第13話
「ただいま。連れてきたよ。」
家に帰ると母親が深刻な顔をしていた。
「おかえり。直人。」
「姉さんは?」
「相変わらず。ご飯も食べない。」
「お久しぶりです。おばさん。」
「枝理ちゃん。ありがとう。」
「こちらこそ。気付かなくてすいません。」
「いいのよ。話さないもんね。こちらこそ今までごめんなさい。」
「こんにちわ。」
「えっと…。」
「学生の頃、僕がバイトしてた所のお兄さんだよ。」
「貴方が…?」
「多分ね。」
弟は2人を1階にある客間に案内した。
「監視できるようにここで寝泊まりしてんだ。」
扉を開けると、以前より大分やせ細った真彩の姿があった。
「真彩。」
「…枝理。」
「聞いたよ。」
「そっか。」
「こんにちわ。」
枝理に続き、伸也が部屋に入った。
「どうかされましたか?」
真彩は伸也の姿が見えると何故かアヤの顔になってしまった。
「真彩…?」
「大丈夫だよ。」
「真彩。先輩にも話した。全部。」
「…お帰り下さい。」
「真彩。」
「お願いします。」
真彩は深々頭を下げ、伸也に帰るように言った。
伸也は苦しそうな真彩を見て、哀しくなり微笑んで帰ってしまった。
「ごめん。話さない方が良かったよね。」
「枝理が悪いわけじゃないよ。来てくれてありがとう。」
真彩は笑っているが、何処か哀しそうだった。
「散歩でもする?」
「…うん。」
2人は外に出た。
家の近くにある木が生い茂る公園のような場所は真彩のお気に入り。
そこへ向かった。
「…いつ退院したの?」
「最近。先月?だったかな?」
真彩は公園に着くと、一番に大好きな木に近寄っていった。
その木はご神木のように、その公園の中では一番太く大きい木。
「久しぶり。」
真彩は木に向かってそう呟き、抱きついた。
枝理はそれを静かに見守るだけ。
「枝理。」
「何?」
「私ね。もう疲れちゃった…。」
「うん…。」
「あの人の傍を離れてから何かが音を立てて崩れたの。」
枝理は静かに頷くだけ。
真彩はゆっくりか細い声で続けた。
「あの人は帰ってきてくれるって何処かで信じてた。バカって思うかもしれないけど本当に大好きだったの。」
「思わないよ!!」
「…ありがとう。…あの人しか、こんな私を受け入れてくれる人は居ないと思うんだ。精神的にも弱くて…癌までしちゃって…。」
「真彩。私、真彩が何も言わずに居なくなったら許さないからね!!土下座したって許さないからね!!」
2人は泣きながら言い合いを始めた。
近くには家はないので誰も来ないような場所ではある。
「…だって!!もう疲れたんだもん!!子供もちゃんと産めるか分からない!!私1人で歩いて行けるほど強くないよ!!」
「だから先輩呼んだんじゃないの!?逢いたいって言ったんじゃないの!?」
「だって!!分かんないんだもん!!あの人と別れたとき、待ってるって言ったら笑ってた。私が変わらなかったら意味ないんだよ!!」
「そんなことない!!アイツは最低男だったの!!真彩は何も間違ってない!!アイツは死んだの!!もう良いじゃん!!」
「でも例え死んでも生まれ変わってまた会いに来るって約束してたの!!」
「いい加減に自分を許してあげなよ!!あの男を過去の記憶にしてよ!!忘れろなんて言わない。過去の記憶なんて誰も変えられない。けど記憶として片付けることは出来るんだよ!!今の状態の方がよっぽど失礼だよ!!いつまでもウジウジするな!!」
「私、枝理みたく強くない!!」
「強くなれなんて言ってないじゃん!!バカ真彩!!今のままの真彩で良いの!!今のままの真彩が私は好きなの!!今の真彩に感謝してる人だって居るんだよ。」
「居ないよ!!バカ枝理!!私は私が大嫌いなの!!」
「真彩を好きって言ってる人まで嫌いって言ってるのと同じだよ。バカ!!」
「違うよ!!」
「同じだよ!!なら真彩は世界に生きる人が100人なら全員に会ったの!?話聞いたの!?まだほんのちょっとじゃん!!その中に真彩に感謝してる人が居るんだよ!!」
「居ないよ!!」
「居るの!!知りもしないで感謝してる人まで馬鹿にするな!!」
「なら今すぐ呼んでよ!!」
「呼んであげるよ!!」
そう言って枝理は携帯を出し、固まった。
枝理は伸也の連絡先など知らない。
「ほら居ないじゃない!!」
「居るよ!!死のうとしてるヤツに勿体なくて会わせられないだけだよ!!」
「なら死なない!!そいつに会って話聞くまでは絶対死なない!!」
「言ったからね!!」
「変えないよ!!」
「待ってて!!約束破ったら許さない!!」
「分かってる!!」
枝理は真彩の返答を聞くと走り出した。
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