十八日目(木) 心理テストがバーナム効果だった件

「何て言うか、いかにもユメノンが選びそうな心理テストね」

「むむむ~。恋人と一緒に遊園地って辺りから、ズバリ恋愛観を知るテストと見たっ!」

「ふふ。さて、どうでしょうか?」


 火水木や梅の言う通り恋愛関係のテストな気がするものの、それがわかったところで答えは見えてこない。今回も大人しく、素直に考えてみるか。

 とりあえず観覧車はでかいと一周の時間も長いから、半分くらいで満足して後半が微妙になる気がする。バンジージャンプも遊園地でやることじゃない気がするし、相手が嫌がるかもしれないことを考慮すると却下だな。


「もーいーかい? まーだーかな?」


 残るは三番と四番だが、男同士で行くなら間違いなくレーシングカートだろう。しかし恋人と行くとなると、やはりここは無難にジェットコースターにするべきか。

 かくれんぼ風に確認する夢野が可愛い中、全員が決め終わると結果が明かされた。


「このテストでは貴方がハラハラ・ドキドキを好むか好まないかの観点から、どれくらい惚れっぽい性格かを探ってみます。まず一番の観覧車を選んだ人」

「はい」

「……はい」

「雪ちゃんと望は段階を踏みながら親密さを増していくタイプで、惚れっぽさは低め。ただ思い切りは悪い方で、何か違うと途中で思っても関係を白紙に戻すよりは、相手に期待を抱きつつ現状維持を選ぶことが多いでしょう……だって」

「二人とも、割とイメージに合っている気がするね」

「比較的刺激の少ない乗り物だけに、平和な相手を選ぶってことかしらね」

「じゃあ次ね。バンジージャンプを選んだ人は?」

「うッス!」

「星華もでぃす」

「バンジージャンプの人は惚れっぽさが相当高く、見つけた意中の異性を獲得するために積極的にアプローチするタイプです。良く言えば天真爛漫で率直ですが、悪く言えばやや無責任で自己中心的と言えます」

「合ってるな」

「合ってるわね」

「オレのどこが自己中ッスかっ?」

「こんなのと同じにしないでほしいでぃす!」


 似た者同士で睨み合う二人だが、それぞれ思いっきり好意をアピールしている件。今までにやってきた心理テストの中では、一番的中率が高い気がするぞこれ。


「次はレーシングカートを選んだ人ー」

「…………え? アタシだけ?」

「いや、向こうで先生が小さく手を挙げてるぞ」

「はい。先生もです」

「惚れっぽさ度はそれほど高い方ではありませんが、異性の何気ない行動や仕草を「自分のことを好きなのかも」と良い方に解釈して気持ちを盛り上げるタイプです。相手のことを知ろうとする意欲に欠け、好きと言う気持ちだけで突っ走るので「こんな人とは思わなかった」と一転するような結果になることも……? だそうです」

「ああ。わかりますねえ。先生、自分のことを好きになってくれるような女性が現れたら、例えどんな人であろうときっと好きになると思います」

「イトセン、まだ若いのに諦め過ぎじゃない?」

「大人になると、自分から努力しない限り出会いなんて滅多にないものなんですよねえ。最近は実家に帰ると、教え子でもいいから結婚しろなんて言われ始めました」


 もしかしたら明日からのゴールデンウィークも、実家へ帰る日だけは億劫なのかもしれない。遠い目をしながら日の沈む空を眺める伊東先生の言葉は、実に説得力があった。


「米倉君と水無ちゃんと梅ちゃんは、ジェットコースターでいいんだよね?」

「はいは~い!」

「ああ」

「そうだね」

「ジェットコースターを選んだ貴方は、標準的な惚れっぽさ度を持ち、行動力も程々の平凡型。適度に交際を重ね、適度に相手のことを知り、恋心を燃え上がらせるタイプです。映画や小説のようなドラマチックな恋愛に憧れないこともないのですが、出会ってすぐに恋に落ちるということはありません。多少我儘に走るところもあるようなので、その点に注意して恋愛気分を盛り上げていってください……だって!」

「はえ~。当たってるかも~」

「そうかい?」

「心理テストを真に受けるなっての。どうせバーナム効果だろ」

「ナパーム効果?」

「バーナム効果だ! 誰にでも心当たりがありそうな曖昧なことを言って、自分に当てはまると勘違いすることだよ。ナパーム効果って、逆にどんな効果だそれ?」


 極端な話この結果だって、標準だの平凡だの言われれば誰にだって該当するだろう。

 自分も手を挙げた癖に、何故か俺と阿久津を交互に見ながら当たってると口にした妹は放っておき、楽しかった歓迎会もこれでお開き。俺達は帰り支度を始めた。


「ちなみに蕾君はどれだったんだい?」

「私もジェットコースターかな」


 …………心理テストの結果は当てにしないが、夢野がジェットコースターを選ぶということに関しては覚えておいて損はないだろう。

 ちゃっかり聞き耳を立てながらも、夢野、望ちゃん、梅の自転車組とは校門前で解散。残った電車組も駅に到着した後で、方向の違う火水木&テツと別れを告げる。

 こうして残るのは俺、阿久津、冬雪、早乙女の四人だが、帰りの会話は相変わらず一対三の状態。月曜の帰りもそうだったが、テツや火水木がいなくなった後は完全にぼっち状態だ。


「ミナちゃん先輩。それとついでに根暗先輩も、お疲れ様でぃす」

「お疲れ様」

「お疲れさん」


 そして最終的には、行きだけじゃなく帰りも阿久津と二人きりに。まあ行きに比べれば一緒といってもほんの数分だが、この僅かな時間が貴重だった頃もあったっけな。


「何となく分かってはいたけど、やっぱり阿久津も心理テストとかは信じないんだな」

「科学的根拠のある精神分析なら信憑性もあるけれど、ああいった本に書かれているようなものはキミも言っていた通りバーナム効果が多いだろうからね」

「あー。精神分析って、フロイトだのユングだのが言ってたやつか」

「極端なことを言うなら、心理テストなんて自分で新しく作れそうだと思わないかい?」

「そうか?」

「それじゃあ櫻に一つ質問をしようか。仮にキミ自身とボクのイメージカラーを聞かれたら、それぞれ何色が似合いそうだと答えるんだい?」

「んー。俺は黒で、阿久津は青かな」

「全てを吸収した色である黒を選んだ貴方は、明るい色の引き立て役。他の色と交わることはない孤独を好んでいるけれど、心の底では寂しがり屋な一面もある感じだね」

「おお! 確かに何かそれっぽいな!」

「まあこれは実在するテストだからね」

「実在するのかよっ? じゃあ青は何なんだ?」

「さて、何だったかな? もう忘れたよ」

「嘘つけっ! その顔は覚えてる顔だっ!」

「何だっていいじゃないか。キミは心理テストを信じていないんだろう?」

「信じないとは言ったが、答えた以上は気になるだろ?」

「ゴールデンウィークが終わった頃には忘れているだろうから問題ないさ」

「覚えてろよ! 覚えてるからな!」

「さて、どうだかね。それじゃあ、ボクは失礼するよ」


 不敵な笑みを浮かべた少女を見て、俺もまた小さく笑う。

 そして阿久津は何かを思い出したかの如く、去り際にこちらを振り向いた。


「また月曜の朝に会おう」

「ああ。またな」

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