第2話 覚醒(記憶が戻るだけです)

 俺が転生して15年の月日が流れ、記憶が戻る時が来た。


──ケアリス村はずれの青い森──


「おいマサヒロ、お前勇者の従者なんだろ?じゃあ、この毛虫なんか握りつぶせるよな?」


「シュバリーさん、こいつには無理ですよ。従者の証持ってるくせに皆より足遅いし力も全然ないんですから。」


 小太りとやせ形の少年二人組がマサヒロに詰め寄っていた。


「や、やめてよ、毛虫怖いよ。」


 マサヒロは半泣きになりながら後退りしている。


「まったく、なんでお前見たいな弱い奴が勇者の従者なんだろうな。そうだ、なんなら俺がお前の代わりに勇者の従者になってやるよ、お前は一生自分の家で毛虫に怯えながら生きてろよ。」


 そう言って、シュバリーは毛虫をマサヒロに向かって投げた時、立ち眩みがして地面にへたり込んだ。


「ははっ、こいつ毛虫を避けようとして転んでやがる。ほら、どうした?お前は勇者の従者なんだろ?」


 シュバリーが毛虫を掴み俺に投げようとしたとき──、


 ───毛虫が一点にまとまる様に弾けとんだ。


「へっ?」


 シュバリーは呆気に取られていたが俺は気にせず口を開く。


「どうした?お前が潰せって言ったんだろ。」


「マサヒロ、お前一体?!」


 俺の豹変に困惑する二人に俺は続ける。


「つまり、これが俺の本気ってことだ。」


 すると、やせ形の少年が手のひらを返す様に俺の後ろに付きいい放った。


「さすが、マサヒロさんオイラは初めからあんたは出来る人だって思ってたんですよ。」


「バリンてめぇ。」


 シュバリーの睨みに少し怯えるバリンだが続けていい放つ。


「お前見たいな威勢がいいだけの豚野郎はマサヒロさんに粛清されちまえばいいんだよ!」


「バリン、言わせて置けば!」


 怒りの余りバリンに飛び掛かろうとしたシュバリーより早く俺の手がバリンの胸ぐらを掴み持ち上げる。

 呆気に取られるシュバリーを他所に俺はバリンを怒鳴りつけた。


「間違えるな、そいつは豚じゃねえ《デブ》だ。豚に謝れ!」


 俺の予想外の行動にバリンは「ご、ごめんなさい~」っと泣きじゃくりながら走って行った。

 そして、腰が抜けて動けないと言った様子のシュバリーにも一喝する。


「てめぇも目障りだ。とっとと消えろ、俺に捻り潰されたく無かったらな」


 俺の脅しにシュバリーは地面に這いつくばりながら逃げて行った。

 一人きりになった森の中で俺は静かに笑い出す。


「ハハハ、いやぁスッキリした。」


 前世の記憶が戻ってもこの15年の記憶は消えないのであの二人に一泡も二泡も吹かせてやった事に大きな快感を感じる。

 しかも、15年間自分に魔法を掛けていたおかげで魔力量の最大値も凄い値になっている。


「いやぁ、これはちょっとのチートのつもりがヤバいほどのチートになったかもな。」


 自分の力を実感しながら、俺は意気揚々と我が家へ帰った。


──ケアリス村 スリバレー家──


 玄関の前まで来た途端にドアが勢い良く開き中から母が血相を変えて飛び出して来た。

 

「マサヒロ、こんなに遅くまで何してたの?」


「ちょっと青い森で魔法の練習をしてただけだよ。」


 俺が魔法と言うと母は少し申し訳無さそうに言った。


「人には得手不得手があるから余り無理しなくてもいいのよ。」


 あっ──、そうか

 母に限らずこの村の住民は重力魔法で自分に制限を掛けていた俺しか知らないのだ。

 だから、今の俺は魔法の才能が無くても必死に頑張る健気な息子に見えているのだろう。


「母さん、皆に大事な話があるんだ。今日の夕食の後、兄さんや父さんを居間に集まる様に伝えてくれるかな?」


「うふふ、マサヒロったらどうしたの急にかしこまって、それに私を母さんなんていつも見たいにママって呼んだらいいのよ。」


 母さんは真剣な話はそっちのけで俺の呼び方を気にしている様だ。正直言ってこの年になって母親の事をママなんて呼びたくないので俺は話題を戻す。


「そんな事はどうでもいいから、とにかく夕食の後は皆に居間に来るよう言っといてね。」


 俺は逃げる様に自分の部屋へ向かう。重力魔法の練習をしていたらあっという間に夕食の時間になった。

 夕食後、父ステイ母ミシル長男ガディン次男ラリニットを居間に集めた。

 俺は皆の前に立ち話始める。


「俺は今日15歳になると同時に神託によって前世の記憶が呼び戻された。そして、神の導きにより勇者の従者として世界を救いたいと思う。」


 俺の言葉に皆は動揺で固まっていたが、そんな中ガディンが口を開く。


「たとえ、前世の記憶が戻った所でお前は村で一番弱いじゃないか。そんなお前が勇者の従者になれるとは到底思えない、死んでしまうだけだ。命を無駄にするぐらいならこの村で皆一緒に暮らそう。」


