第14話

「何で…そんな事言うの?」

 

 私は何とか絞り出す様に声を出した。


「瑞穂はここにいちゃいけない気がするんだ。」


「しつこい。それとも私が邪魔になった?美和さんと桂吾の場所に関係ないお前なんかいて欲しくないって?」


「そんなんじゃない。」


「なら何よ?」


「だから、瑞穂には日常に……」


「だから、しつこい!!もういい!!」


 私は荷物を乱暴に拾い振り返りもしないで屋上から去った。いや違う。逃げたんだ。



 私は大きな音をたてて家のドアを閉めた。呼吸がまだ荒い。心を落ち着かせようと深呼吸を一つ。


「瑞穂?」


 奥のリビングから母の声が聞こえる。そうか、今日は夜勤か。


「ただいま。」


「お帰りなさい。」


 母はキッチンでの作業の手を止めタオルで手を拭いた。


「ねえ、瑞穂…、ちょっといいかな?」


 2階の自分の部屋に向かおうとしていた私を珍しく引き留める。「ただいま」「お帰りなさい」の後に会話が続くなんていつぶりだろう。


「何?」


 私はリビングに戻り母に促されるままにソファに腰をおろした。


「あのね。もし…もしよ?瑞穂さえ良かったらこんな場所があるんだけど…。」


 そう言うと母は数枚の紙を私の前に置く。それはフリースクールのホームページをプリントアウトした物だった。


「何これ?」


「だからね。いつまでもこのままじゃいけないと思うの。」


 母は私が学校に行っていない事を知っていたのだ。しかもこんな物を持ち出すという事は不登校の原因がイジメだと知っているという事になる。


「…いつから…知ってたの?」


 心がざわつく。


「瑞穂が学校を最初に休んだ時から…。担任の先生から連絡があってね、私もお父さんもショックだったんだけど、しばらく瑞穂の好きなようにさせようって決めたの。」


「私が死んだりするとかは考えなかった?」


 私は置かれた紙に視線を落としたままで言った。読んでいる訳ではない。ただ母を見られない、見たくないからそうしていたのだ。


「瑞穂はそんな事する子じゃないでしょ?信じてたから。」


 私は頭から爪先まで不快な何かが走るのを感じた。それは怒りなのか悲しみなのか、両親に対する嫌悪なのかは解らない。一つだけ確かなのはここに居たくないという強い気持ちだった。

 私はゆっくりと立ち上がり玄関へと向かう。


「ちょっと瑞穂。まだ話の途中…」


「ねえ、お母さん。私ね、死のうと思ったんだよ。本気で死のうと思ったんだよ。」


 言葉を失っている母に背を向けて、たったさっき閉めたドアを私は開けた。


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