第3話 勇者(認めません)

 試合の翌日、朝食後に俺はガディンに話掛ける。


「ガディン兄さん、昨日は気が動転して足が直ったら試合しようって言ったけど、やっぱり試合は一ヶ月後にしてもらってもいいかな。」


「いや、あの試合は引き分けだから、お前は俺たちの事を気にしなくてもいいんだぞ。」


 ガディンは優しいきっと俺に気を使ってるんだ。


「ガディン兄さんの気持ちは嬉しいけどこれは俺が言い出した事だしちゃんと決着を付けて起きたいんだ。」


「いや、でももう──」


 ガディンの顔が青ざめて見える。きっとまた俺が骨折するかも知れないと思っているんだ。


「大丈夫、今度はちゃんと修行して骨折なんてしないようにしっかり鍛えるからさ。じゃあ、早速修行してくるのよ。」


 俺は話も途中にドアを開けて走り出した。


 ただそれを呆然と見送っていたガディンにステイが肩に手を置いて言った。


「──頑張れよ。」


「いやだぁぁぁぁ!!」


 ガディンの断末魔が聞こえた気がしたが、俺は真っ直ぐ《領主の家》へ向かった。


──領主シルフォード家──


「シュバリー君、あーそーぼー。」


ガタッ、ドタドタ、ゴロゴロ、ドドン!


 俺が大声で呼ぶとシュバリーが凄い音を立てて降りて来た。


「な、なんだよ急に。」


「ああん?」


「いや、どう言ったご用でしょうか?」


 シュバリーは怯えきった様子で俺に訪ねて来た。


「ちょっと魔法の訓練に付き合って貰おうと思ってさ。」


「えっと今日は朝から体調が···。」


「来るよな。」


「はい」


 快く?同行してくれたシュバリーと共に青い森に向かった。


「修行って一体何をするんですか?」


 道中シュバリーがそんな事を聞いてきたので、俺は説明してやる。


「とりあえず、身体強化の為に自分に掛けてる重力魔法を二倍にして、複数同時発動の練習と局所的に魔法を使える様にする調整とかだな。」


 説明を終えた後に「それから」と繋げてシュバリーに言った。


「その気色悪い敬語止めろ。」


「はい」


ギロッ!


「あっいや、うんわかった。」


 そんな事を話ながら歩いていたのであっという間に青い森に着いた。


「じゃあ早速、重力結界グラビティフィールド2」


 俺は自分の足元を中心に半径五メートルの重力魔法を使う。


「えっ?おごっおごおお!!」


 重力に負けてシュバリーが地面にキスしていた。が俺は気にせずトレーニングを始めた。


「ど、どうしてマサヒロは普通に動けるんだ?」


「そりゃ、普段から1.5倍の重力で生活しているからな。そんな事よりさっさと立てよ、これじゃトレーニングにならない。」


「そんな事言われても」


「早く」


「·····はい。」


 それから一ヶ月、シュバリーに合わせて重力を上げながら、俺達はガディンとの再戦に向けて修行を重ねて行った。


──ケアリス村中央広場──


 俺は昼食の買い出しに出ていた。

 なぜか、ガディンが「試合は昼食の後にしよう。腹が減っては戦は出来ないと言うからな。」と言って俺に買い出しを頼んでどこかへ行ってしまったからだ。


「あ、マサヒロおはよう。」


 少し痩せ形の少年が俺に駆け寄ってくる。


「おはよう、シュバリー」


 シュバリーは俺との特訓の末に《結果にコミット》していた。しかし、俺はシュバリーの手に持っている大量の串焼きが気になって仕方無かった。


「おい、お前まさかそれを一人で全部食う気じゃないだろうな。」


「いや、これは父さんや妹達と分けようと思って」


 シュバリーはそう言ったがシルフォード家はシュバリーの両親の他に妹と弟が一人ずつの五人家族なんだがそれに対して串焼きは30本以上あった。


「お前の家族は一人6本ずつも食べるのか?それにお前の姉弟達はまだ6歳と4歳だったよな?幼い内からそんなに食うとは将来は昔のお前見たいになりそうだな。」


「それは····。」


 シュバリーは諦めた様に事情を話した。


「実は今、俺の家に勇者様が来ていて、」


 勇者と言う事は俺と同じ転生者か。


「なるほど、じゃあそれは勇者をもてなす為のご馳走と言う訳か。」


「いや、おもてなしのご馳走はもう食べ終わってまだ足りないからと俺が買い出しに──、」


 よほどの人数が来ている様だな、でもなんで俺に秘密にして置く必要があったのだろうか。

 これは確かめないとな。


「よし、じゃあ俺も勇者様とやらに挨拶しないとな。」


「えっ?ま、マサヒロは買い出しの途中だったんだろ?今は一旦帰ってまた後日会えば良いじゃないか。」


 やはり、おかしいシュバリーがここまで隠したがるのは理由があるに違いない。


「いや、もし何かの行き違いで勇者の従者である俺が置いて出発されたら面倒だからな。」


「待てよ、マサヒロ!」


 シュバリーの制止を無視して領主の家に向かった。


──領主シルフォード家──


「マサヒロやっぱり明日にしないか?」


 無視してドアを開けズンズンと食卓へ向かう。


「シュバリー、遅かったじゃないか····なぁっ!」


「どうもご無沙汰しています。領主様。」


「ま、マサヒロ君久しぶりだね。今日は急にどうしたんだい?」


 領主クリス・シルフォードは平静を装いながら額に脂汗を滲ませていた。

 しかし、俺は食卓の椅子の上にあるその《モノ》に意識が集中していた。


「いや、街で勇者が訪れていると耳にしまして、そんな事よりそこの椅子に乗っている《モノ》はなんですか?」


 俺は出来るだけオブラートに包んで領主に問う。


「そ、それは、その、あの」


 歯切れの悪い領主に今度はハッキリ言う。


「領主様、俺はただあそこにある《デブ》はなんだ。と聞いているだけですよ?」


バンッ!


