穴だらけの知恵袋

田所米子

一冊目 できればみんなされたくない拷問のお話

鞭打ち

 最初に作者から一言

 この章は新紀元社「拷問の歴史」の、私が気になるところをまとめたものです。以下の内容をより詳細に知りたくなった方は、ボンクラ筆者よりも本を頼りましょう!

 前置きが長くなりましたが、どうかごゆるりと鞭打ちの世界を……。

 

 鞭打ちの歴史は非常に古く、古代ギリシア、ローマ、エジプト、中国などで記録が残っています。

 古代社会において鞭打ちは奴隷に対して行われる刑罰であり、ローマ帝国では自由人を鞭打つことは禁じられていたようです。

 ですが時の流れと共に価値観も変わり、16世紀以降になるとヨーロッパの都市には公開鞭打ちのための柱が設置されるようになりました。鞭打ちが行われる場所は圧倒的に広場が多かったのですが、馬車の後ろに繋がれ、町中を引き回されながら鞭打たれることもあったようです。また、水を神聖なものとする思想から、噴水や河川の側に柱が設置されることもあったとか。


 また、使用される鞭にも様々なタイプがありました。以下で大まかに有名な鞭をご紹介します。

 古代ローマでは微罪の者には「フェルラ」という平らな革紐の鞭が、その次には「スクティア」という羊の皮を捩って束にした鞭が用いられていました。その次には「フラッゲルム」という雌牛の皮製の鞭の登場です。これは御者が馬を打つ際に使用する物ですが、先端に鉛が付けられたタイプもあったとか。鞭打たれた時に鉛が当たると、余計に痛くなりますね。

 重罪を罰するために振るわれた「プルムバタエ」は短い棒に数本の革紐が付けられ、また更にその先端に鉛か青銅の球が付けられた鞭です。これに直撃されたら、重症どころでは済まない場合もあったはずです。


 猫鞭は数多の鞭の中でも一際悪名高い鞭です。一見ただの藁の束のような、麻の細いロープを百本ほど束ねただけの華奢な鞭。先端には固い結び目が付けられ、その中にはトゲトゲが生えた玉が入れられていました。この玉、「鉄の星」なんてちょっと私たちの内側に眠る中学二年生が目覚めそうな名称が付けられていたようですが、人体に与える苦痛は笑い事になりません。

 猫鞭は使用される際、塩と硫黄を溶かされた水に浸されます。硫黄を吸った鞭に打たれれば肌は爛れ、やがて破れ、傷に塩分が沁みて……。ここから先は詳細に綴らずともお察しいただけるでしょう。

 もう十分にアイタタタ……となっているところですが、真の苦痛はこれからやってきます。先ほどの「鉄の星」の全くありがたくない出番です。恐ろしいトゲトゲを秘めた先端がむき出しになった肉に触れれば、その部分はぐしゃぐしゃに引き裂かれミンチのようになってしまいます。


 見た目は華奢な猫鞭と異なり、見るからにごつくて恐ろしいのが鎖鞭。その名の通り金属の鎖を数本まとめた鞭です。鎖が身体に直撃するだけでも冗談じゃないのに、更にその上に先端に工夫が凝らされた物もあったとか。星型の分銅が付けられた物、薄い鉄板が付けられた物、刃が付けられた物……。もはや「拷問」器具ではなく武器とか処刑のための道具になっていますね。

 実際、鎖鞭はよく皮剥ぎに用いられていたようです。鎖鞭で皮を剥がれると、内臓が掻きだされることもあったとか。

 また、猫鞭と鎖鞭の中間型のような、細い鎖化針金を束ねた鞭は「牛の鞭」「牛の腱」と呼ばれていました。これをお見舞いされると、数回だけで肉が裂け骨が露出するそうです。


 17世紀末ごろ、スコットランド軍は規律の維持のために「九尾の猫」での鞭打ちを公式な処罰として採用しました。

 九尾の猫はその名が示す通り、異なる長さの九本の縄でできた鞭。それぞれの縄には異なる位置に三または六の結び目がありました。この鞭は、一振りごとに縄が犠牲者の皮膚を傷つけ、結び目が筋肉をこそげ取ります。


 奴隷制が敷かれていたころのアメリカ南部では奴隷への処罰として、小さな穴が開いた櫂による鞭打ち「コッピング」が行われていました。

 奴隷を普通の鞭で打つと、身体に傷が付いてしまい転売する際に価値が下がってしまう。そのため、犠牲者に傷を残さないための鞭打ち・コッピングが考案されたのです。

 開けられた穴が小さなコップのようになり、通常の鞭打ちを上回る、しかし傷跡は残さないコッピング。人間のとりわけ醜悪な側面が濃縮されたような刑罰ですね。


 最後にご紹介するのはサソリ鞭(金属のトゲが付けられた革の鞭)の一種「クロウト」です。

 クロウトによる鞭打ちはモスクワ大公イヴァン三世(通称イヴァン大帝。モンゴルによるロシア支配を終わらせた名君。かの有名な雷帝イヴァン四世の祖父にあたる方です)によって始められました。

 一般的なクロウトは、30センチの長さの木製の把手に、60センチの長さの革紐が数本付けられたもの。捩り合わされた先端には、更に45センチの先が細い頑丈な革紐が一本付けられています。

 一般的なものより大きなダメージを与えるために考案されたのか、鉄線と絹糸を編み合わせ、先端に針金を付けたなんてものもあったそうです。

 変わったタイプとして挙げられるのが、20センチの把手に40センチの生皮が備わったもの。これはそのままでは使用されず、先端に金属の輪をはめ、さらにそこに20センチの長さの第二の鞭を付けます。そしてさらにその先端に、鉤状の金属が付いた数センチの長さの固い皮革を装着し……。この鞭が与える苦痛は皆さまの想像にお任せします。

 サソリ鞭の各部が分解可能なのは、犠牲者の血液でふやけた革を取り換えるためだそうですが、そんな気遣いは1ミクロンたりとも必要ないですね。

 

 世界にはここに挙げた以外にも数多の鞭が存在しているのでしょうが、取り敢えずはここまでで。

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