第2章

 シヴァール王国は小さな島国でハミューズ王国から海を挟んで隣国に位置している。大陸続きではないものの大陸と大陸の丁度真ん中に位置している為昔から多くの争いに巻き込まれてきた。しかしどこの国にも属することを良しとしなかったシヴァールの王は軍を強化し、永世中立国となることを宣言した。どこの国も侵さず、侵させず、長きに渡って中立を守ってきたシヴァール王国には現在多くの国際機関の本部が置かれている。

 そのひとつが国際治安維持部隊、通称IPUだ。

 部隊と言っても軍とは独立した組織であり、国際戦争の仲裁、世界を跨ぐ犯罪組織の取り締まりなどが主な仕事である。故に世界警察と呼ぶ者もいる。

 その本部を真っ白な制服に身を包んだニーナが軽やかに進んでいた。その胸元にはIPUの証である銀バッチが輝いている。

「――相変わらず遠いなぁ」

 部隊ごとに執務室が置かれている本部は4階建てで、横に長い構造になっている。

 ニーナが所属する18部隊の執務室はよりによって2階の一番奥に置かれている為、多くの執務室前を通過していかなければいけない。廊下を進みながら各執務室に目を向ければ開け放たれている部屋もあれば、きちんと閉められている部屋もある。規約では情報保持の為扉はきちんと閉めるように書かれているが、本部は一般人立ち入り禁止でセキュリティも高いため慌ただしく動いている部隊の執務室は開け放たれていることが多い。

 初めは戸惑ったが、ニーナの所属する部隊も忙しく出入りする場合が多くすぐに慣れた。いちいち閉めたり開けたりしている時間も惜しいほど忙しい時があるのだ。

 だがこの距離だけはいつまでも文句を言ってしまう。体力的な問題ではなく、単純に面倒なのだ。

 今はまだいいが、緊急出動や緊急の報告があった時は本当に面倒くさい。

 心の中でも文句を繰り返しながらようやくたどり着いた18部隊執務室はしっかり扉が閉じられていた。

 ノックもせずに中に入ると、部屋の奥の一番大きな机に向かって直進する。

 紙の山が三つほど積み上げられたその向こうにいそいそとサインを書き込んでいる男がいた。

 ニーナとは対照的な金の髪に海を映したような青い瞳。切れ長の目はやや鋭く書面を見つめている。ただ座って書面で筆を動かしているだけだというのに近寄りがたい印象を与える彼こそがニーナの所属する第18部隊隊長、セドリック・ヴァンフォートだ。

 約2年前、若干25歳という若さで隊長に就任し、IPUの最年少記録を一気に塗り替えたという切れ者であり、年上の隊員ですら声をかけるのを躊躇ってしまうという噂がある。

 だがそんなことを全く気にしないニーナはヴァンフォートの前に立つと「隊長」と遠慮なく声をかけた。

「なんだ」

 書面から顔を上げないままヴァンフォートがニーナに問う。

「報告書読んでくれました?」

「――ああ、読んだ。お前が仕事に関係のない難民問題について報告書を上げてくるほどハミューズ王国に関心があるとは知らなかったな」

「そこはいいんです。報告書についての意見を聞かせてください」

 ニーナはハミューズ王国から帰国した翌日空いている時間にハミューズ王国に流れ込んでいる難民の現状や、バルト王国についての考察をまとめた報告書をヴァンフォートに提出していた。

 今日はその報告書に書いた解決策が有効か否かの意見を聞きに来たのだ。

 強い口調のニーナにようやく筆を止めたヴァンフォートがため息と共に視線を上げる。

「――バルトの内戦は国内の問題だ。私たちの管轄外だよ。私たちに出来るのはあくまでも国を跨いだ犯罪を取り締まること、二国以上が関わる争いの仲裁をする事。よってニーナが書いていた解決策はまったく使えない」

「じゃあ難民についてはどうなんですか?」

「難民は国際社会全体で取り組んでいく問題だ。私たちが主導してやることじゃない」

「そんな……。じゃあ私たちにできることは何もないんですか?」

「そうだ。冷たいようだが、私たちにできることは限られている。個人の感情で動けば越権行為になり、IPUの存在自体が危うくなる。お前もまだ新人といえどIPUの一員だ。その自覚を持て」