 俺の発言に気を悪くしたのか、《デブ》の隣の席に座っていた騎士らしき人物がテーブルを叩いて立ち上がる。


「貴様言わせて置けば勇者様に対して何と言う態度、何様のつもりだ。」


 出来れば違ってて欲しかったが、やはりあの《デブ》が勇者の様だ。

 てか騎士の人声高いな少年役をよくする女性声優みたいな声だ。


「何様も何もこの通り勇者の従者だよ。」


 そう言って俺は左手の甲を見せた。


「第一紋だと?!」


 勇者の従者の証には初めてからランク付けがしてあり、第一から第五までの紋様の違いで印され総体的な強さで順位を決める。


「貴様は聖騎士なのか?」


「いや、治癒術師だ。」


「嘘を付くな!私を謀るつもりか。」


 信じられないのも無理は無い、回復職である俺が勇者の従者の中で一番強いなんて異例中の異例だ。


「信じる信じないはこの際どうでもいい、そもそも俺もその《デブ》が勇者だなんて信じられないからな。」


「貴様はまた性懲りもなく!」


 俺達が平行線の言い合いをしていると、椅子に乗っていた《デブ》が口を開く。


「落ち着いてクレア、ここは私が出るわ。」


「ハルカ様。」


 《デブ》の一声で騎士クレアは落ち着き、その《デブ》は俺に近づき耳元でこう言った。


「ねえ、貴方どうせ童貞でしょ?あたしと一緒に来てくれたらイイコトしてあげるからここは素直に付いてきてよ。オ・ネ・ガ──」


ドゴォォ!


「寄るな《デブ》虫酸が走る。」


 余りに不愉快だったので思い切り蹴り飛ばしてしまった。死んでないよな?

 しかし、《デブ》は何事も無かった様に立ち上がる。


「もう!女の子から誘ってるのに蹴り飛ばすってどう言う事よ!」


「何を言ってる?《デブ》は女の子じゃないだろ。」


「さっきからあたしの事をデブ、デブ言ってあたしはデブじゃないわよ。百歩譲って《ぽっちゃり》よ。」


ドゴォォ!


 怒りの余りにもう一発蹴り飛ばしてしまった。だか今の話は聞き捨てならない。


「冗談はその惰肉だけにしろ、《ぽっちゃり》って言うのはな標準体重より多少肉付きの良い人間の事を言うんだ。お前みたいな《デブ》が使って良い表現じゃない。」


 さすがにあの《デブ》も壁にめり込んでは動けない様だ。

 《デブ》が静かになって一息つくと俺の周りを数人の兵士が取り囲んでいた。


「き、貴様よくも姫様を!」


 クレアが怒りの形相で俺に詰め寄ってくる。てか、あいつ姫だったのか。


「たとえ、第一紋を持っていても奴は勇者に仇なす逆賊だ。引っ捕らえろ。」


 合図と共に兵士達が剣を構えて襲って来たが、狭い部屋の中では動きも制限され行動も読みやすいので俺は初撃をかわして家の外に逃げる。


「ええい、何をしている。奴を逃がすな!」


 家を出ると兵士達が追ってきた。まあ、わざとゆっくり走ったんだが。

 俺はそのまま近くの草原まで走り、周りに障害物の無い場所で止まる。


「はぁはぁ、やっと観念したか?」


 息切れしながら言われても···。


「いや、ただ領主様に迷惑が掛からない様にここまで誘い出しただけですよ。」


 俺とクレアが話している隙に兵士達が俺を取り囲んでいた。


「ふん、貴様もここまでだな。」


「ああ、これで終わりだ、重力結界グラビティフィールド3!」


 俺が魔法を発動させると、兵士達がうつ伏せで倒れる。だが、予想外にクレアは立ち塞がっていた。


「この程度の魔法で私を倒せると思うなよ。私だって貴様と同じ勇者の従者なのだからな。」


 そう言ってクレアは左手の甲を見せながら気合いを放つ。

 なんか某漫画の行動不能解く時の奴見たいだな。まあ、俺の魔法は範囲魔法だから関係無いけど。


「うおぉぉ!」


 やはり、気合いは自分を奮い立たせる為の儀式見たいなものか。クレアは叫びながら切りかかって来る。


「そんな、真っ直ぐな攻撃じゃ俺に当たらないぜ。」


 クレアの初撃をかわし、二撃三撃目もかわす。


「くそくそ、なぜだ!なぜ貴様のような奴が勇者の従者で私より強いんだ!」


「それはちゃんと努力しているからな。」


 俺のその発言が気に入らなかったのか、クレアは更に憤怒して攻撃してくる。


「努力なら私だってしている!年齢だって変わらないだろう、それに私は五歳の頃から父様に稽古を付けて貰っていたのだぞ。」


「まあ、俺は稽古事態は六歳からだが魔法の自主連は生まれた時からやってるしな。」


「···生まれた時?」


 ──しまった。これは言ってはいけない奴か?でも、勇者の従者は半分は転生者だし問題無いと思うのだが、


「やはり、貴様も転生者か、転生者は恵まれた環境で才能に恵まれその上に胡座をかいて私達第四、五紋をバカにする。その上で貴様は勇者に仇なしつもりか!」


「はっ?」


 途中までのクレアの言葉は理解出来たが最後が唐突過ぎて俺には理解が追い付かなかった。

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