アメリカ その④

 前回述べたような売春地区を維持するため、往時のアメリカの警察は何らかの形での登録制を敷いてました。少なくとも認可を受けた娼館の女将の住所と氏名は控えるとか。また、娼館の家主や女将は抱えている娼婦の名簿を提出し、出入りがあれば警察に知らせるよう求められたこともあったそうです。

 娼婦がその土地で仕事を始める際は、警察本部へ出頭するように定めている市も幾つかありました。その際娼婦は、本名と源氏名、出生地と年齢、生年月日、前の住所、属している娼館の名前、「ふしだらな」生活をしている期間、本人であることの証明となる身体的特徴を答えるよう定めていたところもありました。娼婦が認可証明を受けるためには、毎月料金を支払わなければならないと定めた市もあったのだとか。


 さて。これまで何度も見てきたことですが、アメリカの娼婦・娼館の間にも、格差というものは存在しました。という訳で、ニューヨークの娼婦について調査した、サンガーという人の分類を見ていきましょう。が、その前に一つ断っておきたいことがあります。以下で述べる分類は当時の現実を示すものであると同時に、サンガー自身の偏見が反映されているものでもあるのです。

 

 サンガーはまず、娼館を「サロン風娼家」と「あいまい宿」の二つに分け、さらにそれぞれを四つのグループに分類しました。

 サロン風娼家でもっとも上に属する娼館は、贅沢な家具調度を備え、所属する女性も若く美しく上等な服を着た者ばかりでした。彼女たちが街を歩いても、娼婦だと見抜く者はいなかったでしょう。次なる二流の娼館に在籍する娼婦の多くは元々、一流の娼館に属していました。しかし色気が衰えてきたので、こちらに移ってきたのです。

 三流にランク付けされた娼館は――ここがサンガーの偏見の最たるものなのですが――その実二流と同等以上の店でした。ただ、在籍している娼婦は移民の女性だったのです。三流の娼館は船員を主な客とした店だったため、大抵は港町にありました。船員以外の客も、移民や短期滞在者が多かったのだとか。

 最後の四流の店はというと、古びた安い地下室を借り、小さなバーを併設し、一部を仕切って小部屋を一つか二つ設けたもの。その女将は古手の娼婦で、あらゆる犯罪人たちが関わりを持っていたそうです。


 サンガーは「あいまい宿」も四つに分けてランク付けしています。一流のあいまい宿では売春は予約をとって内密に行われるし、相手をするのは娼婦と呼ぶのを憚ってしまうような女性。次なる二流の宿もむしろホテルや貸間と呼んだ方がいいくらいだし、やはり「きちんとした」女性が相手をしてくれる。三流の宿は売り子が収入不足を補うために商売をする場所。最後の四流の宿は街娼が利用するが、彼女らは大抵犯罪者と繋がっているのだ……という風に。他には、ニューヨークほど娼館のバラエティーに富んだ都市は他にありませんでしたが、大小を問わずほとんどの都市には少なくとも一つ特別会員制の娼館があったそうです。

 また、多くの都市では新しい客向けのガイドブックが出されていました。アメリカ最古の娼館のガイドブックはレストランや居酒屋が出したものなのですが、中にはほとんど市当局の公式案内書といっていいものもあったそうだから、呆れてしまいますね!

 案内書には娼館やその店お抱えの娼婦のリストが、名前と住所だけといった簡素なパターンから、もっと詳細な説明付の場合まで、様々に載せられていました。それだけでなく、娼館や娼婦のなかには自分たちで名刺を作ったり、広告を出したりして宣伝に励むところもあったそうです。もっともこうした区域を限った売春は、当局に対する圧力や、買春問題委員会の力が強まるにつれてだんだん姿を消していったのですが。

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