「……むー。……はーい」

「まったく納得してないな」

 何かしたいのに、何もできないもどかしさ。

 国際平和を守る組織だと思っていたのに、実際はこんなものだ。

 絶対中立を掲げた国際組織であるが故の縛りが多く、今まさに命が失われている内戦問題には手を出せない。この瞬間にも難民は増え続けているというのに。

 唇を噛み締めてうつむく。

「――お前の報告書だが」

「はい」

「ひとつだけ有益な情報があった」

「情報、ですか?」

「ああ。お前が遭遇したという人さらい、それはもしかしたら『鷹』が関わっているかもしれない」

「え!『鷹』が!?」

 『鷹』は数年前からIPUでも追っている国際的な人身売買組織だ。

 世界を跨いで誘拐事件を起こしているが、スラムに住む貧民層に狙いを定めていることもありなかなか表面化してこなかった。貧民層の声が上まで届きにくいというのは全世界共通らしい。事件の発覚も通報ではなくまず人がいなくなるという噂が届いたからだ。半信半疑で調査を始めたIPUの諜報部隊が事件が主にスラム街で発生していることを突き止め、通称『鷹』と呼ばれる組織が関わっていることが判明した。その後の追跡調査によって『鷹』は誘拐した子供や女性は奴隷として、それ以外の者は臓器を抜き取ってその遺体を捨てているということがわかりIPUを震撼させた。だが組織の人間を捕まえてもトカゲのしっぽ切りでなかなか本体に近づけないでいる。

 現在16部隊と17部隊が合同で捜査を行っているが、進まぬ調査に隊長達が嘆いているのをつい最近聞いたばかりだ。

「あの時の男たちなら地元警察に引き渡しましたよ?そこからの情報はないんですか?」

 あの男たちが『鷹』のメンバーだとすれば一気に組織に近づくことができるかもしれない。そうでなくとも何かしら最新の情報が手に入るかもしれないとニーナは思わず机に手をついて前のめりになった。

 そんなニーナから距離を取るようにイスの背もたれに背を預けたヴァンフォートが落ち付けと冷静に声をかける。

「確かにお前が捕まえた男たちが『鷹』に関わっている可能性はあった。だが地元警察は証拠不十分で釈放してしまったらしい」

「はぁあ!?証拠不十分!?」

 どう見たって現行犯逮捕だったというのに証拠不十分で釈放とはどういうことだ。

 もちろんニーナたちはきちんと状況を説明した。

 引き渡した警察官たちに言いようのない怒りがこみ上げる。

 そこでふと引き渡しの時点で子供がいなかったことを思い出した。

 あの場に被害者がいなかったのはマイナスだ。

 恐らくそのせいで釈放されてしまったのだろう。

 今度は己の不手際に悔しさがこみ上げてきた。

 いくら警察と言っても被害者がいなければ事件としては扱えない。

 もう戻れない過去を悔いて「う~っ」とうなり声を上げるニーナになんとなく察したらしいヴァンフォートが「安心しろ」と声をかけた。

「ハミューズのスラム街で張り込みをしていた16部隊のメンバーがいち早く情報をキャッチしてその男たちの尾行をした。結果アジトを掴むことは叶わなかったが、男たちの会話から『鷹』に関わっている可能性が高いことが判明したらしい。大元に近づくために男たちはあえて泳がせ、現在尾行を継続中だ」

「そうですか……」

「――ちなみに!」

「うわっ、びっくりした!」

「これは失礼」

 突然耳元で大声を上げられて心臓が飛び出そうになったというのに何の前触れもなくニーナの横に現れた男は言葉とは裏腹に微笑を刻んだまま、わざとらしく胸に右手を当てて腰を折ってみせた。彼はこの部隊の副隊長カルロス・アッシュ。諜報活動が得意とだけあって部隊の中で一番気配を読み取ることが難しい男だ。

 ニーナはいつもこんな風に驚かされている。

「俺の独自調査によると組織はかなり前からハミューズで身寄りのない人たちを誘拐していたようです。確認できるだけでも80人は超えています。これは異常な数ですよ。それなのになぜハミューズはこちらに情報を渡さなかったのでしょう?」

