第2話 かつての暗殺者は嘆息する
今日も今日とて俺、七島 風音はモテモテだった、俺の住む1LDKには毎日可愛い女の子達が遊びに来ては俺にくっ付いてくる。
『ねえ風音、……大好き』
『ちょっとあんた! 風音は私のものだし』
『何を言う、風音はボクのものに決まっているだろう?』
『ま、まあまあみんな! 俺は何処にも逃げないよ。俺はみんなの風音だからさ!』
特に可愛い三人が毎日俺を取り合うこの光景。
リア充はここにいた、
そう、俺である。
『『『風音!!』』』
『ああ、みんな愛しているぜ!!』
高校生活万歳。顔も知らない両親よ、俺は元気でやってるよ。
青春万歳。俺を育ててくれた組織よ、ただただありがとう。
********
と、そんな夢を見た。
「……デスよねー、いくらリア充ライフを謳歌しているからと言っていくら何でも」
ベットから勢いよく起き上がった俺は大きな欠伸をこぼしつつ、フローリングの床へと足を下ろした。
ちなみに俺の家はベランダがあり、俺が、ベットから起き上がる時の視線の中に窓の外のベランダが丁度見える。
そのベランダは隣の部屋のリビングへと繋がっており、部屋から部屋へとベランダを通って移動可能。
とにかく何を言いたいかと言うと。
「……」
そこのベランダからジッと俺を見つめる女がいた。
「いやこぇぇーよ!?」
朝起きたらベランダに美少女が立っていましたって、軽くホラーなわけだし。
と言うかソレはどこのラノベタイトルなわけ?
「……とにかく入ってきたらどうだ?」
呆れ口調とジト目のコンボを決めつつベランダ沿いの窓の鍵を開ける。
するとそいつは、
「おはようございます、ジャック」
何て、それだけ言い残してベランダからリビングへと消えていった。
「……何なのアイツ」
そんなため息混じりの愚痴を零して、俺は高校の制服へと裾を通すのであった。
「と言うかジャック言うなし」
そんな昔の忌み名を吐き捨てながら。
×××××××
基本的に暗殺者と言う仕事は儲けやすい、何せ人の命を奪って、それの対価を貰うわけだから、人によっては一つの依頼当たりで数千万は下らない。
つまり俺が何を言いたいかと言うと、目の前のテーブルの向こうに座る女は、暗殺者の中でも指折りの実力の持ち主、三銃士と言う名のトップランカー、そんな奴が俺を訪ねて来た理由。
そんなの考えれば明白だ。
「……んで、いつ俺を暗殺する訳?」
トーストを一口齧り、俺は目の前の元同僚にそう言った。
しかして、そんな俺の問いを華麗にスルーしてコーヒーを口に含む。
「私がジャックを暗殺出来るはずが無い」
コーヒーを、飲み終えた元同僚はそう言った。
謙遜にも程がある、実際この元同僚は俺よりもランクが上なのだ。ジャック、クイーン、キング。そんな三銃士の中で元同僚はクイーンのランク。
銀色のアサシン何て二つ名まで持つ程の裏の社会では有名な暗殺者。
まぁ、実際こいつの髪の色は元々黒なわけで、銀色の髪の毛は染めたんだと思うけど。
「馬鹿言え」
――――やろうと思ったら今にでも出来るだろう?
その言葉を口に出すことは出来なかった。
「大体、ジャックがいきなりいなくなるのが悪い、私は結構心配した」
「ちゃんと組織に話を通して正式に暗殺者をやめたんだ。ルール違反はしていない」
俺が突き放すようにそういうと、元同僚は、
「でも、ジャックは最後まで私の面倒を見てくれるって言った」
「……そんな昔の事!!」
力強く椅子から立ち上がると、俺の前に置かれたコーヒーの中身が少しだけ零れる。
少し冷静になろうと立てかけられた時計に目をやると、時刻はいつも俺が出る時間よりも十分ほど遅れていた。
「俺は行くからな」
それだけ言って、俺はカバンを乱暴に掴み取り、玄関の扉を乱暴に開け放つ。
まるで過去のしがらみを断ち切るが如く。
××××××××
そして学校が終わってすぐさま帰宅する。
家のドアを開けるとそこには、
『にゃー!』
何故か猫がいた。
「何だか嫌な予感が……」
頭痛で、倒れそうになるのをどうにかこらえならがら、俺はリビングの扉を恐る恐る開いた。
するとそこには。
「おーう、ジャック久しぶりー!」
かつての元同僚。堂々のランク一位、キングの名を持つ暗殺者がいた。
そいつの容姿は、長い金髪と青い瞳、見るもの全てを魅了する程の整ったルックスを持つ
……男だ。
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