第1話 転生(勇者にはなりません)

 目が覚めると目の前には真っ白な世界が広がっていた。


「どこだ、ここ?」


 状況を整理してみる、確か俺はあの時自分の心臓を貫いて──、


「やあやあ、細谷雅宏君ご機嫌いかがかな?」


 何処からともなくチャラい声が聞こえてきた。

 まあ、声の主が神様で俺が今から異世界に転生して勇者として魔王を倒せみたいな展開だろうなと思いつつ、話の続きを聞くことにした。


「これから君には勇者として──」


 ほら、やっぱり、


「異世界に転生してもらおうと思ったが君に勇者は適正ではないと判断されちゃったんだよね。」


「えっ?」


「僕らの予定では君が二回の告白にOKした後、幸せオーラ全快で死亡フラグ立てて、さらっと死んでもらう予定だったんだけど」


 全然さらっとしてねぇ。てか、


「俺は元から死ぬ予定だったんですか?」


「あぁ、君は勇者候補筆頭だったからね。他にも三人ほど候補がいてとりあえず皆こちらへ転生してもらうつもりだったよ。」


 いくら異世界を救う為とは言えそんなに

ホイホイ人を殺すなんてこいつやばくね?まあ、どっちにしろ俺は死んでるけど。


「それはともかく、本来ならば君の職業は勇者になる予定だったんだけど、それが出来ないから君には新しい職業を選んで貰う事になったわけ。」


 職業とかあるんだ、結構ゲーム見たいな設定だな。


「因みに職業の種類は、戦士・魔術師・治癒術師・盗賊・魔物使い・錬金術師と他にも戦闘職や補助職、生産職なんかも入れて20種以上あるよ。因みに僕のおすすめは──。」


 チャラ神の言葉を遮るように俺は


「治癒術師で。」


「へ?」


 意外だったのか、チャラ神は拍子抜けた声を出した。


「本当に治癒術師でいいのかい?後衛どころか攻撃魔法もほとんど使えない言ったら悪いけど回復だけしていればいい職業だけど?」


「別に俺は前線で魔物を切り殺したい訳じゃないですし、回復っていうのはパーティーが生き残る為に一番大切な職業ですから、正直言って他人には任せられないので。」


「そっか、じゃあ次は君の魔法適性を調べさせて貰うよ。因みに初級魔法は適性が無くても使えるから安心してね。」


 魔法適性?それじゃあ俺に治癒術の適性が無かったら治癒術師にはなれないんじゃないか?

 などと考えていると、俺の目の前に淡い緑と黒と白に近い黄色の玉が浮かんできた。


「えーっと、君の使える魔法は《治癒》《重力》《聖》の三種だね。」


 良かったちゃんと治癒はつかえた。

 後は重力と聖か、重力は魔物の足止めとかかな、聖はその名の通り浄化とかだろう。まあ、治癒術師としては上々のラインナップだな。


「じゃあ、俺はこれから異世界で魔王を倒す為にこのまま冒険に行くんですか?」


「いや、今の君は死んで魂だけの存在になってるから、一度赤ん坊から新しい人生を送って貰うよ。僕らは転生させる能力はあるけど時間を戻す能力は無いからね。」


 神と言っても万能では無い訳だ。

 というか、俺の記憶はどうなるんだ?いくら赤ん坊の体とは言え心は18歳だ、意識のある状態で母親の授乳を見せられるなんて堪った物じゃない。


「じゃあ、俺の記憶は赤ん坊の時から新しい体に入れられるんですか?」


「そこは大丈夫だよ。ちゃんと15歳の誕生日の生まれた時間ぴったりに記憶が戻るようになってるからね。」


 15歳。つまり、異世界での成人年齢って所かな、でもそれじゃ余り実力が付かないよな。

 よし、1つ頼み事でもしてみるか。異世界だし、1つぐらいチートがあってもいいよな。


「あの、記憶が戻る前の自分に1つだけ命令させられませんか?」


「出来るけど、どんなお願いだい?」


「俺自身に自分の魔力で重力魔法を常に掛けて欲しいんです。」


「自分にかい?一体どうして?」

 

「単純ですよ。普段から負荷を掛けて置けば普通の訓練も倍以上の効率で鍛えられますからね。」


「そういう事か、わかったよ。じゃあ他に質問とかはないかな?」


「はい」


「じゃあ、君を異世界フォルゾビアへ転生させるよ。」


 チャラ神が呪文唱え出した直後、自分の体が輝き出し泡になって弾けていく。

 これから俺の新しい人生が始まるのだ。


「よし、世界でも救って見ますか。」



──《フォルゾビア》ケアリス村──


「スリバレーさん、おめでとうございます。元気な男の子ですよ。」


 産婆が赤ん坊を抱き抱え瞬間、その赤ん坊が白く輝き出した。


「こ、これは!?」


 やがて輝きは収まり、赤ん坊の右手に紋章が刻み込まれた。


「チュールさん、これはまさか。」


 彼女の問いかけに産婆もといチュールは答えた。


「はい、《勇者の従者の証》です。しかも第一紋です。」


「えっ?第一紋ですか?」


 その日、小さなケアリス村に衝撃が走った──。

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