 未だに心拍数の高いニーナとは対照的にヴァンフォートは何事もなかったかのように顎に手を当てると「そうだな……」と思案を始めていた。

「孤児や難民が溢れているのに国の対策はいまいち効果がない。それを片付けてくれる組織はありがたかったかもな」

「なるほど。ハミューズは『鷹』を掃除屋として使っていたと。なかなか大胆な仮説を立てますね。しかしあまり大声では言えない危険な仮説ですね」

「ちょ、それじゃあハミューズがスラム街の人たちを『鷹』に売ったって事ですか!?」

「そう大声を出すな。仮説のひとつに過ぎない。現状では情報が少なすぎる」

「まあ情報がそろったところで俺たちには関係ないかもですけどね。なにせ『鷹』は担当外だから」

「そんな重大事件ほっとけないですよ!今私たち待機状態ですし、手伝いましょう!」

「待機状態だからといって暇というわけではないだろう。細々とした書類整理はあるし、訓練もある。この件は16、17部隊から協力要請があるまでは見守るしかない」

「仕方ありませんね。どのみち現時点で協力しても無駄足になりそうですし」

「そんな――」

 ヴァンフォートとアッシュの言葉に絶句する。

 捜査に難航している今もあの街で誰かが犠牲になっているかもしれないのにただ待っているだけなんて耐えられない。

 では一体IPUとは何のために存在する組織なのかと大声で問いただしたかった。そうしなかったのはニーナも少なからず組織に属する者としての自覚があったからだ。

 この組織が決して個人の為に存在する正義の組織でないことはわかっている。

 大を守って時に小を切り捨てる残酷な組織なのだ。

「とにかく現時点で捜査に加わることはない。まあ今後どうなるかはわからないが」

「そうですね。あ、ヴァンフォート。そろそろ会議室へ向かわないと」

 今思い出したとばかりにアッシュが手を叩く。

 それにつられて時計に視線をやったヴァンフォートが「ああ……」と憂鬱そうな声を出した。

「まだ片付けなければいけない書類が山ほどあるんだがな……」

「仕方ありませんよ。それも隊長の宿命です。さ、今日も元気に行きましょう」

「なんでそんなに楽しそうなんだ」

「各部隊の隊長をじっくり観察できるのは会議の時くらいですからね。場合によってはいいネタを入手できますし」

「……そうか」

 それ以上は触れてはいけないと思ったのか、ヴァンフォートが無気力に立ち上がる。それからニーナに「訓練サボるなよ」と釘を刺して釘をさしてアッシュと共に部屋を出ていった。





 訓練は待機状態にある18部隊と19部隊の合同で行われた。

 体術から始まり、剣術、それから最後に射撃訓練となる。各1時間、ほとんど休憩もなく行われるので、体力的にはもちろんだが、集中力もかなり消費するため隊員たちの間では地獄の訓練とも言われている。

 今日は実践的な訓練ではないので動きやすい訓練着に着替えたニーナは同じように訓練着に着替えたキースと共に道場へと足を運んでいた。

 軽いストレッチから身体を温める為のジョギングをしてその後でようやく体術の訓練に入る。それぞれペアとなって永遠と組み手を行うのだが、今日の相手は偶然にもキースであった。女性隊員はもともと少ないのだが、IPUの訓練は基本的に男女合同であり、その組み合わせも訓練長が適当に決めるランダム方式の為時にこういった圧倒的に体格が違う相手と当たることもある。

 それでもニーナは恐れを抱くことなくキースと対峙した。

 どちらかというとキースの方が引きつった顔をしている。

「今日はお前が相手か……。俺の身体大丈夫かな……」

「ねぇキース、それどういう意味?」

「そりゃあお前って馬鹿力だから――」

 最後まで言わせまいと開始の笛が鳴る前にややフライング気味でニーナが一歩を踏み出した。そしてすぐさま流れるように回し蹴りを繰り出す。

 キースは「うをっ、あぶね!」と焦ったような声を上げながらもしっかりと反応してそれを避けた。

 キースが避けることは想定内なのですぐさま体勢を整えて膝蹴りに移行する。だがそれも両手で受け止められてしまった。

 そのまま足を掴まれないようすぐに引いてまた蹴りの繰り返し。

 筋力的な問題からニーナの攻撃は蹴りが主体だ。それをキースはよくわかっているので、うまく攻撃の軌道を読んでいる。

 こちらの攻撃を躱したり防いだりしながら攻撃の隙を伺うキースにニーナは少しだけ嫉妬に近い感情を抱いた。

 心技体すべてにおいて優れた者が集まるIPUの中でもキースの体格はかなり恵まれていると思う。高身長であり、筋肉もバランスよくついている。これならどんな相手との接近戦でも苦戦することはないだろう。

 自分とのこの戦いも本気に見せて手を抜いているのは間違いなかった。

 どんなに努力しようとも同じだけ訓練を積んだ男にはかなわないのだ。

 それでも自分も恵まれている方だと思う。筋力や体格をカバーする素早さがあるからだ。相手の攻撃よりも早く懐に入り込み、そして倒す。今のところキース以外の男はほぼすべてその方法で倒してきた。

 隊長であるヴァンフォートにはその作戦を逆手に取られてあっけなく負けてしまったのだけど。

 そういえば会議のほうはどうなっているだろう。

 ハミューズ王国のスラム街で動いているという『鷹』。あんな小さな子供までさらってどうするつもりだったのか。それにハミューズがスラム街の人々を排除すために黙認しているというヴァンフォートの仮説もあながち間違ってないように思えた。

