第15話
外に出たものの行く所にあてなんかない。
桂吾から逃げ、母からも逃げた私には逃げ場所すらなくなってしまったのだ。
時刻は5時を回っていた。図書館も閉館してしまっただろう。
「本屋さんで時間潰そうかな…。」
私の行動範囲などたかが知れている。独り言を呟くといつもの本屋へと向かった。
本屋で適当な本を手に取りパラパラと捲る。内容は全く入って来ない。
母が私の事を心配してくれていた事も桂吾が私のためを思って言ってくれた事もちゃんと分かっている。本気で腹が立ったのも本当だけど、反省はしている。「私の事解ってない」という理由で怒ったんだけど私だって母や桂吾の事が解ってないワケだし…。
そもそも桂吾が私をあの場所から追い出そうとしてないし、親に不登校がばれた事だって私が望んでいた事じゃなかったけ?逃げる理由などなかったのだ。
「私ってこんなに嫌な子だったっけ?」
思わず口に出してしまって慌てて周りを見渡した。幸い聞いていた人はいないようだった。ほっとした私の目に一人の女性がとまった。思わず凝視してしまった私に向こうも気付いてにこやかに歩み寄って来る。
「あなたこの前の?あの時はありがとうね。」
その人は先日屋上で会った『神田桂吾』のお母さんだった。
「あ…こんばんは。先日はどうも…。」
「あら?あなたその本興味あるの?」
その人は私の手にある本を目を向ける。
私が無意識で取った文庫本はよりによって『車輪の下』だった。
「あ、いえ。何となく手に取っただけです。それに読んだ事ありますし…。」
そう言いながら私は隙間の空いた本棚にそっと戻した。
「そう。私も読んだんだけど暗い話よね、それ。」
その人は少し寂しそうに笑った。
その時、私は思いついてしまった。美和さんを知り、そして『神田桂吾』の母親であるこの人に聞けば私の知る『桂吾』が何者であるか分かるかもしれないと…。
「あの…この人知ってますか?」
そう言いながら私は先日撮った桂吾との写真をスマホの中で探した。
「あれ?」
桂吾と撮ったはずの写真がない。正確には桂吾の写った写真がないのだ。
桂吾が写っていたはずの写真には私が画面の端でバカみたいに笑っていた。なんだこれ?あれ?確かに…あれ?
「どうかした?」
挙動のおかしい私にその人は心配そうに顔を覗き込んだ。
「いえ。あの…何でも…ないです。」
まだ訝しげな表情で「そう…」と言うとその人は「それじゃ」と去って行った。変な子だと思われただろうな。
あの写真は何だろう?そう思った時、私の中にあり得ない考えが過った。そして、それを確かめたい衝動を抑えきれず本屋を飛び出した。
「すいません!ちょっとすいません!」
先程別れたばかりの女性の後ろ姿を見つけて声をかける。
「息子さんの……桂吾君の写真とか持ってませんか?」
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