衣装について

・デザイン

 同地の民族衣装は、地区ごとに多少のデザインの違いはあります。身の丈も、ほとんどは対丈(=身長と同じ寸法の丈のこと)なのですが、サルト(ヨルダン中西部の中心都市)とヨルダン渓谷では3mほどのものもあるそうです。身幅は、ヨルダンとパレスチナ南部ではゆったりとしています。

 また、丈や幅だけでなく襟にも地域によってバリエーションがあります。そのうち、円形で胸の部分に切り込みが入ったタイプが最もメジャーなのですが、ガザ地方ではV字形、ヨルダン北部では深いV字形をしているそうです。

 袖は筒形と三角形に大別され、筒袖はパレスチナ北部からヨルダン北部とガザ地方で見られます。三角形の袖は、パレスチナ西部では袖丈約60㎝のものが、南部とヨルダン渓谷では約1mのものが、サルトでは被り布も兼ねた2m以上のものがあるそうです。 

 

 伝統衣装のうち、ドレスタイプのものは身頃、脇、袖から成り立ち、前身頃と後ろ身頃を一続きにして裁断し、脇布を足して作られています。が、地域によっては裾の部分を切り替えた衣装もあったそうです。

 脇布は何枚かを組み合わせ、裾に向かって広がるような作りになっています。袖については、筒袖ならば布幅の約半分を袖の太さにします。三角形の袖の場合は、布幅を方から袖口までの長さとします。

 コートの場合は、基本的な作りはドレスと同じだけど、前開きの場合はちょっと違った仕立て方をしていたようです。


・生地

 普段着のみならず婚礼衣装であっても、結婚後には晴着として長く着用されるので、厚手のしっかりとした、刺繍しやすい生地が好まれていたそうです。刺繍は衣服をより美しく見せるのみならず、布地の補強をするという役割もありますから。

 材質は麻、絹、綿などで、原材料は近隣諸国からの輸入が多かったとか。


・染料

 伝統的に使われていた、天然染料は以下のようになります。


 赤:コチニールカイガラムシ、もしくは虫のフンにいちじくの皮を混ぜて抽出。

 濃い黄色:サフラン

 明るい黄色:ぶどうの葉

 橙黄色:玉葱の皮

 黄緑色:黄はぜの葉

 茶系:樫の樹皮

 紫:ムール貝

 青系:インディゴ


 このほかにも、野生の植物や野菜など多くの染料が使われていましたし、染料が組み合わされて使われることもありました。また、媒染剤 (※)としてはみょうばんや塩、酢が用いられていました。


※媒染

 植物の汁に布や糸を漬けただけではそのうち色落ちしてしまうので、繊維に色素をより絡ませる働きがある物質の水溶液に、染料後の布を浸す必要があります。この工程を媒染と呼び、媒染を経ることでより鮮やかに色が発色するという効果もあります。


・文様

 文様は胸や脇、後ろ裾などに配置されます。

 パレスチナの文様は他のアラブ諸国のものとは全く異なっていて、各地には、それぞれ村ごとに伝統的な文様があります。ですが、例えばある女性が市場に買い物に出かけた際に目にして気に入った他の地方の文様を自分の服に取り入れると、その文様がたちまち村中に大流行し、いつしかその村を代表する文様に……というようなこともあったそうです。


 さらに、19世紀後半からはヨーロッパ風の文様も取り入れられたり、と一口に文様と言ってもさまざまな来歴のものがあります。

 また、村ごとに文様があると言っても、やはり共通したパターンというものはあり、中でも糸杉のモチーフはパレスチナ中に溢れています。他には、羽、波、カーネーションの枝、オレンジの花と枝、ナツメヤシ、櫛、道、月、護符……といったモチーフがあります。中でも「生命の樹」は、パレスチナをも超えてヨーロッパからアジアまで広く分布しているモチーフです。


 面白い名前のモチーフには、「老人の歯」や「優雅な青年」「バラとヒルまたはリンゴの芽の中の虫」というものが本では挙げられていました。「トルコの高官パシャのテント」というモチーフは、歴史を感じさせて趣深いですよね。「ダマスカスへの道」というモチーフは……そのモチーフが受け継がれていた村が、ダマスカスへの道の途中にあったのかもしれませんね。


・刺繍

 

 クロス・ステッチ

 コーティング・ステッチ

 アップリケ

 ダブル・ランニング・ステッチ


 といった技法が使われていたそうです。各技法の詳細は、ググる先生に訊ねてみてください!(丸投げ)

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