軍隊内の性病

 本によると、軍隊が性病によって受ける被害というのは世界大戦に参加したどの国でも注目されていたのですが、実際に性病撲滅のための対策を講じたのはただドイツ一国だったそうです。もっとも、その第一の理由はあくまで戦争遂行のためであり、国民の保健といった人道上の意味は二の次でしかなかったそうなのですが。

 ということで、以下でドイツ軍が性病撲滅のために取った対策を見ていきましょう。


1.正式な婚姻関係以外の性交渉の危険を兵士に教える。

2.性欲を向上させる目的でアルコールを摂取しないように注意する。

3.あらかじめ予告しない検診を頻繁に行う。

4.性病に罹患したと分かっているのに、そのことを隠した者は処罰する。

5.占領地の娼婦の検診を行う。

6.非感染者を性病から守るために、感染源を直に確かめる。

7.検診せずには、兵士に賜暇帰郷させなかった。

(ただしこの検診は申し訳程度にしか行われなかったため、銃後でも性病に罹患する女性は後を絶たなかったそうです)。

8.以下の個人的予防措置を取らせる。

 →梅毒の毒素の吸収を助ける包皮炎症や亀頭炎症を防ぐため、徹底的に清潔にさせる。

 →性行為前、男性器に脂肪を塗擦させる。

 →淋病予防のため、性行為後は放尿させ、尿道に20%のプロタルゴール溶液(殺菌作用がある)を数滴垂らし込ませる。さらに、0.1%の昇汞水(昇汞は塩化第二水銀のこと。毒性が強いが、かつては消毒のために使用されていた)を浸した綿球で陰茎と包皮を擦らせる。

9.専門医に性病を処置させる。

 ※他にも、新しい予防策が採られたり、将校に部下の教育が委ねられることもあったそうです。


 なお、他にも出征する兵士に性病の危険性を訴えるビラを配ったりもしていたそうです。

 上記の手段は流石ドイツだけあって徹底してるなあ、という感じですよね。ですが、平時あるいは銃後で考え出されたこんなまどろっこしい予防策を、戦地の兵士たちは本当にいちいち守っていたんでしょうか。この問題については、当時から賛否あったようです。そのことを示すかのような、データも残っています。


 1895年の兵士千人当たりの性病罹患者

 ドイツ………………………………25.5

 フランス……………………………41.9

 オーストリア………………………61.0

 イタリア……………………………84.9

 イギリス……………………………173.9


 こうしてみると、確かにドイツが一番性病罹患者の割合が少ないけれど、称賛に値するような割合でもないですよね。というか、逆に群を抜いて多いイギリスよ……。

 第一次世界大戦前後、ドイツのように専門医に対処させるまでは行かずとも、イギリス以外ではどの国でも兵士に性病についての教育を施すぐらいはやっていたそうです。つまり、イギリスの兵士の性病罹患率が高いのは……。教育ってほんと大事ですね!


 まあそんなこんなで、どんなに対策を講じていても、なる時はなってしまう性病。当時のドイツ軍では、性病罹患者を見つけるためなのか、はたまた誰かの意味のない思い付きがいつの間にか規則として定着してしまったからなのかは分かりませんが、週に二回か三回は「如露ジョロ検査」と称される性病検査が行われていました。そしてこの如露検査は、兵士たちの間ではこうも呼ばれていたのです。男根閲兵式、と。――はい! 皆さん待ちに待った? 男根閲兵式が早速出てきましたね! 