 子供を誘拐していた男たちを地元警察に引き渡した時、男は笑っていたのだ。

ハミューズで誘拐は決して軽い罪ではない。捕まれば最低でも5年の禁固刑が待っている。それなのになぜ男は笑っていたのか。しかも自分を捕まえに来た警察官に。

 それは警察が自分たちを見逃してくれる存在だと知っていたからではないのか。

 そう考えればあの笑みにも、証拠不十分で釈放された理由にも説明がつく。

 だがそれならば大変な事態だ。

 少なからず国家が犯罪組織に力を貸しているということになる。

 もし本当だとしたらハミューズ王国でも内戦が起こりかねない危険な推測だ。

 脳裏にまたもあのやせ細った手足の子供が浮かぶ。

 見た目はまだ5歳くらいだったが、きちんと話していたのでもしかしたら実年齢はもしかしたらもう少し上かもしれない。それでもまだ子供であることには変わりない。

 ニーナたちが暮らすシヴァール王国ならまだ幼等教育、もしくは初等教育を受けている年齢だ。けれど自国の子供とはあまりにも姿が違いすぎる。

 戦争は彼らには関係がないのにと歯がゆい気持ちになる。

 どうしたら彼のような子供を助けてやれるのだろうか。

 ローゼンの言うように人らしい生活を送らせてあげるためにできることは何か。

 内戦を止めることができない自分には何ができるのだろう。

「ニーナ!」

 いつの間にか思考の海に沈んでいたらしい。

 キースの本気で焦ったような声に我に返るとキースの拳が目前に迫っていた。

 ここから回避することは不可能だ。

 訪れるはずの痛みを予想して反射的に目をつぶる。

 しかしニーナの顔に触れたのはわずかな風だけで、固い拳が触れることはなかった。

「?」

 不思議に思って目を開けるとまさに目と鼻の先で拳が止まっている。

 しばし固まる二人。

 先に抜け出したのはキースだった。

 上げたままだった拳を下ろすと「あっぶねぇー!」と大きく息を吐いている。

「危うくお前の事全力で殴るところだったじゃねぇか、なにやってんだよ」

「私が怒られてるの?」

「当たり前だろう!いつものお前なら軽く避けてたぞ。なに余計な事考えてた」

 思考を読んだわけでもないのに余計な事と言われて無性に腹が立った。

「余計な事じゃないわよ!私は真剣にハミューズとバルトの問題について考えてたの!」

「少なくとも今考える事じゃない」

「……それは」

 正論を突きつけられて言葉に詰まる。

「実践訓練じゃないからって気を抜くな。いつ取り返しのつかないミスにつながるかわかったもんじゃない」

「……ごめん」

 難民問題や『鷹』に絡んだハミューズの意向については真剣に考えなければならない問題ではあるが、訓練中に考える事ではなかった事は確かだ。

 素直に反省の意を示す。

「どうしたんだよ珍しく素直だな。まさか具合悪いのか?」

「なんで素直に謝ったら具合が悪いことになるのよ!」

「だってお前が謝るなんて貴重過ぎるぞ。ってこら話してる途中で蹴りを繰り出してくるな!」

「問答無用!」





 すべての訓練が終わり、次の部隊会議まで時間があったので二人は汗を流した後休憩スペースで揃ってスポーツドリンクを飲んでいた。

 運動の後のこの甘みはたまらない。いつまでも飲み続けてしまいそうになるが、あまり一気に飲むのは身体によくないので適度なところでキャップを締めた。

「で、訓練に集中できないくらいハミューズとバルトの何を考えてたんだ?」

 ふいに世間話でもするかのような気軽さでキースが訊ねてくる。

 馬鹿にされそうな気がして話を逸らそうかとも考えたが、他にそうだんできる人物に心当たりがないので覚悟を決めて口を開いた。

「……何かしてあげられることはないのかなぁって。今の状況じゃあIPUとしては動けないし、でも個人でしてあげられることなんて何もないような気がして……」

「なるほどなぁ……」

「内戦があって戦いに巻き込まれたくないから逃げてきて、それって仕方のないことじゃない?なのに入国すらさせてもらえなくて、密入国は悪いことだけど、でもそうしないと生きていけないわけで……。だからってスラム街に逃げ込んでも満足に食事もできない。キースも見たでしょう?あの時さらわれそうになっていた子供。手足が棒みたいだった……」

「……そうだな。だけど俺たちは国も違うし、何かしようと思っても距離がありすぎる。支援物資を送るにも受け取る側と話をつけなきゃならんしな」

 受け取る側と聞いてニーナの脳裏に美術館で会ったシュナイザーの姿が浮かんだ。

 難民問題に関心があり、支援もしていると言っていた。彼に連絡が取れれば自分にできることが何か見つかるかもしれない。

 ニーナが考えをまとめている間にもキースの話は続いていく。

「うーん、組織としては動ける案件じゃないし……。やっぱり個人的に動くしかないよな」

「そうなんだよね。国際治安維持部隊ってホント名前ばっかり立派。……それが嫌で兄さんも辞めちゃったのかな」

「そう言えばお前の兄貴IPUに所属してたけど自分でやめたんだっけ?IPU養成学校卒業するってだけでも相当大変なのに念願の本部隊に所属して辞めるってすげぇよな」

 キースの言う通りニーナの兄、ハミルトンもかつてはIPUに所属していた。

 養成学校の厳しい訓練をこなし、合格ラインに届いた者だけが所属する事が許されるIPU。養成学校に通ったからと言って誰もがなれるわけではない狭き門。

 身体的な訓練だけでなく、学問はもちろん、人としての教養、マナーなども徹底的に教え込まれるそこは世界一厳しい学校と言われることもある程で、入学時にいた生徒が卒業時には半分以下になっているのはよくあることだ。

