デブ嫌いの俺が転生したのはオーク族(デブ共)が支配する世界だった...。

結城 岩次郎

プロローグ

「私と付き合ってください!!」


 高校二年の春、俺こと細谷雅宏は部活仲間の朋田万里華に告白された───そして俺は、


「こんな俺でよかったら、よろしくお願いします。」


 きっと、この選択が間違っていたのだろう。

 俺の大嫌いな『デブ』の彼女と交際を始めてしまったこと事態が、


 この日から俺と彼女は一緒に下校したり、月に二回のペースでデートにも出掛けた、彼女は心から俺との交際を嬉しく思っていたのだろうが、

 その一方で俺の心中はというと──、


『どうしよう、たとえ好みじゃない女子と付き合っても長く続けば、多少の欲求や劣情が生まれると思ったのに欲情しないどころか

キスを想像しただけで吐き気がしてくる。

これどんだけ付き合ったところで俺、あいつのこと好きにならねぇ奴だ!』


 しかし、彼女いない歴=年齢だった俺は最後に『女は恋をするとキレイになる』という迷信に希望込めた、半年後


「ごめん、俺もうお前とは付き合えない。」


諦めてこういい放った。


「えっ……、ど、どうして急に」


往生際の悪い万里華に俺は少しキザにこういった、


「急… じゃあないよ、俺ずっと前から思ってたこのまま付き合ってもお互い傷つくだけだって」


「なんで、なんでだって私たち上手くいってだじゃん。」


俺の気持ちも何もわかっていない万里華に少し苛立ち俺は


「俺はずっと我慢してきたんだ、きっとぐっと耐えた先に二人の未来があるって信じてたんだ。

だけどお前変わらなかった、いつまで経ってもお前は今のまま、半年前と何も変わっちゃいねぇ、もう俺は限界なんだよ!」


俺の発言を万里華は理解できていないようで、


「どういうこと?変わるって何?私が悪いのなんで、意味わかんない!」


ヒステリックになりだした万里華に俺は不満をぶちまけた。


「いい加減にしろよこの『デブ』俺はなぁ昔から『デブ』が大嫌いなんだよ。お前と付き合ったのだってなぁ、男が出来れば多少は自分を磨いてキレイになると思ったからなんだよ、なのにお前と来たら化粧するぐらいで体型は何も変わらねぇ、だからもうおしまいにする『お前とはもう付き合えない』わかったか?じゃあな。」


と捨てゼリフを吐いてその場をたち去った。


万里華と別れたその日の夜──。


〈自宅〉


俺は自分の部屋で一人反省会をしていた。


「さすがにいい過ぎたか、いやでもこれで俺がクズ男だと万里華が思えば、万里華も前を向いて次の恋に進めるだろう。

現に今日言ったことは男の本心だしな。」


「雅宏~、ご飯よ~。」


母の声で今日の反省会を終え、その後何事もなく高校卒業の日を迎えたのだった。


桜並木の真ん中で俺は卒業証書を手に佇んでクラスメイトが写真を撮るの眺めていた。


「いやぁ、ボッチって辛いね……。」


卒業とは関係のない涙を拭っていると、

不意にブレザーの袖を誰かに引っ張られた。


「うん?」


振り向くとそこには少し小柄な痩せ型の女子がいた。『祝卒業』の文字が書かれた飾りを胸に着けているので同い年だろう。彼女は袖を引く力を強め人気の無いところまで俺を連れ出す。そんな彼女に俺は


