大好きだから近付かないで

なぎさ

第1話


「佐原。これも頼んで良いか?」


事務所のゴミの片付けをする真彩。

上司が大きなゴミ袋を持っていた。


「はい。」


「佐原主任。明日のシフトなんですけど…塾忘れてたんです。」


「分かった。良いよ。」


頼まれると断れない。

若くして主任まで任されたは良いが、接客は大の苦手。


真彩は、あるスーパーの店員。

でも違う顔も持っていた。



「真彩。いい加減断ることを勉強しなよ。」


「枝理。でも頼まれるの好きだから。自分に出来る範囲内なら助けたいって思うでしょ?」


「それは真彩がお人好しなだけ。上がれる?」


「うん。」


彼女は真彩の唯一の理解者と言っても過言ではない。幼なじみの山田枝理。

活発的でズバズバ言う男勝りだけど八方美人な女の子。


ゴミの片付けが終わり、タイムカードを切ると着替えに向かった。


「今日、帰りにカフェ行かない?近くにいいところ出来たんだって。」


「行く!」


「真彩って今日、掃除当番だった?」


「あー。違うよ。用事あるからって変わったの。」


「また?この間もやったじゃん。」


「掃除好きだし大丈夫。」


「器用貧乏。」


「貧乏だけど器用じゃないよ。」


「そうですね。」


着替えが終わると、そのまま枝理の運転でカフェに向かった。


「今日、バイトは?」


「あるよ。」


「じゃあ夕飯?」


「今日はゴメン。予定入ってるんだ。」


「そっか。じゃあ今度だね。」


「ありがとう。」


「ご注文はお決まりですか?」


「あっ。私、レモンティーで。真彩は?」


「…メロンソーダ。」


「少々お待ち下さい。」


そして枝理が仕事の愚痴を語り相槌を打つ真彩。


真彩は元々、対人関係がとても苦手。

枝理のおかげで前よりは普通になってきたが年が近いとなると男性は特に赤面してモゴモゴしてしまう。

異性からは好意を抱いていると勘違いされることもあるのだが、全くそんなつもりはない。普通に話したいと努力しているだけ。

見た目は普通で、どちらかと言えば枝理の方がモテるのだが、枝理は芸能人に夢中で付き合うとかは眼中にない。


「今日は奢るよ。」


「何か良い事あった?」


「ない。」


「まぁいいや。ご馳走様。」


「いつものお礼。」


「何のさ。」


「なんとなく。」


「あっそ。」


会計を済ませ、カフェを出て、車を乗り換えに戻ってきた。


「真彩。」


「何?」


「無理しないでよ。」


「ありがとう。」


「いってらっしゃい。」


「いってきまーす。」


真彩は車に乗り、帰宅とは別方向に走り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る