第10話
「来たわよ。返信。」
桂吾の姿を確認して挨拶もせずに言葉をかける。
「来たか。どうだった?」
「それが、とても下らなくて傷付くとか悲しくなる前に呆れたわ。」
そう言いながらスマホを桂吾に渡す。桂吾は受け取ると黙って目を走らせた。
「ホント、下らないな。」
桂吾はスマホを返しながら溜め息をつく。
「要するに、医者の娘でリーダー的な女がクラスであまり目立たない瑞穂が自分より成績が良いのが気にくわなかったって事だろ?」
「目立たないとは失礼ね。大人しいって書いてあったでしょ?」
「ごめんごめん。それで今、その医者の娘がクラスで孤立してると…。」
「ええ、私が休む様になってイジメてた人達が仲間割れしたみたいね。」
「瑞穂が自殺とかしたらどうしようって不安になったんだな。そして、このメッセージしてきた奴みたいに『本当はやりたくなかった』とか言い出して仲間割れしたワケだ。」
「そういう事みたいね。あ~馬鹿馬鹿しい。ホント死ななくて良かったわ。」
「そうだな。原因は下らなくても瑞穂が死にたい位辛かったのは変わらないからな。許せないな。」
「怒ってくれるの?」
「当たり前だろ。」
「へへ…。ありがとう。」
女の子として見てくれてないって分かってもやっぱり嬉しかった。
「それで学校はどうするんだ?」
「まだ行かない。まだ怒られてないもの。」
「頑固だな。怒られたら行くのか?」
「う~ん…その時に考えるわ。」
二人で笑った後、桂吾が急に少し真剣な顔で言った。
「明日なんだけどな。俺来れないんだよ。だから、瑞穂も来ない方がいい。」
来ない方がいいっていう言い方が少し気になったけど、この時はそれほど深くは考えなかった。
「何か用事でもあるの?」
「まあな。」
「そう…。じゃあ、私も図書館とかで時間潰そうかな。」
「それがいい。じゃあ明後日また会おうな。」
「うん。…って、もう帰るみたいな言い方ね。帰るの?」
「いや。まだいるよ。」
「紛らわしいわね。あっ、『車輪の下』返すわね。昨日うっかり持って帰っちゃった。他に何かオススメの本はない?」
「イプセンの『人形の家』なんてどうだ?」
「なんか聞いた事はあるけど…。また難しい本?」
「いや、ほとんど会話文の戯曲だ。」
「そう。読んでみるわね。図書館にあるかな?」
「絶対にあるけど、探す必要はない。」
そう言うと桂吾は懐から文庫本を取り出した。『車輪の下』ほど汚れてはいないし、今度はちゃんとカバーも着いていた。
「桂吾はいつも内ポケットに本を入れてるの?」
「そんなワケないだろ。瑞穂がまた本を貸せとか言うかもしれないと思って持って来たんだよ。」
「私の言動はお見通しって事ね。そんなに単純かな?」
「そうかもな。」
「酷いわね。そんな事ないよ位言いなさいよ。」
「それは悪かったな。また感想聞かせてくれよ。」
「うん。」
明日は会えないのか…。残念だな。
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