第2話


「おはよー。」


「おはようございます。アヤさん。」


「アヤ。今日の予定は?」


「同伴だけで特にない。まだ営業してないもん。」


「決まったら早めに教えてよ。」


「ほーい。」


真彩のもう1つの顔とは、キャバ嬢。

虐められてきた経験を持つ真彩は、自分を変えるために選んだ職業だ。

おかげで人間観察力はずば抜けている。それは枝理も知っていることだ。


「アヤ。出まーす。」


ドレスに着替え、昼のすっぴんメイクとは正反対の整形メイク。

顔が違いすぎるので、昼のスーパーに来るお客さんも気付かない。

真彩自身も夜の顔に変わるので態度が一変する。


自分の指名席に付き、1時間ほど話すと、お客さんは帰り、裏方に引っ込む真彩。


「はぁ~…。」


「どうした?今日は不調か?」


「店長。何で昼は簡単にできないのかなって思って。」


「人間関係?」


「そう。」


「入るとき言ってただろ?昼は何考えてんのか分からないから嫌いだって。それに比べて夜は騙し騙されの世界だから楽だってさ。根が真面目なんだよ。アヤは。」


「真面目なヤツがこんな仕事しないよ。」


「そうでもないと思うけどな。」


真彩の話を聞いてくれる店長は、唯一の愚痴り相手でもある。

店長も成績優秀だが、正反対の仮面を被る真彩を気にしていた。


「アヤさん。」


「はーい。」


「キツかったら今日は上がっていいぞ。」


「今日、キャスト少ないんだから大丈夫。」


いくら仮面を被ろうと優しさと断れない性格は健在だった。


「新規のお客様なんです。ナンバーワンがみたいと言われてます。」


「分かった。」


「お願いします。」


真彩は長く店のナンバーワンの座にいた。

本当であればワガママも通るし、他の子達よりは自由に出来るが、あまりそんな立ち振る舞いは好きじゃないと誰にでも優しかった。


「よろしくお願いします。アヤです。」


「可愛いね。」


「ありがとうございます。」


「こいつの相手頼んでいいかな?強制的に連れてきたからさ。やる気ないみたいで。」


「そうなんですか?」


「イケメンでしょ?」


「本当ですね。」


「惚れちゃダメだよ。」


「頑張ります。…お兄さん?」


その男性は真彩の顔をじっと見ていた。


「個室ないんですか?」


「…ありますけど?」


「指名するんで2人で話しませんか?」


「…?はい。…お願いします。」


「ご指名ありがとうございます!!!」


ボーイの声が店内に響き、個室に移動した。


個室と言っても、2人が話せるスペースと仕切りがあるだけ。


「何やってんの?」


「はい?」


「佐原だろ?本名言うと不味いと思って離して貰ったけど。」


真彩は一瞬、目が冷たくなり固まった。


「何のことですか?」


「覚えてない?」


「すいません。」


「何でこんな仕事してんの?」


「何ででしょう。」


「誤魔化すなよ。」


「少し失礼しますね。」


「佐原。」


真彩は席を立ち裏方に引っ込んだ。


「アヤ?」


「ごめん。他の子付けて。」


真彩は部屋の隅に座り込み、顔を伏せていた。


「アヤ。知り合いだった?」


「昼の世界の人は覚えてない。」


「出禁するか?」


「必要ないよ。あの人が悪いわけじゃない。」


「今日は帰るか?」


真彩は小さく頷いた。


「落ち着いたら声かけて。」


「…ごめん…なさい。」


真彩の声は微かに震えていた。


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