 

 この男根閲兵式では、兵士(ただし将校は除く。性病の罹患率は一般兵よりも将校の方が高かったに関わらず、将校は除く)は分身を衛生兵に曝け出して、性病を患っていないかチェックしてもらわなくてはなりません。それが個室で一人一人行われたのか、それとも大広間にブツを曝け出した兵士が(あたかも本当の閲兵式のごとく)ずらっと並んでいて……といった形式なのかは特に記載されていませんでした。第一次世界大戦前後のドイツ軍が舞台の話を書くならもっと踏み込んだ調査が必要ですが、近世ヨーロッパ風のファンタジーでこういった制度を出すのなら、適宜自分の好みに合わせた閲兵式にするといいでしょう。


 さて、話は本筋から大幅にそれてしまうのですが、ここで私が男根閲兵式にときめく理由を語らせてください。男根閲兵式の萌え。それは「自分のブツのサイズや形状が他人に知られてしまう」ことに尽きます。

 私は女なのでそういった事情は一切理解できないし、一部分の大きさでマウンティングしあうのは愚か極まりないと思っているのですが、男性というのは自身(意味深)が他者や平均より劣っているかどうかを極めて気にする生き物です。また、自分の身近に「そういった」人物がいれば、それがどんなに立派な人物であっても容赦なく見下すもの。まるで、性器の大きさで勝っているなら、自分は他の面でもその人物に圧勝しているのだと言わんばかりに。

 上記の男性社会への意見は独断と偏見によりますが、概ね正鵠を射ているのではないかと自負しております(違っていたらごめんなさい)。


 そんな苛酷な闘争社会で、もし仮に「あいつは短小包茎らしい」なんて噂が立ってしまったら――。それがどんなに恐れられ恨まれている上官でも、部下から嘲られるのは避けられないのではと愚考してしまいます。というかむしろ、恨みが深い分嘲りもより増すかもしれませんね。もしかしたら、「態度だけはデカイ短小の言うことなんて聞きたくない」と部下に反乱を起こされたりもしていたかも……。そういう問題って、積もり積もれば戦局をも左右しそうな気がしませんか!?


!!CAUTHION!! ここからは、少し腐った話題に入りますよ~。苦手な方は◆まで読み飛ばしてくださいね。


 また、将校は閲兵式に出なくとも良いとはいえ、新兵だった頃はまず間違いなく受けたはず。なので、ある兵士(皮被り)が無事に将校まで上り詰めて一安心していたところ、過去自分を検査した衛生兵に「秘密をばらされたくないのなら」と強請られて……。なんてこともあったかもしれません。鬼畜攻め・調教系のBLだったら、ここから波乱に満ちた愛憎劇が始まるところです。また、このネタは、推理モノとかにも使えそうな気がします。軍隊内で起こった殺人事件。その衝撃的な動機とは――!? なんちゃって。


 ◆警告終わり


 性病に罹患したと判明した兵士は、自分が所属する中隊の事務所で、その恥ずべき罪を報告しなければなりませんでした。重い重い告白が終わっても、彼はまだ解放されません。その場で鬼軍曹か歩哨長から助平野郎と罵られ、自分に呪わしい病をうつしたと思しき相手の名前と住所を明らかにするまでは解放されませんでした。


 相手の姓名と住所を応えれば、彼は三日あるいは七日の禁固刑を免れることができます。禁固刑を食らっている間に入れられる営倉は薄暗く、飲み食いできるのは水とパンだけという陰気な場所です。誰だって、こんな場所にぶち込まれるのは嫌でしょう。それぐらいなら、自分に病気をうつした女に全ての責任を擦り付けてしまう道を選んだほうがよほどましというもの。ですが、純粋に心当たりがないのか、はたまた相手の女を思いやっているのか、中々口を割ろうとしない兵士も中にはいました。ある地域では、性病保因者だと兵士に告発された女の名前は大抵「マリー」だったそうです。


 何はともあれ、「頭部貫通銃瘡」(字面はなんだか深刻ですが、ようは性病にかかって先端を痛めたということです)だと診断された兵士は、性病衛戍病院――通称「騎士城」に送られます。ちなみにこのお城は、早く治りさえすればどんな薬も激しすぎることはないとされていた、恐怖のお城でもあります。

 なお、万が一将校が性病になったと兵士に知られたら(通常は知られることがないように配慮されていた)、その将校は将校の権威を保つために極秘裏に地位から追われました。しかし故国ドイツまで手厚く送られ、その英雄的な献身を新聞で大々的に取り上げられたというから、一般兵の場合とは天と地ぐらいの違いがありますね。男達の階級社会……。

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