ」
手にした銃を懐にしまい込み、クイーンはベットの上の俺を見下ろす形で語りかける。
「行きません、俺はもう暗殺者じゃないから鍛錬なんてしなくていいんだ!」
心地のいいベットから何としても出たくない俺は、もう既に準備満タンなクイーンに全力で抵抗する。
大体今の季節はまだ少し肌寒い春、早朝からランニングなど専らインドア派の俺からしたらそれは死刑の様なものだ。
しかしながら目の前のクイーンは、
「起きなければ……撃つ」
「……りょ、了解」
息子の命を人質にされたので渋々俺はまだ温もりの残るベットから立ち上がったのだった。
いやはや、本当に死刑にされるところだった。
××××××××
自慢では無いが、俺の住む近辺は割と富裕層の住む住宅街だ、まぁ、実際俺の住んでいる1LDKはマンションであり、特に家賃も高い訳でもないのだが。
一応買っていたランニングウェアに身を包み、クイーンと一緒に住宅街をランニングする。チラホラと犬の散歩をする美魔女さんや、俺たちと同じくランニングをする人達とすれ違いながら走ること早十分、
「……体力の低下を感じる、俺も歳だな」
ポツンと光る自動販売機の前で息を切らしながら俺は硬貨を自販機にいれ、お茶を購入する。
「風音、少したるんでるんじゃない?」
「そりゃそうだ、引退してから半年位経つし、筋トレとか全然して無いしな」
と言うかする必要が無い、モテモテリア充の俺からすれば大事なのは筋肉では無く、学校内での立ち位置なのだ。
それよりも、
「と言うか、お前、前から気になってたけどその髪どうしたんだよ?」
今は後ろで結んでいる銀色のポニーテールを見つめながら俺はそう言う、それに対しクイーンは少し暗そうな顔をして、
「まぁ、色々あって」
何て言ったもんで、俺はその後何も聞けなかった。
正直に言うと前の黒髪よりも今の銀髪の方が似合っている、ここらでは珍しい青色の瞳と相まってかその容姿は美少女と言っても過言ではない。
「んま、似合ってるからいいんじゃないかな?」
「……そう? ならいいけど」
俺が褒めても特に気にしない様子でクイーンは「行こ」と一言だけ呟き、また走り始める。
……まだ走るのかよ。
××××××××
ようやくランニングが終わった頃には俺は疲労困憊で、我が家に着いた途端に玄関に倒れ込んだ。
「あー、シャワー浴びたい……」
いくら汗だくとはいえこのまま眠れる程俺はガサツでは無い、一応清潔さを高校で売っているのだ。
なので立ち上がってシャワーを浴びるべくお風呂場へと急ぐと、
「まずは私が入る、風音は後で」
と、クイーンが片手で俺を制す、しかし負けじと俺も睨んで反抗を示す、そして数秒睨めっこ。
「……」
「……」
「……一緒にはいる?」
「バカか! あー分かったよ! 先入ってこい!」
数秒の睨めっこの末、勝利したのはクイーンでした、俺が先を譲るとクイーンは何故か不服そうな顔をしながらお風呂場へと消えていった。
「……まぁ、正直言うと一緒に入りたいんですけどね」
勘違いしないで欲しい、これは早く汗を流したいって理由であって、決してやましい気持ちなんかは一つも無いんですからね?
「……って、誰に言ってんだか」
そう零した後、俺は冷たいフローリングとキスをした。
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