第4話 旅立ち(仲は · · · まあ、ね)

《魔王に与するつもりか!》


 俺はクレアの衝撃発言に言葉を失い固まっていた。


「待ってください、二人共~。」


 そんな、二人の隙を知ってか知らずか、シュバリーがやって来た。


「貴殿は領主殿の御子息か、今はこの魔王堕ちを早急に処分せねばならないのだ!」


「ち、違うのですクレア様この人は魔王堕ちではないんです。」


 因みに魔王堕ちというのは自分の力に過信して単身魔王に挑みボコボコにされて魔王の配下に堕ちるバカの事である。

 


「では聞くがこの者が魔王堕ちではないのなら、なぜ姫に、いや勇者様にあれ程の非道な行為が出来るのだ!」


「この人は只のなんです。」


・・・・


「はぁ?」


 クレアが呆気に取られた顔をする。


「いくら太っているからと言って女性にそこまで──、」


「待て、まず前提として《デブ》は女じゃない。と言うか人間であることも恥じるべきだ。」


 俺の発言にクレアは眉を潜めながらも俺に問いかける。


「では、勇者様に対する暴言は」


「《デブ》だからだ」


「では、勇者様をボコボコにしたのは」


「《デブ》だからだ」


「では、兵士たちを魔法で倒したのは」


「《デブ》をあのままでこの町に入れたからだ」


 クレアはシュバリーと俺を交互に見つめ深く溜め息をついて言った。


「はぁ、わかりました。一旦領主殿の家に戻って話合いましょう。」


 俺達は一旦、領主の家に戻る事にした。

 領主の家に着くとあの《デブ》はまだ壁に埋まったままだった。それを見たクレアは


「とりあえず、ハルカ様を出すのを手伝ってくれないか?」


「わかった。」


 不本意だが、こいつがいないと話し合いにならないからな。ついでに俺が直視出来るようにして置こう。

 俺は《デブ》に対して魔法を使う。


「スリムス!」


····しかし、あの《デブ》に変化は無い。


「おい、騎士さんこれはどういう事だ?」


「一体なんの事だ。」


 動揺の余り、何の脈絡もなくクレアに尋ねてしまった。


「あぁ、悪い。俺は今この《デブ》に魔法を掛けたのだが効果が見られないんだ。」


 クレアは「あぁ、そうか」と納得して、俺達に説明した。


「ハルカ様は転生時に《神の加護》で《絶対防御》を手に入れて居るのです。」


 《神の加護》か、俺の加護は多分あの重力魔法の常時発動なんだろうな。まあ、今はそんな事より、


「その《絶対防御》ってなんだ?」


「文字通り、どんな攻撃も魔法も無効化するバリア見たいなものです。」


 なんだそれ、チートじゃないか。でも、俺の魔法が効かなかった理由は分かった。


「それって、一時的に解除出来ないのか?」


「ハルカ様が解除と言えば《絶対防御》は解く事ができます。」


 ON,OFFは自由って事か、


「じゃあ、騎士さんその《デブ》を起こしてくれ。」


「それよりも、ハルカ様を出す方が先では?」


「いや、そいつを出すのは俺が魔法を使えばすぐ出来る。だから、そいつの《絶対防御》を解除させてくれ。」


 クレアは渋々ながら、ハルカを起こす。幸いハルカは二、三度頬を叩けば目を覚ました。


「あれ?あたしこんな所で寝てるんだっけ?」


「ハルカ様、事情は後で話しますので一旦絶対防御を解除してください。」


 クレアにそう言われハルカは「解除」と言った。

 すると彼女を覆っていたオーラが少し薄くなった気がする。


「今ならハルカ様にも魔法が有効です。」


「よし、スリムス!」


 俺が魔法を発動すると、ハルカの体がみるみる細くなっていった。

 そして、30秒程でハルカのは怠惰の塊から中肉中背に変形した。


「これは変身魔法ですか?」


「いや、違うこれは重力魔法だ。」


 俺の発言にクレアは驚愕する。


「重力魔法でこんな事が出来るなんて聞いたことがありません。では一体、ハルカの脂肪は何処に消えたのですか?」


 クレアは困惑しながら俺に尋ねてきたが、それと同時にハルカが目を覚ます。

 因みに細くなったお陰で壁からは脱出している。


「うーん、何これ?何だか全身がラップで包まれた見たいな感じ。」


 クレアは「ラップ?」と聞き慣れない単語に困惑していたが説明が面倒だから置いとこう。


「それは重力魔法で押さえつけてるからな、全身に圧迫感があって当然だ。」


「でも、重力魔法って地面に押さえつける魔法じゃないの?」


 ハルカが問いかけてくる。


「それは地面もしくは地球を中心に魔法を発動した場合だ。この魔法は骨を中心に肉、脂肪、皮に重力を掛けて見た目だけ細く見せているんだ。」


「えっ、細く?」


 今更気づいたのか、ハルカは近くにあった姿見を見る。

 なぜ姿見が近くにあったかと言うとシュバリーがしれっと持ってきただけだったりする。


「凄い、あたし痩せてる。」


ドスッ!


 勘違いも甚だしいデブにチョップをお見舞いする。


「勘違いするな。お前は痩せてないただ見た目が細くなっただけだ、体重も脂肪率もさっきと何も変わらない。」


 ハルカの間違いを訂正したが反応がない、よっぽどショックだったのか?少し屈んで様子を見ると、


·········。


 ──していた。


 あっ、こいつ絶対防御解除してるんだった。


「悪い、騎士さんこいつをベッドまで運んでくれませんか?」


「は、はいすぐに···、うっ重い。」


 クレアはお姫様だっこでハルカを抱えようとしたが推定100キロ越えにそんな事出来るはずなく、諦めてシュバリーと一緒に運んだ。

 しばらくしてハルカは目を覚まし、粗方の事情を説明している。

 理由はまた俺が暴力を振るいそうなのとハルカを信用させるには第三者がいいと思ったからだ。


「とまあ、そう言う訳でマサヒロは貴女が禁句を言ったので殴っていたんです。」


 シュバリーの説明にハルカは少し納得が行かない様だが了承してくれた。


「とにかく、マサヒロはあたし達と一緒に魔王を倒しに行ってくれるのね。」


「ああ、一応な。だが勇者の従者全員を集めた時点でお前が痩せて無かったら今度は二度と人目に付かない様に地面に埋めてやるから覚悟しておけよ。」


「分かったわよ、絶対に痩せてやるわ。」


ガサッ、


 ハルカは何かを手に持って俺に高らか宣言する。


「このマヨネーズに誓ってね。」


ブチャッ!


 なので俺はそのを文字通りブラックホールに消し去った。


「いやぁぁぁ、あたしの生命線がぁぁぁ」


 俺、こいつと上手くやっていけるかな?一抹の不安を残しながらも俺達の冒険は幕を上げる。

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デブ嫌いの俺が転生したのはオーク族(デブ共)が支配する世界だった...。 結城 岩次郎 @io-san

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