 そんなガディンの言葉に他の三人も頷く。

 確かに今までの俺は村で一番弱かった。だが記憶戻った今の俺は決して弱くない。つまり、皆を説得するには実力を見せるしかない。


「じゃあ、ガディン兄さんと俺が試合をして俺が勝ったら勇者の従者として旅に出る事を許してくれますか?」


 俺の発言にガディンは眉を潜め静かに立ち上がり、俺を真っ直ぐ見つめる。


「いいだろう、但しやるからには本気でお前を叩きのめす。後で後悔しても知らないからな。」


「なら今日はもう遅いので明日の10時から村近くの草原で行いましょう。」


 そう言い残して、俺は自分の部屋に戻った。

 そのまま、今日使った魔力を回復する為に眠りについた。


──翌日10時 村近くの草原──


「これより、マサヒロとガディンによる模擬試合を執り行う。勝負は一本勝負どちらかが戦意喪失もしくは気絶した場合に負けとする。」


 父さんが声を掛け俺は戦闘体制を取る。

 俺に合わせて、ガディンも構える。


「では、始め!」


 父さんの合図と共に俺はガディンの懐に入り、拳を振り上げる。

 「くっ」っとガディンは驚きながらも紙一重で俺の拳をかわす、体制を立て直しながらガディンは俺に向かって真っ直ぐ拳を放つ。


「そんな正直な拳じゃ、俺には当たりませんよガディン兄さん。」


 右手でガディンの拳を受け流しながら、左の拳を顔面に向かって放つ。

 ガディンはそれをバックステップでかわし距離を取る。


「なんて事だ。あのマサヒロがガディンを押しているなんて。」


 と言う父さんと同様に母さんとラリニットも驚きを隠せないでいる。


「どうやらお前は想像以上の実力を隠していたらしいな。父さん模擬刀を俺とマサヒロに!」


 すると、父さんが刃の落としてある剣を二本取り出し、俺たちに手渡した。


「こっからが文字通り真剣勝負だ。俺も魔法を使うからお前もどんどん使ってこいよ。」


 そう言うとガディンは剣の刀身を掴み打撃力向上魔法を付与する。

 残念ながら俺は付与の魔法が使えないのでそのまま構えているとガディンが切り込んで来る。


「この打撃はタンコブじゃ済まないからしっかり防げよ。」


「大丈夫だよ。その攻撃は俺には届かないからね。」


「何!?」


 急にガディンが前のめりに倒れる。


「隙あり。」


 俺が剣を振り上げるとガディンは剣から手を離してかわす。


「ちっ、重力魔法か。」


「そうだよ。俺が兄さん相手に使えるのはこれぐらいだからね。」


 会話をしながらもガディンは俺の周りを旋回しながら剣を拾い上げまた魔法を掛ける。


「いくら魔法を掛けても無駄だよ。だってその剣は俺には届かないんだから。」


 また俺に向かい走るガディンの剣に重力魔法を掛ける。


「二度も同じ事をすると思うな。」


 ガディンは剣を地面に突き刺し、剣を軸に回転して蹴りを入れる。


「なっ」


 蹴り飛ばされた俺にガディンは追撃してくる。


「食らえ、炎撃ファイアショット!」


 ガディンの放った火の玉はご丁寧に左右合わせて三つに別れている。これでは横跳びで避けてもかわし切れない。だが、


重力操作グラビティ0.5」


 俺は自分の魔法を掛けても飛び上がる。


「嘘だろ?!」


 ガディンを含めその場の全員が目を見張る。頭上五メートル程を跳ぶ俺に、


追風テルウィンド


 さらに俺は風魔法で前進しガディンに距離を詰める。


「くそ、炎撃ファイアショット


 ガディンも火の玉を放つが俺には当たらない。真横からの攻撃なら重力魔法は余り効果が無いが下からの攻撃は重力魔法で容易く落とせるからだ。

 そうして、ガディンが俺を打ち落とそうとしている内に頭上まで移動する。


「これで終わりだ!重力操作グラビティ3!」


 俺は自分に重力魔法を掛け、ガディンに踵落としの体制で降下する。


「うおおお!」


 それでもガディンは両手で俺の攻撃を防ごうとする。

 だが、その程度の防御で防げる訳が無いと思った時、予想外の出来事が起こった。


ゴキッ!!


「うぐっ?!あがっああぁぁ!」


 激痛の余り俺はそのまま地面に転がる。

 しくじった、威力を求める余り骨への負担を考えていなかった。

 もがいているとガディンが俺を見下ろしながら言った。


「もう終わりだな。」


「まただ、これぐらい治癒魔法で──、」


 自分の足に治癒魔法を掛けようとした時、


パチンッ!


「やめなさい!」


 俺は母さんに殴られていた。そして母さんは泣きながら俺に言った。


「そんな精神状態で治癒なんてしたら骨が変形した状態で再生するかも知れないでしょ。」


 母さんの言葉に冷静さを取り戻した俺はガディンに話掛ける。


「負けたよ。ガディン兄さんの勝ちだ、でも俺は旅に出るのは諦めない。この足が直り次第またガディン兄さんに試合を申し込むよ。」


 俺の言葉にガディンは怒りを覚えるかと思ったがガディンから予想外の事を言われた。


「いや、今回は引き分けだ。だってお前全然本気出してなかったろ?」


 ガディンの言葉に冷や汗を流す。


「お前の重力魔法、剣にじゃ無く俺に掛ければすぐに決着が着いただろ。違うか?」


 痛い所を突かれて、拗ねた様に理由を話す。


「だって、動けない相手をタコ殴りにしたらカッコ悪いじゃん。」


「ふふっ、あはは。」


 皆に笑われて恥ずかしかったので俺は母さんに肩を借りて部屋に戻る。


「ガディン、お疲れ様さすがにお前も疲れたろうお昼まで休むといい。」


 ステイがガディンに話掛けたが反応がない。


「兄さん大丈夫?」


 ラリニットがそう言うと、


「大丈夫じゃねえよ。」


 苦しそうに話すガディンを怪訝に思い二人はガディンの状態を確認する。すると、先ほどマサヒロの攻撃を受けた両腕が青紫になっている。


「──夕食まで休んでいいぞ。」


 俺がガディンの腕のケガを知るのは一ヶ月先の事だった。





 

 

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