第11話

 図書館で時間を潰していたけど、何か落ち着かなくて足は自然とあの屋上へと向かっていた。もしかしたら用事が早く済んで桂吾が来るかもしれない…と思ったのもある。


「いるわけないか…。」


 独り言を呟き、いつもの場所に腰を下ろした。図書館で半分程読み進めた『人形の家』を開く。

 しばらくするとガチャリとドアの開く音がして振り返る。先日の件もあるから私は身構えた。

 そこに現れたのは桂吾ではなかったけど心霊スポット巡りをするようには見えない50才位の品の良い女性だった。その手には花束が握られている。


「こんにちは。」


 少し驚いた顔をした女性に挨拶をすると女性も「こんにちは」と返してくれた。女性はいつも桂吾が花を供える場所に花束を置いた。そういえば昨日私と桂吾の供えた花はそこになかった。


「あの…。もしかして美和さんのお知り合いですか?」


 女性はぴくりとして私を見る。そして口を開いた。


「美和ちゃんのお友達?私も美和ちゃんと知り合いだけど…この花は美和ちゃんにじゃないわ。」


「え?」


「あ。ごめんなさい。美和ちゃんには美和ちゃんの命日にちゃんと供えてるのよ。これは息子への花なの。」


「息子さん…ですか?」


 女性はしばらく手を合わせ祈った後、こちらを向き直した。


「美和ちゃんの友達なら知ってるんじゃないかしら?神田桂吾…それが息子の名前よ。」


「神田…桂吾?桂吾って美和ちゃんとお付き合いしてた桂吾ですか?」


「そうよ。今日が命日なの。」

 

 この人は何を言っているんだろう。そうだ。私は会ってる桂吾の名字を知らない。きっと同名の人がここから飛んだんだ…。…でも、美和さんの彼氏?ああ、訳が解らない。じゃあ、私が会ってる彼は誰なの?偽名?そうだ、きっと偽名だ。理由は分からないけど、きっと偽名を私に教えたんだ。あいつめ…今度会ったら問い詰めてやる。


「どうかしたの?」


 女性の声に私は我に帰った。


「あっ。いえ、何でもないです。私も手を合わせてもいいですか?」

 

 私がそう言うと女性はにこりと笑いありがとうと言ってくれた。



 女性が去った後、私の頭の中はモヤモヤして、同じ考えが繰り返し訪れては去って行った。本を開き、目は文字を追っていてもその内容は全く頭に入って来ない。


「もう!!」


 私は本を勢いよく閉じ、立ち上がる。


「あいつめ…明日ちゃんと説明してもらいますからね。」


 私は、かなり大きめの独り言を放ち屋上を後にした。


 


 


 

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