 ニーナ自身も学生時代は寝る間も惜しんで勉学に励んだし、時に休日返上で体術や剣術の訓練をした。学生らしい事もほぼせずIPUに所属することだけを夢見て頑張ってきただけに本採用になったときは飛び上がるくらいうれしかったし、どんなにきつい訓練があっても辞めたいなどとは思ったこともない。

 しかしIPUにもどかしさを感じているのは事実だ。

 特にバルトの内戦問題や、難民問題について。

 元々IPUは二国間以上の問題を仲裁するために設立させた組織だ。今でこそ国際犯罪組織の取り締まりも行っているが、かつては戦争が起こらないよう、万が一戦争が始まってしまった時の早期解決のために中立の立場で動いてきた。二国間以上の問題を解決するIPUの絶対的精神は常に中立であること。故に所属している者も多国籍である。

 だが中立であることは思う以上に制限がかかる。

 バルト王国の内戦のような国内だけの問題には一切手出しができないのだ。

 唯一できる事と言えば他国の干渉がないか、犯罪組織が暗躍していないか捜査、監視することぐらいである。しかもそこから発生する難民問題については一切手出しができない。難民は犯罪組織ではないのでIPUの活動規定からははみ出してしまう。

 この問題に直面して初めて気づいた。

 IPUは国の為にある組織なのだと。決してその国に住む民衆を守るための組織ではないのだと。

 正義のヒーローだと思っていたのは幻想に過ぎなかった。現実は様々な制約にがんじがらめにされて満足に手足を動かすこともできない。

 この理想と現実の差にハミルトンは耐えられなくなったのだろうか。

 元々難民や孤児について関心が深かったハミルトンは養成学校時代から暇を見つけては世界中のスラム街に赴き、ボランティア活動をしていた。

 そのせいで人より訓練時間や勉強時間は削られていたはずなのだが、ハミルトンは養成学校を次席で卒業したほどの優秀な生徒だった。

 IPUでもエリートが集まると言われる第1部隊に配属され、妹としても誇らしく思ったものだ。

 だがそれも長くは続かなかった。

 IPUに所属することが決まってもハミルトンは相変わらず世界中を飛び回っていた。そしてその時間が徐々に増え、突如として辞表を提出したのだ。解雇はあっても辞表を提出する者などほとんどいないIPUの中で配属されて1年にも満たない者が辞表を提出するなど前代未聞だった。その話はニーナのいた養成学校にも届く程で、生徒たちに大きなざわめきが広がったのを今でも覚えている。

 信じられない話にニーナはいてもたってもいられず家に戻りハミルトンに話を聞いた。

 あの時ハミルトンはただ悲しそうに自分のいるべき場所はIPUではなかったと。それから数日後にハミルトンは失踪してしまう。

 あれから8年、どこで何をしているのかまったく手掛かりが掴めないでいる。

「――ああでも兄貴が支援活動をしていたのなら俺達もそこに関わることで兄貴の事知ってるやつに出会う可能性もあるな。一石二鳥じゃん」

「そうかもだけど、でもハミューズの支援団体とか知らないし、連絡先知らなきゃ物資も送れないし」

「ハミューズで16部隊が張り込んでるって言ってたよな。あいつらに聞けば誰かしら知ってるだろ。幅広い情報が集まってくるのがIPUのいいところだ」

「そっか。じゃあ後で聞いてみよ。確かジニーが16部隊だったよね?こっちに残っているといいけど」

「別に支援団体の連絡先聞くくらい誰だっていいだろ」

「だって変な噂立てられたくないし」

「なんだよ変な噂って」

「だってなんかIPUの人たちってあんまりそういうことしてるって噂聞かないし、よく思ってなさそう」

「んなことねぇだろ。まあでもまずは隊長に相談だな。個人でやるとはいえ俺達がIPUの所属であることは紛れもない事実なんだし、万が一の為にもな」

「えー……。でも仕方ないか」

 報告書に書いた提案をすべて却下されただけにトラウマ化している部分もあるが、勝手にやってとばっちりを受けるのはヴァンフォートなので報告はしておかなければならないだろう。

