十二日目(金) ラッキースケベが準急だった件

 久し振りのバスケで盛り上がる阿久津と早乙女を残して五階へ。夢野も一旦飲み物を取りにロッカーへ向かい、葵がそれに付き添ったため俺達はバラける形となった。


「先輩方、ビリヤードやりません?」

「いいわよ」

「……初めて」

「俺もやったことないんだが、どうやってやるんだ?」

「ルールは簡単なんで大丈夫ッス。ビリヤードなんて家庭科みたいなもんッスから」

「いや全然違うだろっ? ビリヤードやってる人に怒られるぞ?」

「針に糸を通すのと大して変わらないって意味ッスよ」


 またノリで言ってるのかと思ったら、今回はちゃんとした意味があったらしい…………まあ俺、裁縫苦手なんだけどさ。

 ビリヤード台に着くと三角形の木枠(ラックと言うらしい)を使って、1~9の番号が振られたボールをひし形に並べるテツ。聞いた説明をアバウトにまとめると、台に六つあるポケットと呼ばれる穴へ1から順に球を落とし、最後に9を入れた奴の勝ちだそうだ。 


「じゃあブレイクショット、失礼するッス」


 テツがキューと呼ばれる細長い棒で白い手球を突くと、固まっていた球に勢いよく衝突。乾いた良い音がした後で、手球を含めた計10個の球が散り散りになる。


「トールってば、上手いじゃない」

「球と棒を使うスポーツは得意なんスよ!」


 …………間違ってはないが、何か言い回しが下ネタに聞こえるんだよな。

 二番手は俺だが、どうにも1番の黄色い球は狙いにくい位置。適当に打ってみたものの先に朱色をした5番の球へ当たってしまいファールとなってしまった。

 こうなると次の火水木は好きな位置から始められるようで、手球を持った少女はどのポケットに入れようかと考えながら台の周りをうろつく。


「やっぱここッスか」

「そうね」


 正面にいるテツのポケット目掛けて、火水木はしっかり狙いを定める。

 前傾姿勢になりキューを構えた後でショットを打つと、カシュッという抜けた音。当たりどころが中心からずれていたのか、手球は斜めに数㎝動いただけだった。


「あちゃー、たまにやっちゃうのよねこれ。はいユッキー」


 1番に当たらなかったためファールとなり冬雪の番へ移るが、狙うポケットは変わらないようで先程火水木が置いた場所と大して変わらない位置へ手球を置いた。

 前傾姿勢になりキューを構えた少女は、優しくショットを打つ。手球が衝突して弾かれた黄色い球は、吸い込まれるようにポケットへと入っていった。


「おお」

「やるわねユッキー」

「2番はこれッスね」


 台を回り込んで青い球を指さすテツ。球を入れた場合は連続して打てるため、冬雪は再び前傾姿勢になるとキューを構えて狙いを定める。


『カンッ! コロンッ!』


「うおっ?」

「マジッスかっ?」

「凄っ! ユッキー、上手くないっ?」

「……偶然」


 まあ初心者だしビギナーズラックかと思ったが、少女は徐々に頭角を現し始める。3番を落としたのはテツだったものの、4番はまたも冬雪が入れていた。

 あまり運動は得意じゃなかった陶芸少女が、ここにきて思わぬ才能を発揮。心なしか本人も嬉しそうで、次なる球を落としにかかる。


「5番はこれッスね」

「…………?」


 わざわざ冬雪の正面になるよう台を回り込み、朱色の球を指さすテツ。先程からやっている一見親切な行動だが、別に移動せずとも指示的できる位置にいた筈だ。


『カンッ』


「うーん、惜しいわね」

「でもやっぱユッキー先輩、上手いッスね」

「……得意……かも?」


 手球の位置が悪いため、キューを背中に回して構えるという無駄に恰好いい打ち方を見せるテツ。冬雪の落とせなかった5番を狙ったが、当たりはしたものの落ちないまま俺の番になる。


「…………」


 俺の時には回り込まず、ただ横で見ているだけの後輩。そんな一挙手一投足に疑惑は濃くなりつつも、球を落とせないまま手番は終わった。


「さて、アタシの番ね」


 火水木の番になるやいなや、テツはさりげなく移動し少女の正面へと回り込む。

 そんな後輩についていった俺は、コイツの狙いをようやく理解した。


「!」


 ビリヤードは手球を打つ時に前傾姿勢になる。

 正面に回り込んで見える光景は、豊満な胸を持つ少女の谷間という絶景だった。


(あ、ネック先輩も気づいちゃいました?)


 火水木が打ち終わった後で、後輩から送られるそんなアイコンタクト。こちらも目で応えようとする前に、俺達のいるポケットを狙って今度は冬雪の番が回る。

 一応言っておくが、別に見ようと思った訳じゃない。偶然目に入っただけだ。


「「!」」


 相変わらず暑がりなのか、胸元の緩いTシャツを着ている冬雪。そんな少女が前傾姿勢になった結果、首元から艶めかしい鎖骨……そして白い下着がバッチリ見えた。

 つまるところがブラジャーである。ブラチラである。


(テツ)

(ネック先輩)


『カンッ! コロンッ!』


「「イエーイッ!」」

「何でユッキーが入れたのに、アンタらがハイタッチしてんのよ?」

「……いえーい」


 全く、ビリヤードは最高だぜ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る