第5話


その日の夜。

真彩はバタバタと忙しくしていた。

まるで思い出したくないかのように、何も考えたくないみたいにお酒を飲みまくった。


閉店時間となると、真彩とボーイや事務管理の男性スタッフのみとなり、裏方の隅でまた小さくなっていた。


ボーイ達も異変には気付いていたので声をかけることなく帰っていく。


「アヤ。大丈夫か?」


声をかけたのは店長だった。


「平気。」


真彩はまた今にも泣きそうな顔で笑った。


「明日は?」


「休みだよ。」


「カラオケでも行くか?」


「いい。」


真彩はゆっくり立ち上がり、帰宅準備をした。


以前、真彩の仮面を壊したモノもお客さんだった。


だが、付き合い始めて早々モラハラが始まり、監禁され、何人もの相手と強制的に体を重ねさせられ、枝理が間に入り別れたのだ。


その後、しばらくうつ状態になり何もしなくなった。

家族は何も知らされていなかったので、毎日寝てるだけの真彩に罵声を浴びせるだけだった。

真彩は嫌になり、実家を出て1人暮らしを始め、生活費のためにキャバクラへ戻った。


“もう誰とも関わりたくない。”

“これ以上、傷付きたくない。”

“私に関わったら皆、傷付くんだ。”


そんな思いを胸に仮面は分厚くなった。


けれど、前からのボーイや店長は内容は知らないが、何かしらあったのだとは気付いてはいた。


でも真彩は助けを求めることも恐くなり、全て自分でと殻に籠もる事しかしなくなった。


いつも大声で叫ぶ枝理。見守る店長。


いくら手を差し伸べても真彩の答えはいつも変わらない。


“大丈夫。”

“私が悪いから。”

“私に関わると傷付くよ。”


そうやって他人を避けては近付く。

いつもそんな事の繰り返し。


そして真彩が一番恐いのは裏の顔なんて持たない相手。


『神様。もう誰も好きになりたくないの。もう試練を乗り越えられるだけの心も持ってない。大切だから近付きたくない。分かってくれるよね?』


帰りの車の中、真彩はそんな事を思っていた。


「アヤさん。着きましたよ。」


「ありがとう。」


真彩が車を降りると、玄関の前にうずくまる1つの影があった。


「…枝理。」


「おかえりなさい。」


「どうしたの!?言ってくれたら早く帰ってきたのに!!」


「気にしないで。何となく心配しただけ。頑固すぎる真彩をどうすべきかと思って。」


「とにかく入って。」


鍵を開け部屋に入る2人。


「夏だったから良いけど、冬なら凍死するよ。」


「そうですね。でもどっかの誰かさんが話してくれたら私も楽になるよ。」


「ははは~。何を話すのさ?お風呂入るよね。」


「話そらさないの。私も明日休みだからさ。」


「なら枝理の好きなDVDでも借りに行こうよ。」


「真彩。」


「良いじゃん。」


時刻は早朝の4時を回っていた。


2人は出かける支度をして、徒歩圏内の本屋へ向かう。


特に話す事なんてなく、他愛のない世間話や、いつもと変わらない愚痴を言うだけ。


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