「んじゃあヴァンフォートのところにいきますか」

「おう」

 ボトルを片手に立ち上がったニーナに続いてパンと膝を叩いたキースも立ち上がる。それから揃って執務棟へ向けて歩き出した。





 18部隊の執務室にはまだ会議まで時間があるという事もあって隊員の半分ほどしか集まっていなかった。だが目当てのヴァンフォートはすでに席に着いているだけでなく、せっせと手を動かして書類を片付けているようだった。

 一体この人はいつ休んでいるのだろうかと素朴な疑問を抱きながらキースと共にヴァンフォートの前に立つ。

「――今度はなんだ?」

 気配で顔を上げたヴァンフォートが問いかけた。

 素の表情なのだとわかっていても鋭い視線に捉えられて一瞬心が折れかけたニーナだが、意を決して口を開く。

「ハミューズの難民問題について考えてみたんですが――」

「……はあ」

 盛大にため息をつかれた。

 またその話かと言いたげに表情が脱力している。

 案の定「まだ続いていたのか」と言葉が続いた。

「で、今度は何を思いついたんだ?」

 それでも話は聞いてくれるらしいと分かって安心する。

 第一関門を突破したことに内心ほっと息をついた。

「あの、組織として何もできないのなら個人的に支援活動をしようと思うんですけど、それなら問題ないですよね?」

「ああ、個人的な活動と言っても制限されることも多いが支援活動なら問題ない。具体的にどのような活動をするかは決まっているのか?」

「……それが、恥ずかしながらそういった活動の経験はなくてですね」

 正直に告白したもののヴァンフォートの責めるような視線が痛い。

 耐えきれずに視線を逸らし、助けるようにキースを見ると目線が絡み合いスッと肩をすくめられた。

 それからキースの視線がヴァンフォートに移る。

「16部隊のジニー・ローファウスにハミューズの支援団体について知らないか訊ねてみるつもりです。そこから連絡を取って必要なものを送る形にしようかと思っています」

「そうか……。だがローファウスは確かハミューズの潜入部隊に組み込まれていたはずだ。しばらくは戻らないぞ」

「ええ!そうなんですか?どうしよー……」

 頼りの同期が使えないとなると八方塞がりだ。ここはキースの言うように手あたり次第聞いて回るしかないのだろうか。

「そうだな……。ああ、そうだ。第1部隊副隊長のスコット・メイシーを訪ねてみるといい。彼は支援活動に熱心だから力になってくれるだろう。詳細が決まったら俺に報告してくれ。できる限り協力しよう」

「――っ、ありがとうございます!!」

 頼りになる人物を紹介してくれるだけでなく協力もしてくれるという。

 もしかしたら彼ももどかしさを感じていたひとりだったのだろうか。

 隊長という立場上ニーナたちよりも規約に縛られているはずだ。

すべては推測に過ぎないが、なんにせよ味方になってくれるというのならこんなに心強い人物はいない。

 勢いよく頭を下げると頭上でヴァンフォートが小さく笑ったのが聞こえた。

 体勢を元に戻した一瞬だけ、彼の微笑が見えたが、すぐにいつものどこか近寄りがたい凛とした表情に戻ってしまった。

「さあそろそろ会議を始めるぞ。席につけ」

「そうですよライラック。着席してくださーい」

「うわっ!」

 突然耳元であたかも初めからそこにいたように声をかけられて飛び跳ねるくらい驚いた。

 痛いくらい強く鼓動を刻む心臓辺りを抑えながらキースがいる位置とは反対の右側に身体ごと視線を向ければ、そこにはニコニコと楽しそうな笑みを浮かべたアッシュが何やら分厚いファイルを持って立っていた。

 その中から一束を取り出してニーナに手渡す。

「席に着く前に今日の会議内容をまとめた資料をウエーバーと手分けしてくばってくださいね」

「いい加減気配を消して近づくのをやめてください!心臓が持ちません」

「――お前の心臓は鋼製だろうが」

「…………」

「――痛って!」

 アッシュに訴えているのに背後から小さく否定する声が聞こえたので素早く振り返って靴先でふくらはぎのあたりに制裁を加えておいた。

 それから紙束の半分を押し付け、さっさと配りに回る。

 キースも渋々資料を配り始め、全員に資料が行き渡った頃を見計らってヴァンフォートが立ち上がった。

「まずは先程の部隊長会議の報告だ。今日は進展のあった『鷹』について17部隊長から報告があった。誘拐未遂で連行されるも釈放された男たちのその後だが、残念ながら追尾中止となった」

