その②

 今回はナポレオンが起こした改革の内、前回紹介しきれなかった


 三、戦場で砲兵を一層柔軟に使用したこと。

 四、横隊ではなく攻撃縦隊を使用したこと。


 について述べていきます。


 砲兵については、ナポレオン以前にもジャン=バティスト・ド・グリボーヴァルという人の監督の下、十八世紀に改革が行われていました。

 大砲は標準化され、パーツは互換できるようになった。装薬は改良され射程が伸び、照準器の改良は正確性を増しました。軽い砲架は動かすために必要な牽引力を大幅に削られ、大砲は戦場の内外で活躍できる兵器になりました。ですがこうした技術的な改革以上に重要だったのが組織の改革で、グリボーヴァル氏は慣例として民間の請負業者に任されていた大砲の運搬を、その大砲を打つ兵の任務としたのです。更に氏は砲兵将校のための学校も設立し、理論の普及や発展にも努めました。砲兵出身であるナポレオンも、グリボーヴァル氏の改革の恩恵を受けた一人でしょう。


 さて、ここから「松村劭著 戦争論」を参考に、ナポレオンが砲兵をどのように動かしていたのか見ていきましょう。ナポレオンは戦争の終始を通し火力の優勢を図り、防御の場合でも砲兵だけは敵よりも数を集めるようにしていたそうです。

 ナポレオンは

 「砲兵が(敵陣を)耕し、歩兵が前進する」(原文ママ)

 と考えていたのです。対して英国などでは、「必要な時期と場所に砲兵火力を集中すれば良い」と考えていました。この考え方は机上の空論としては合理的でも、飛び道具は大量に・間断なく発射しなければ実戦では約に立たないことは過去の戦いが証明していました。ナポレオンはこのことを経験則でしっていたのです。


 <四>については、フランス陸軍省はナポレオン即位前の1791年にマニュアルを発し、現場の状況と指揮官の判断によって、横隊、縦隊、散兵のいずれの戦術を取ることも認めていました。しかしフランス以外の国では、スウェーデン国王グスタフ・アドルフ以来の横隊が好まれていたのです(※)。ですがこの横隊戦術が展開するためには、障害物のない開けた土地が必要でした。村ぐるみで三圃式農業を行うための開放耕地制度(詳しくはググりましょう!)が横隊戦術の前提になっていたのです。

 が、農業の多角化によって囲い込みが始まっていた当時の西ヨーロッパでは、横隊戦術は都合が悪いものになっていました。まして、その横隊が生垣や溝に悩まされることなく一糸乱れず前身するなど、不可能だったでしょう。その点、状況に応じて柔軟に対応するフランス軍は、険しい地形の場所でも敵軍より自由に動き回れたのです。1793年のオンショオットの戦いでは、生垣に隠れたフランス軍の散兵がイギリス・ドイツ連合軍の横隊に射撃を浴びせたことが大きく勝敗に関わってきました。

 西ヨーロッパに対して、まだ開放耕地が残っていた東欧では横隊戦術の方が適していましたが。


※「松村劭著 戦術と指揮」を参考にしました。

 横隊は、広い正面への攻撃力があり、現代でも決戦となれば横隊を取るのが普通です。

 横隊戦術では、陣形内の個々の部隊は横の部隊と連携を取らなければならないのですが、連携が途切れて間隙ができると極めて危険でした。なぜなら、間隙への敵兵の突入を許してしまうと、そこから陣形が崩れてしまうからです。また、上手く連携を取るのは厳しい訓練が必要で、そのため横隊の移動速度は速いとは言い難いものでした。

 縦隊は横隊とは逆で、前方の部隊や兵士との連携のみに気を払えばいいし、移動速度も速いのが利点です。しかも、先頭は疲れたら後ろに下がって休めばいいので、結果的に敵は常に元気のある兵と闘うことになるので、いずれ敵兵は疲労して敗北します。ただし、先頭の兵は必要最低限の横隊を展開しなければ、敵兵に圧倒されてしまうでしょうが。


 上記の流れに加え、ナポレオンは「散兵隊形をとる歩兵大隊を、幾重にも縦に並べて攻撃する」(「戦争学」から抜粋)という戦術を取り入れヨーロッパを圧倒しました。更に砲兵のみならず、騎兵においても機動力が高い馬牽きの砲兵で援護させ、突撃を火力支援させたのです。

 この戦術は敵に衝撃を与え、イギリスのウェリントン公は直ちにナポレオンの戦術を導入しました。そして、ワーテルローの戦いでナポレオンを破ったのです。

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