「あの、俺に何か用ですか?」


うつ向きがちだった彼女が顔を上げ、俺はその姿に驚愕する。


俺の目の前にいたのは俺が一年半前に別れた万里華だったからだ──、


「万里華、お前──。」


驚く俺に万里華は、


「雅宏君のためにちゃんとダイエット成功させましたよ。」


その笑顔に俺は2つの感情を覚えた。


1つは感動、あんな別れ方をしたのにそれでも俺を思い続ける万里華に素直に感動した。


そしてもう1つは恐怖、こんな俺に今の万里華はどう考えても釣り合わない。それにここまで誰かを一途に想えるのなら俺よりいい人に出会えるだろう。

そう、強く思う──。


後者の感情に支配された俺はこんな言葉を

万里華に言ってしまった。


「はぁ…あのな万里華俺達はもう終わったんだよ。もうリスタートはねぇの、今更お前が痩せたところで俺達の関係は修復不可能なんだよ。」


予想外の俺の反応に万里華は


「えっ…ま、雅宏君冗談だよね?私君のためにって思ってこんなに頑張ったのに」


俺は後一押し、と狼狽する彼女の耳元で


「『無駄な努力』お疲れ様でした。元『デブ』万里華ちゃん」


「なんで?どうして?あっ、ぁ…いやあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


絶叫する彼女を尻目に立ち去ろうとしたその時、


ズブリッ!


脇腹に強烈な痛みと火傷しそうなほどの熱さが伝わって来る。


後ろを振り向くとそこには焦点の外れた目をした万里華がいた。万里華の手には家庭用万能包丁が握られ、その刃は俺を貫通している。


やべぇ、ちょっと言い過ぎたかな。と内心思いながら万里華に話しかける。


「万里華、これは一体?」


俺が話しかけると万里華は俺の顔真っ直ぐ見つめ口を開いた。


「雅宏君が悪いんだよ。私は君のために、君だけのためにこんなに努力したのに、

なんで!なんで!認めてくれないの!痩せるだけじゃダメなの、顔が気に入らないのなら整形する、胸が小さいなら豊胸もするし、小さい方がいいなら取っちゃってもいい!私何でもする、何でもするから、お願いそばにいさせて!!

何をしてもだめなら、もう雅宏君を殺して私も死ぬだけ、だから二人で1つになろう。雅宏君──。」


二人して地面へたりこむ、


万里華の思いに涙が出た。彼女の一途な思いに、そして俺の犯した過ちに、

俺は決心して万里華に話しかける。


「ごめん、万里華こんな言葉だけじゃ許され無いと思うけど本当にごめん、俺二度も逃げたんだ、一度目はお互いが傷付かないため、

二度目は万里華を受け入れる自信がなくて、

でも、さっきの万里華の言葉で決意できた。」


俺は万里華の肩を掴み、真っ直ぐ見つめ言った。


「万里華、今日のお前とってもキレイだ。

世界中の誰よりも一番輝いてる、たとえ誰かなんと言ったって俺は今の万里華が一番美しくってキレイだって胸を張って言ってやる。だからお前も自信もって胸張って生きろよ。万里華」


俺の言葉に涙目になりながら、万里華は笑顔で「うん!!」と頷いた。


「万里華、そろそろ救急車呼んでくれないか?」


俺の言葉で正気を取り戻した万里華が急いで携帯を取り出そうとした時、


「あれ?携帯が無い、えっ、なんで?」


慌てふためく万里華に


「学校の職員室に行けば電話もすぐに借りられるだろ。」


「あっ、そうだねすぐ行ってくるよ。」


そう言って、万里華は学校に走って行った。

万里華を見送った俺はそっとポケットから

『万里華の携帯』を取り出した。


そのまま、俺は万里華の携帯で『ママ』に電話を掛けた。そこで俺はあらかたを万里華の母親に話し事件にはしないと約束した。

そして、自分の携帯で母親に電話した。そこでも俺は事件にしないことを約束させ、最後に「何の親孝行も出来ずにごめん。」と言って電話を切った。


思い返せば俺には濃すぎる人生だった。


「漫画の主人公じゃないんだからヒロインに刺されるとかあり得ねぇ。でも、俺には贅沢過ぎるメインヒロインだったな。まぁ、俺にぴったりのヤンデレヒロインだったけどな。

あーあ、このまま助かればハッピーエンドだが俺は生憎、トゥルーエンド一択主義なんでバッドエンドで締めさしていただきますか。」


そう言って俺は脇腹に刺さった包丁を抜いて、自分の左胸に突き刺した───。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る