三十日

初日

 俺たちはまず、残りの三十日の大まかな計画を立てる事にした。

「なにかしたいことある?」

「うーん私は優と居られるだけでいいかな」

 なんて謙虚な奴なんだろう俺はあまり友達とも遊びに行かないし安い飯ばかり食べていたからバイトで貯めた金や仕送りなどで50万程の金を持っているので、彼女と1ヶ月遊び続ける事も出来ると考えていたのだ。

「そうだなじゃあ明日学校の帰り水族館へ行こう」

 特に考えもせずに俺はそんな事をいった。

「うん!水族館行きたいだっていっぱい魚がいるんでしょ?」

「いや…居るには居るけど食用じゃなくて鑑賞用、魚が泳いでる所をみるの」

「えー食べれないんだ」

 などと俺たちは馬鹿みたいな会話をしていた。

「そういえばくろ家とかどこなんだ?」

「ん?お家なら優と住んでるじゃん」

 確かにその通りなんだが今のくろはかわいい女の子だ同居なんか発覚したら周りの男どもに何されるか分からない…

(だけどどうせこれから三十日間遊び続けるんだからいいか)

 俺はそんな事をひとり頭の中で考えるのだった。

 そんなことを話ているとすぐに家に着いた。

 家に入るとすぐにくろはソファーに座りぴょんぴょん飛び跳ねて「やっぱり落ち着く」とか「ずっとはねて見たかったんだよねー」などと言っている。

「あんまりやるなよ壊れるから」

「えーいいじゃんちょっとだけ」

 などと口を膨らませていた。

「はいはいちょっとだけな」と言って頭を撫でると「えへへはーい」などと言っている。彼女がはにかむと整った顔が少し歪んで、くしゃっとするのがとても愛らしい。

「ご飯なにがいい?」

 俺はまだ早いが買い物にも行かなきゃ行けないので聞いた。

「ご飯ね…ずっと優が食べてたおにぎり?食べてみたかったのだからそれがいい」

 俺がいつも節約する為に食べていたおにぎりが食べたいらしい。

「わかったけどでもそんなのでいいの?」

「うん!だってずっと食べたかったもん」

 ずっと食べたかったらしい。

「はいはいじゃあ買ってくるからまってて」そう言って部屋を出ようとするとくろが後ろから抱きついてきた。

「やだ!離れたくない一緒いく」

 こういう甘えてくるところは一つになっても変わらないらしい。

「よし!じゃあいくか!」

 そう言って俺は手を強く握って勢い良く扉を開けた。

 それから近くのコンビニまでは、カラスだった頃の話を聞いていた。

 カラスだった頃は、俺の想像通り生まれてすぐに親とはぐれ何をしたらいいかも分からずに、ただ親との再開を願って彷徨っていたらしい。傷も森の中を探していたら付いたらしいことを教えてくれた。

 それを聞いて俺はやはり拾っていて正解だったと思った、だってこうして今はかわいい女の子として短い期間でも隣に居てくれるのだから…これは白鳥の恩返しならぬ黒鳥の恩返しだ!そんな馬鹿な事を考えていると心配した目で見られた。

「大丈夫?」

「あぁ全然大丈夫だよ」

「ならよかった」

 そう言ってふぅーと息を吐くのは普通ならぶりっ子に見えるが、彼女は心の底からやっているような気がしてかなり微笑まかった。

 それから程なくしてコンビニについた。

「ほら着いたよお菓子とかほしい?」

「うん!甘い物が食べたいな」

 人になったばかりなのに甘い物とかお菓子とかを知っていることに、少し驚きつつも俺はチョコレートをカゴに入れた。

「くろおにぎりはなにがいい?」

「えーとこのツナ?前に食べてたよねこれがいい!」

 どうやら前俺が食べていたツナのおにぎりが気になっていたらしい。

「一つじゃ足りないだろ、他には?」

「うーんじゃあこの明太子にする!」

 俺はその二つと自分の分のおにぎり二つをカゴに入れ、適当に選んだお茶を二本カゴに入れてレジに持っていった。

「合計金額860円になります」

 無言で金を渡し、商品を受け取った。

「るんるん…楽しいね!」

 いつも一人だった彼女にはこんな些細なことでも楽しいのだろう。

「楽しいかならよかった」

 そう言ってもう一度手を繋ぎ、俺たちは家に帰った。

 帰りはあまり話はしなかったが、くろは楽しそうに鼻歌を歌っていた。

 家に着き飯なので手を洗った。くろは手を洗うということが分からないようだったが、俺の真似をして石鹸で手を洗っていた。

 そしてリビングに戻り早速飯にした。

「いただきまーす」と言いながらくろは大きく口を開けおにぎりを食べた。その時明太子を一緒に食べたらしく、「からいー」と目を瞑っていた。

 そうして夕食がかなり早く終わって、くろはすぐに眠たそうに目を擦っていた。

「なんだ眠いのか?」

 時刻はまだ8時少し寝るのには早いがくろは完全に眠そうだった。

「うんうんねむくなんかないもん」と言いつつもそのままソファーで寝てしまった。

 俺が上から毛布をかけてやると顔にかすったらしく「くすぐったいよぉ」などと寝言を言っていた。

「よし俺も早いけど寝るか」

 そう言って電気を消してベットに行き眠ろうとしたが、また彼女が居なくなってしまう事を考えなかなか寝付けず結局1時頃まで起きていた。

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拾った烏との奇跡の1ヶ月 ぷわぷわ @puwa_puwa

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