第3話

 次の日、私は朝から廃墟ビルの屋上にいる。

 今日は産まれて初めて学校をサボった。今頃家に学校から連絡が行っているだろう。どうせ近々死ぬのだから怒られようが構わない。


「今日も良い天気…。」

 

 独り言を言いながら大きく伸びをする。


「何だ。死ななかったのか。」


 後ろから声が聞こえ彼が現れた。


「残念ながらね。あなたも昨日の時間より早いんじゃないの?学校は?」


「そんな所にはしばらく行ってないな。」


 彼は笑い、私の隣に腰掛けた。


「さては不良ね。それとも不登校?」


「想像にお任せするよ。あんたもこの時間にいるってことはサボったんだろ?」


「初めてね。」


「ふ~ん…。で、どう?」


「何が?」


「初めてサボった気分は?」


 そう聞かれて最近ずっと沈んでいた気持ちが今日は軽やかである事に気付いた。


「悪くないわね。」


「そうか。サボるのも死ぬのも逃げの種類だと思うんだけど、サボって済むなら死ななくてもいいんじゃないかな?」


「やっぱり止めようとしてくれてるじゃない。分かってないわね。近々死ぬ予定だからサボれるの。」


「よく解らない論理だな。そもそも何で死のうとしてるんだ?」


「一言で言えばイジメね。それと周りの大人の無関心。」


「ふ~ん。」


「聞いておいて、ふ~ん…は、ないんじゃないかな?」


「ごめん、ごめん。きっかけは何だったんだ?」


「さあ?私にも分からないわ。ある日突然無視が始まって物が無くなったり壊されたりね。ネットの中じゃ私はとても凶悪で下品でとてもいやらしい人間らしいわ。主犯はクラスのリーダー的女子ね。」


「女子のいじめは陰湿っていうからな。その制服、隣町の女子高だろ?頭良いんだな。」


「自慢じゃないけどいつも学年で5番以内には入るわね。」


「それは自慢だろ。」


「あなたは私服だけど、どこなの?」


 その問いには答えず彼は立ち上がり花を新しい物に換えた。


「それって……大事な人って言ってたけど、ここで自殺したの?」


「…うん。多分ね。」


「多分?ねえ、聞いてもいい?」


「別にいいよ。」


「大事な人って誰なの?」


「彼女。」


「そう…。何で自殺しちゃったの?」


「それが分かれば楽なんだけどね。原因を作った奴を恨んだり…殺したり出来るから…。それに気付いてあげられなかった自分を責める以外俺には出来ないんだよ。事故って話もあったんだけど、ここ自殺の名所だろ?結局自殺って事になった。」


「好きだったんだ…。」


「いや。」


「好きじゃなかったの?」


「好きだったんじゃなくて、今でも好きなんだよ。」


 少し微笑んだ横顔に胸が締め付けられる。


「幽霊…いるといいね。」


「?」


「あなたが毎日花を供えてるの彼女さんが見てたら嬉しいだろうな…って思った…から…。」


「うん。そうだったらいいな。幽霊を信じるなら死ぬのは止めるのかい?」


 私はしばらく考えて答えた。


「取り敢えず保留しておく。」


「そうか。」


「あ…あのさ。」


「何だ?」


「明日も来ていいかな?」


「ここは俺の場所でも何でもない。来るのはあんたの勝手にすればいい。」


「その『あんた』ってやめてくれない?私は瑞穂よ。あなたは?」


「桂吾だよ。」


「またね桂吾。」


「じゃあな瑞穂。」




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