第17話
昨日、桂吾が『お別れ』と言った事に私は呆然として、その後は何も聞く事が出来なかった。
桂吾は夕方6時半になると「また明日な」と言って消えてしまった。幽霊だと分かった途端、急に幽霊らしくするなんて開き直りも良いところだ。
私は今日も屋上で待っている。昨日は眠れないと思っていたけど、泣き疲れて眠ってしまった。寝不足なのか泣きはらしたのか瞼が重い。
「よっ。」
いつもの様に桂吾は隣に座った。
「よっ。」
私は膝を抱えたまま挨拶をする。
話したい事、聞きたい事は山程ある。なのに言葉が出てこなかった。
「俺がここにいられる時間以外どこにいると思う?」
桂吾が唐突に質問してきた。
「?…そうね…。どうせその辺をぶらぶらしてるんじゃないの?」
「あそこはどこなんだろうな?真っ白で何もない世界…そこで俺は漂ってるんだよ。」
「どこか解らない場所っていうのが答えならクイズとして成立しないと思うんだけど?」
「はは…確かに。」
「それで何してるの?」
「何もしてないさ。ずっと考えてる。」
「何を?」
「前は美和の事ばかり考えてた。でも最近は本をどこまで読んだかなとか、明日は何を話そうとか瑞穂の事を多く考えるようになった。」
「ふ~ん。」
素っ気ない返事をしたけど、嬉しかった。
「きっとそれが理由だ。」
「何の?」
「俺がここからいなくなる理由。」
私の呼吸が止まる。
「俺がこうしていられるのは美和への執着だったんだと思う。それが薄れてきたんだな。」
「私の…せい?」
「違う違う。瑞穂のおかげだよ。美和に会えるかも知れないっていう想いに俺は縛られていたんだと思う。それから解放してくれたのが瑞穂なんだ。ありがとう。」
「そっか…。」
それしか言えなかった。桂吾が私に振り向いてくれる事を願っていた。でもそれが叶ってしまった時、桂吾は消えてしまう。今がまさにその状況だった。
「いつまでここに居られるの?」
「多分今日。もうすぐかな?」
「ずいぶんと急なのね。」
「うん…。」
「その真っ白な所にずっといる事になるのかな?」
「違う気がする。あそこは澱んだ心の溜まり場みたいな所だからな。それが晴れたら行き先は変わる。」
「そこに美和さんがいるといいね。」
「そうなったら、執着を捨てたら会えるって事になるな。おかしな話だ。」
桂吾は笑った。私も笑った。
「ねえ、知ってた?私、桂吾の事好きなんだよ。」
「うん。知ってる。」
桂吾は消えた。
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