第119話あおりとかいてほんきとよむ

ロイオ「(エレクトリックフォース)」


首から背中へ電流を纏い反射能力を無理やり引き上げたロイオはギリギリまでラキスを引き付け、後ろに跳び攻撃を回避。


ラキス「(早い……けどそれじゃあ追撃は避けれないよ)」


ラキスが二打目を繰り出すため、更に一歩踏み込もうとする。しかし膝が曲がらなかった――否、正確には踏み込んだ状態で膝部分が凍っていたのだ。


ロイオは回避すると同時にフォースを切り替えて人差し指から凝縮した細い冷気を放っておいたのである。瞬時に追撃の手段を逆足に変えたラキスだったが、時は期していた。


判断にかかる時間、零コンマの世界は勝負という緊迫した状況下において短くない。


ラキス「してやられた、ね」


着地したロイオの身体から凄まじい力の波動が流れ出る。口を細めラキスは脱帽。


ラキス「それがアンタの切り札ってやつかい?」


ロイオ「まあそうだ……ただ今回は、少し昔のやり方で使う」


ラキス「昔?」


ロイオ「お前の闘い方はたぶん武術主体だ。そんな堅苦しいモン俺は好きじゃないが……家庭の事情ってのはめんどくさいんだよ」


ラキス「そんなこと知らないね!」


先に仕掛けるべく氷を砕きラキスは踏み込むと同時に修練された打撃を繰り出す。オールフォースで強化されたロイオですらその突き出された拳は速く感じた。が、それは視認できたということでもある。

懐に潜り込み女性にしては筋肉質な細腕を両手で担いだ。


ラキス「ウソっ⁉」


ラキスが驚いたのは自分の攻撃を避けたことではなく、ただの素人が背負い投げを完璧に繰り出したことにだ。

受け身をしっかりと取ったラキスの固まった顔を不敵に且つ得意げに眺めたロイオは、投げたラキスの腕から手を離し、身体を解すように手首や肩を回す。


ロイオ「そんなに驚くなよ。今までの強キャラ感が薄れるぞ?」


ラキス「やっぱりアンタ……面白いよ!」


口を三日月状に歪めながら跳ね起きるラキスが微塵も態度を改めないことに苛立つロイオは低い声で彼女を睨みつけた。


ロイオ「俺は、お前を楽しませるためにやってんじゃねぇんだよ」


ラキス「釣れないねぇ。ソフィアも見てるんだから、もう少しノリが良くてもいいんじゃないかい?」


堅物な男にやれやれと肩を上げるラキスと舌打ちを鳴らすロイオの横から可愛らしい声が二人の関わりに割って入る。


ねこねこ「真面目はモテにくいよー」


ロイオ「うるせ――……ってさり気なく混ざるな!」


ラキス「ハッハッハ! 愉快なことだよ! いいねぇ……それじゃあ少し、アタシも本気で――」


ツッコミで気を抜いていたロイオは突如として感じた悪寒の正体が何なのか気が付くことに数秒を有した。そこを突いてこないことに不気味さが募る中、悪寒の正体が間を開けて口を開く。


ラキス「――やろうかねェ」


声色が先ほどまでの陽気なものから一転して、過酷な死線を潜り抜けてきた絶対的強者のような重く威厳に満ちた声になる。


ロイオ「……っ(なんだこの異様なまでの迫力は……ゼウスさんのガチギレモードと並ぶぞ……)」


一歩も動けない、動けば死と錯覚してしまうほどの覇気は向けられた男の戦意を折るには充分だ。だが、ロイオは折れなかった。


ねこねこ「ねぇ、カワイイ可愛いクロムちゃん? 一つ、提案だけどさー」


無造作で雷電の中級魔法をラキスに放った賢者と主人ラキスを護るべく隣に高速移動し、六角の障壁オートガードを展開した聖獣がいたからだ。


クロム「……」


ねこねこ「今からで決着つけよっか?」


目つきと声色を変えて勇ましくゴム棒をロイオに貸渡すねこねこの胸の内を察したのか玄武は眠い目を少し開いて白衣の賢者を見据えた。


ロイオ「ねこねこ……」


ねこねこ「ロイオー、殲滅教室の猫だまし、覚えてる?」


ロイオ「……あ、ああ」


ねこねこ「じゃ、そいうことで。ぼくは適当に魔法撃って、ロイオごとやるから」


ロイオ「……ツッコむ気が湧かねぇ……ハァー……しくじるなよ?」


ねこねこ「うーん、今のところ一番失敗してる人って誰だっけ? ねえ?」


意地の悪い笑顔を浮かべるねこねこに呼吸を整えたロイオは罰が悪そうに顔を少し背ける。が、すぐに「はっ!」と何か閃いたように目を見開いて顔を戻した。


ロイオ「お前! さっきまで魔法、一発も撃ってなかっただろ!」


失敗することをしてないんだからそれは失敗しないだろう、と続けようとしたロイオの口に人差し指を小悪魔的に当てて、ドヤ顔になるとねこねこは顎を上げる。


ねこねこ「勘のいいガキは嫌いだよ」


ロイオ「ハガレンファンの俺にそのセリフを言うな……にわか、〇すぞ‼」


唇に押し当てられた指を握って押し返しながら怒気を飛ばすロイオにねこねこは変わらず至近距離で煽る。


ねこねこ「ロイオの手は人を殺す手じゃ――」


ロイオ「もう喋らなくていい……この勝負が終わったら、その舌の根から焼き尽くしてやる」


ねこねこ「ヒュー、じゃあ頑張ろっかー」


怒りが閉まったこと一連のやりとりが落ち着いたのを見計らって、口を開く女が一人。


ラキス「ねぇ、もういいかい?」


ロイオ・ねこねこ「「あ、うん、ごめん」」


クロム「……ふ」

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