「え……!?」

 ニーナの驚きもかき消されるくらいのざわめきが室内に広がっていく。

 それはそうだろう。何せ現状『鷹』に最も近いとされていた重要人物だったのだから。

 止まる気配のないざわめきを切り裂くようにアッシュが手を大きく叩いた。

 ようやく元の静寂が訪れた部屋に穏やかなアッシュの声が響く。

「まだ続きがありますから皆さんお静かに」

 静まった空間でひとりの隊員がスッと手を上げて発言の許可を求めた。

 ヴァンフォートが頷いたので正式に発言する。

「追尾を中止した理由は何ですか?」

「――『鷹』に関わっていると思われた男たち3人全員が死亡しているのが見つかった為だ」

「――――」

 冷え冷えとした空気が一瞬で部屋を覆いつくした。

 告げられた重い事実に誰も口を開かない。

 そんな空気間の中キースが手を上げてそのまま言葉を発した。

「死亡した理由と経緯を教えてください」

 許可を得る前に発言したキースを咎めることなくヴァンフォートは手元の報告書を見ずに答える。すでにすべての報告は頭の中に入っているらしい。

「男たちが隠れ住んでいたと思われる家を張り込んでいたが、翌日になっても部屋から出てこないのを不審に思い潜入した結果男たち全員の死亡を確認した。原因は酒に入っていた毒物とみられているが詳しい原因と酒の入手先は現在調査中だ。だがひとつだけわかっていることがある。私たちはまた『鷹』への手がかりを失った」

 本来であれば大失態と罵られても仕方のない結果であったが、誰も16部隊や17部隊を責めるような発言をしなかった。

 それだけ『鷹』の本体を捕まえる事が難しいのだと知っているからだ。

 恐らく酒について調査しても詳しいことは何もわからないだろう。そうやって何度も『鷹』はマークされた人物を切り捨ててきた。

 またしてもトカゲのしっぽ切りで逃げられてしまったことは間違いなかった。

「『鷹』については16部隊と17部隊が調査を続行する。それからバルト王国で監視任務についている13部隊からの報告だが、どうやら闇ルートからバルトへ武器が流れているようだ」

 武器が流れているという報告にニーナはあれっと首を捻る。

 それから手をあげると疑問を投げかけた。

「ハミューズは公式にバルトの政府軍に武器を売っていますよね?それとは別に闇ルートがあるということですか?」

「そうだ。政府軍ではなく解放軍へどこかから武器が流れている。正式なルートを通って売買されていないのでかなりの金が動いていると思われる。この捜査に私たち18部隊があたることになった」

 久しぶりに大きな仕事が割り振られた緊張感で自然と背筋が伸びる。

 緊張感に満ちた空間を和ませるように穏やかな口調でアッシュがヴァンフォートの後を引き継いだ。

「現在バルトと国交があるのは隣接しているハミューズとフュードランドです。このどちらかに密輸の拠点があると思われます。けれどフュードランドはかなり厳しく難民対策、取引監査をしているため武器流出の可能性は低いでしょう。念のため捜査は二国に分けますが、ハミューズに重点を置いて調べることにします。組み分けは資料の通りです」

 隊員が一斉に資料に視線を落とす。

 隊員の三割がフュードランド、五割がハミューズ王国、残りの二割が本部に残って情報のとりまとめ及び伝達を担当することになっている。ニーナとキースはハミューズ王国の捜査に割り当てられている。

「――闇ルートから解放軍に武器が流れることによって内情が複雑化して内戦も長引いていると思われる。内戦の早期解決につながると思ってこの捜査にあたってほしい。以上解散」

 会議の終わりを告げるヴァンフォートの言葉に隊員が一斉に立ち上がり機械仕掛けのようにそろって礼をする。姿勢を戻した隊員たちは解散となった後示し合わせたように組み分け通りに各所に集まり、細かい確認を始めた。

 ニーナもハミューズ王国捜査の組に加わって先輩隊員の指示を仰ぐ。

 入国日や捜査地域の振り分け、地元警察への連絡など様々な指示がされた。そのひとつひとつを間違いのないようにメモを取り、不明なところは質問し合い捜査の計画を詰めていく。

 ざっと30分ほど小会議を行い、こちらも解散となった。

 それぞれがデスクワークに戻っていき、ニーナも少しげんなりした気持ちになりながら席に着いた。

 どちらかと言えば身体を動かす捜査の方が好きだ。デスクワークは変に身体が凝るし、難しい文章を読んでいると眠くなってしかたがない。

 早くもあくびが出てしまう。

 引き出しから取り出したガムを一粒口に放り込んで無理やり意識を覚醒させると、作業を開始した。





 勤務時間が終わったニーナはそのまま帰宅することはせず、ヴァンフォートに紹介してもらったスコット・メイシーに会うべく北の資料棟へ向かっていた。

 実は先程第1部隊の執務室を訪れたのだが当のメイシーはおらず、執務室に残っていた隊員に資料棟にいるだろうと教えてもらったのだ。

 執務棟から繋がる渡り廊下を抜け、重厚な扉を開けて中に入る。重要資料が置いてある機密資料の部屋は一々許可証を貰わなければならないのでそこには入っていないことを祈りながらまずは閲覧スペースに進んだ。

