第9話


「おはようございます。」


「…おはようございます。」


「少し深刻な話になりますが、親御さん呼ばなくても大丈夫ですか?」


「…はい。」


「実は先日の健康診断の結果があまり良くありませんでした。」


「…。」


「検体を精密検査した結果。ガンが見付かりました。早めの対応が一番良いので今から病院に行ってもらえますか?」


「はい。」


真彩の顔は無に変わっていた。

それ以降の対応も話も覚えてはいないが、1人で病院に来ていた。


その後の話も何も覚えていない。


気付いたら家のソファーに寝転んでいた。


そんな時、電話が鳴った。


【はい。】


【佐原さんの携帯ですか?】


【はい。】


【健康管理部の者です。本日、検体を採取させて頂きまして早急に検査を行います。しばらくはお仕事お休みして下さい。】


【…はい。】


【では失礼します。】


真彩はそのままソファーでボッーとしていた。



気付いた時にはお昼が過ぎていた。


「本屋行きたい。」


真彩はそんなことを呟いて、いつもの本屋に出かけた。


もちろんガンの本を探しに。


本を見て回るがどうにも表紙が開けない。


「重たい…。」


「勉強熱心だな。次は子宮ガン?」


「…真山さん。」


「連絡しようと思ったんだけどさ。何か分からなくなって。また出逢った時にって思ったんだよね。」


「誠実ですね。」


「休み?」


「いちおう。」


「お茶でもどう?」


「すいません。そんな気じゃなくて。」


「じゃあ今度。」


「はい。」


「何かあった?」


「何にもありませんよ。」


真彩はいつのまにかアヤの顔になっていた。


「話すの嫌だった?」


「いいえ。苦手なんです。男性と話すの。」


「あのバイトなのに?」


「変ですよね。きっと私、欲張りなんです。失礼しますね。」


真彩はまた逃げるように去って行き、家に帰らず歩き出した。


何処に行くわけでもなく、何処に行きたいわけでもなく。


しばらく歩くと雨が降ってきた。


「良かった…。泣いても…バレないよね。」


雨に打たれ、ずぶ濡れになりながら行き先もなく歩く。


真彩は気付かれることなく、夕方になろうとする時刻に、とぼとぼ歩いていた。


他から見れば変な人にうつり誰も声をかけないであろう。


土砂降りの雨の中、ずぶ濡れになりながら声を出さず流れる涙は枯れない…。



「おい。」


見た目からしてヤクザが乗っていそうな真っ黒の車の窓から1人の男性が顔を出した。




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