第9話
日曜日。昨日の件があったから私は桂吾が来るであろう時間まで図書館で過ごした。
「おう。」
屋上に行くと桂吾はすでに来ていた。
「私が後に来るの初めてじゃない?どう?待つ気持ちは?」
「う~ん。少しイライラしたかな。」
イライラというネガティブな言葉だけど、私が来ない事にそんな感情を持ってくれるんだ…と少し嬉しかった。
「読み終わったわよ。とても自殺志願者に進める本ではないわね。」
私は笑いながら完読した事を伝えた。
「そうかな?」
「結局ハンス死んじゃうじゃない。」
「でも、自殺じゃないだろ?」
「そこは分からないでしょ?事故かもしれないけど、自殺かもしれない。」
自分のその言葉に美和さんを思い浮かべたけど表情には出さなかった…出ていなかったと思う。
「そうだな。でも学校を辞めて働き出したハンスは周りの期待から解放されて苦労しながらも幸せだったと思うんだよな。」
「期待から解放されたって事は失望されたって事よ?繊細なハンスは傷付いたと思う。」
「傷は癒えるさ。生きる方法を見付けた事の方が重要だと俺は思うぞ。だから俺はハンスは幸せだったと思うんだ。」
「死んじゃったけどね。」
「ああ。人間いつ死ぬか分からない。結果、ハンスの父親も含め周りの人間はハンスに何て酷い事をしてきたんだろうって後悔するだろ?」
「うん。気付くの遅いよね。」
「そうだな。だから俺は手の届く範囲の人には後悔のない対応をしようと決めたんだ。出来てるかどうかは分からないけど。」
「…私にもそういう気持ちで接してくれてるって事?」
「…そうなのかもしれないな。」
なんだ…桂吾にとっては私は特別じゃなくって手の届く範囲の一人でしかないのか。
「その割には初めて会った時、私が死ぬの止めてくれなかったじゃない。」
「『やめろ。早まるな。』って言ったら余計に頑なになりそうだろ?ああ言えば死なないって確信に似た何かがあったんだよ。上手く言えないけど…。」
「ふ~ん。まぁ、結果私は生きてます。ありがとう。」
「もう死のうとは思わなくなったのか?」
そう言われて確かに私の心から『死』という文字が消えている事に気付いた。桂吾の存在と『車輪の下』のお陰だと思う。
「お陰様で。でも学校には行かないわよ。」
「そうか。返信はまだしてないのか?」
「したわよ。その答えが返って来ないのよね。」
「来たら言えよ。」
「もちろん。」
美和さんに花を供え桂吾と私は『車輪の下』について夕暮れまで話し続けた。
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