 どうかここにいてくださいと祈る。

 何せ資料棟は民家8軒ほどなら軽く収まってしまうほど広く、しかも二階建てだ。どこにいるかもわからない人物ひとりを探して回るだけでかなり体力を消耗する。

 面倒な事は出来るだけしたくないと思っていたのだが、閲覧スペースに足を踏み入れた瞬間視線の先にグレーの髪色が目に入って安心した。

 お手本のようにスッと背筋を伸ばし、一冊の分厚いファイルを広げている男こそスコット・メイシ―だ。

 エリート中のエリートが集まる第1部隊は基本捜査で世界中を飛び回ることがなく、全部隊の統括をすることが主な仕事になる。IPUの頭脳的な部隊の副隊長とだけあって恐ろしく頭のきれる人物であると聞いている。

 ニーナとは立場も階級も違いすぎ、本来ならば一生口もきけないであろう人物のひとりだ。

 だが今回はヴァンフォートからの紹介であるし、臆することなく声をかける。

「あのすみません。メイシー、少しよろしいですか?」

「――ああ、君は確かヴァンフォートのところの新人さんだね。名前は確かニーナ・ライラック」

「はい。そうです」

 スッと顔を上げたメイシーがニーナの姿を捉え、悩む様子もなく当然のように隊長の名前と自分の名前を口にしたので内心かなり驚いた。

 メイシーはその少し垂れた目を細めて微笑むと「どんな要件かな」と問いかけた。

 それから正面の席によかったら座りなさいと勧めてくれる。

 素直に席に着いてメイシーと向き合う。

「ヴァンフォートから聞いたんですけど、メイシーは難民や孤児の支援活動に熱心だそうですね」

「ああ、そうだね。もう6年くらいになるかな」

「6年もやられてるんですか?それならぜひ私の相談に乗っていただけないでしょうか」

「私にできることなら」

 ただの平隊員の相談にも真面目に乗ってくれるらしいメイシ―は読み途中であったファイルを閉じて机の隅に寄せた。

「実は私ハミューズの難民や孤児の為に支援活動をしたいと思っているんです。でもそういうことってしたことないし、どこへ何を送っていいのかもわからなくて」

「なるほどね。君が突然そう思ったのは先日ハミューズへ旅行して何かあったからなのかな」

「え!あの、そうですけど……。よく知ってますね私がハミューズに行っていたなんて」

「それは知っていて当然だよ。何せ君がハミューズで『鷹』につながる重要人物を捕まえたんだから」

「……まあそれは結果無駄になっちゃいましたけど」

「そんなことはないよ。現在の活動拠点がわかっただけでも捜査がしやすくなった。だけど、君にとってはIPUに絶望を感じる旅行になってしまったのだろうね。あの街の現状を見て何も感じない隊員などいないだろうし。だからと言って現状IPUとしては何も手出しできない。そこで思い立ったのが支援活動ということかな」

「すごい……。なんでそこまでわかるんですか」

「ただの推測に過ぎなかったんだけど、間違ってなかったみたいだね。それでハミューズへの支援活動の話だけど、私が直接紹介できるのはルージス孤児院と聖アルフィン教会かな。難民保護施設は今のところ一番支援が多いから教会か孤児院に支援するのがいいと思う」

「そうですね。私もできるだけ支援の届いていないところに手を貸したいと思います」

「ちなみに治安の関係でハミューズに現金を輸送するのは危険だからできるだけ現物のほうがいいね。保存のきく食べ物とか、お菓子とか――」

「――あの。ハミューズに行ったとき靴も履いていない男の子に出会ったんです。そういうものでもいいんでしょうか?」

「そうだな……。もし不足しているのなら送ってもいいだろう。とりあえず一旦何が不足しているか連絡してみるよ。それから君にリストを渡そう」

「そんな、連絡先を教えていただければ自分でやりますよ」

 こうして貴重な時間を割いて情報を教えてもらえるだけでもありがたいのにこれ以上多忙なメイシーの時間を使わせるわけにはいかない。

 ニーナが手を振って遠慮するがメイシーは微笑みで黙らせる。

「大丈夫。ただ手紙を出すだけだから。それに君はしばらく遠征の準備で忙しいだろう。世界平和のために捜査に集中してほしい」

「えっと……」

 確かにハミューズに向かう準備が山ほどあるのは間違いないのだが、だからと言って上官にそんなことを任せていいのだろうか。

 悩むニーナに微笑を刻んだままのメイシーが「気にしなくていい」と続けた。

「君が活動に参加してくれることは私にとってもありがたいことだからね」

「わかりました。ではよろしくお願いします」

 立ち上がって深々と頭を下げる。

「また連絡が来たら君に会いに行くよ」

「はい。お待ちしています」

 最後に失礼しますともう一度頭を下げ去っていくニーナをメイシーが穏やかな笑顔で見送っていた。

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