女子教育 ②

 ☆前回のおさらい☆


 唐代の女子教育の三本柱は


(1)詩書と礼法

(2)音楽と楽器演奏

(3)裁縫と機織り


 の三つだった。ではこれから、なぜ三本柱が重視されたのかについて述べていきます。


 まず、(1)について。

 唐代では、いや先秦時代以降から、中国では女子が書を読むことは大切なことと考えられていました。一般は一般でも上の方の家庭だったら娘の文化教育は重視するし、士大夫や学問を好む家だったらなおさらそうです。そういった家の娘は、だいたい七歳頃から字を覚えて書を読み、「詩経」「三礼」(周礼、儀礼、礼記の三つのこと)といった儒教の経典を学び始めます。他にも「烈女伝」とか「女誠」といった書物が教材として用いられていたそうです。

 唐代では、裕福な家のみならず、商人や武人、庶民の娘も、文字を覚えて書に親しむ人は少なくなかった。しかしこの女子教育の目的は究極的にはただ一つ。女が書物に触れることで、女が父、夫、子に従う「三従」と、婦徳、婦言、婦容、婦功の「四徳」など人に仕える道を学ぶためだったのです。つまり、その女性自身に知恵を付けさせるためではなかったのですね。


 唐代の女子教育は、当の女性ではなくその父や夫や子のためだった。まあでも、それはあくまで外向き表向きの理由であって、娘が学問が好きだから学ばせていた親もいたでしょうけど。

 ただ、女が書を読む理由はあくまで「礼」について学ぶためだった。なので、前回述べたように女が詩を作ったり詩を好むのは賤しいことだとされていたんですね。だからなのか、当時の礼法を重んじる家では、女性の文化教育の内容を制限していたかもしれないそうです。でも、唐代には高名な女流詩人とかもいるので、その制限もあくまで厳格な家に限られていた……といった感じなのかも。現代でも、親と子が一緒のマンガを読んで笑う家があれば、子供にはマンガもアニメも一切見せない厳しい家庭がありますもんね。


 次に、(2)について。

 音楽教育を重んじたのは唐代の女子教育の特色で、娼妓のみならず士大夫の家や一部の庶民の家でも、音楽について学ぶのはごく普通のことでした。唐代の人々は、女性が音楽を嗜むことを極めて優雅なことだと考えていて、上は妃嬪から下は婢まで、多くの女性が音楽に触れていたのです。こういった記録は極めて多く、本でも幾つかの例が述べられていたのですが「~は~の演奏が上手だった」なんて、読んでいても「ふーん。そうだったんだ~」以上の感想は抱けないので、ばっさりカットいたします。


 最後に、(3)について。

 針仕事は本来はどんな階層の女性でも学ぶべき大切な仕事でした。特に、下層階級の、将来働かなければならない女子が施される家庭教育といえば、裁縫が中心でした。どのくらいの年齢から針仕事を覚えさせられたかは分かりませんが、「七歳で女仕事(=針仕事)を覚え~」という詩が残されているから、唐代の女性は七歳頃から針を操っていたのかもしれません。

 ところでここで話は変わりますが、他の針仕事が上手だった女性を讃える詩に「~礼を習い、詩に明るく~」「若くして詩、礼を習い~」とあったのですが、ここで言う「詩」とは一般的な意味の詩ではなく「詩経」を指しているのかもしれないな、とぼんやり思っています。「礼」セットで述べられているところからして。某フリー百科事典によると、実際に詩経のことを昔は「詩」としか呼んでいなかったそうです。だったら紛らわしいなあ、どっちの意味にとるかで、その女性像がかなり変わってしまうじゃないか、と考える次第。


 まあとにかく、唐代における理想の女性とは


「書物を好んで礼に通じ、性格は穏やかで優しく、行いは正しく身持ちが堅く、清潔な容姿をしている。読み書きそろばんもパーペキで、節制を心がけて家計を守り、針仕事と料理と楽器の演奏が上手。父母や舅姑を敬い、夫には従順で、子供をよく教育する」


 女性。あー、なんかこれ、コッテコテの「男が求める理想の女」像ですよね。道理で既視感があると思った。そんな完璧すぎる女、リアルにはそうそういねえんだよ……。

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