第10話


「店長?」


顔を出したのはキャバクラの店長だった。


「何やってんの。乗りな。」


真彩はずぶ濡れになり、ほぼすっぴん。

真彩を乗せ、車を近くのコンビニに止めた。


「どうしたの?今日お店定休日でしょ?」


「こっちのセリフ。俺はデリの手伝い。何かあった?」


「店長。今月で辞めてもいい?」


「ごめん。アヤのことは社長に聞かないと分からない。あの男の子?」


「全く別。前からの事が今になって大きくなっただけ。」


「言いたくない?」


「別に。…子宮頸ガン。」


「…大変だな。」


「今までのツケが回ってきたのかも。6年くらい前にたまたま受けた人間ドックからダメだったの。信じられなくて行かなかった。それだけ。」


「飲みにでも行くか?」


「私びしょ濡れ。」


「なら事務所。」


「風俗はしないよ?」


「しろって言ってないじゃん。一応社長は同じだから系列みたいなもんだし。」


「…行かない。」


「誘拐。」


「店長!?」


「そのまんま道歩かれても誘拐されるだけだろ。」


「すっぴんだから大丈夫だよ。家もすぐだし。」


「アヤ。もう少し女の子って事を自覚しろ。」


真彩は下を向いてしまった。

店長はそれを了承のサインだと勝手に思い、事務所に連れて行った。


「社長。これどうしたら良いんですか?」


「ありがとう。助かったよ。…アヤ!?どうした!?」


「誘拐してきました。」


「とにかくシャワー浴びて。風邪引くだろ?服は乾かすから脱衣所に飛んだ子達の服置いてあるから好きなの着て。」


真彩は言われるがままシャワーを浴びに行った。


特に何を話すわけでもなく、事務所には電話が鳴り響くだけ。


真彩が出て来ても変わらなかった。


自分達には何も出来ないことを知っているのか、それとも所詮いつかは辞めていく者として面倒だと見ているのかは分からない。


ただ真彩が普段のように戻るまで店長も社長も事務所から出て行くことはなかった。


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